昔話 ライター修行 その46
★ 超ド級シャネラー②
ちょっと変わっていたのが、沙織ちゃん。
おじいさまが関西系証券会社会長というおうちのお嬢様らしい。愛犬のテリアと運転手兼荷物持ちの彼氏を連れてスタジオにお出ましになったが、そのテリアの耳には、なんと新作のシャネルのイヤリングがついている。
「これ、私とおそろいなんよ~」
といったかと思えば、荷物持ちの彼氏には
「この子(彼氏)に、シャネルやなんてもったいないわ~。プレゼントでも買うてあげたことあらへん」
と言い放つ。
なんと彼女は、シャネルの洋服以外は一枚も持ってない(下着以外ね)そうでシーズンはじめになると、全種類のシャネルのスーツやセーターなどを買い占めるらしい。
「クローゼットがいっぱいになっちゃいませんか?」
と、なかば呆れ、半分心配して聞いてみたが、その答えがふるっていた。
「シーズンが終わったら、ぜ~んぶ売ってしまうから、別にこまらへんけど?」
どうやら彼女には、コレクションして楽しむ感覚はないらしい。気が遠くなるようなお金持ちだけれど、シーズンが終わったら「売ってしまう」という感覚は、やはり関西独特のものだと思った。
イチバン強烈だったのが、スタジオにポルシェで乗り付けたエリちゃんだ。お父様は関西でも指折りの宝石商。スタジオの入り口真ん前に止めた彼女のポルシェが、通行のジャマになるという連絡が入ったときエリちゃんは撮影中。
スタジオマンが気を利かせて
「カギをお預かりして動かしましょうか」
と申し出ると、
「左ハンドルに慣れてないコに、ポルシェ運転されて、傷つけられたらかなんわ。自分で動かす!」
……なんともストレートな性格だ。
海外旅行が大好きな彼女、世界各国のシャネルを巡礼しているらしく、
「アリゾナのシャネルは穴場やねん。安いしな、レアもんもぎょーさんのこっとるし」
ひとつひとつの洋服やアクセサリーの値段を克明に覚えているのもおもしろかった。
「これは23万4000円と消費税。こっちは3200ドルと、8.25%の物品税……」
タグも残っていないのに、すらすらと答えてくれるので、取材がやりやすくて助かった。
しかし、しかし、このエリちゃん、どうやら最初(超ド級シャネラー①で登場)の亜美ちゃんとは犬猿の仲らしい。亜美ちゃんがエリちゃんの前に撮影したことがわかると顔色が変わった。
「ちょっと~、あのコとウチ、どっちの扱いが大きいのん? もしあの子の方が大きく出るんやったら、ウチ、ヤメとくわ」
すぐにでもシャネルグッズをかき集めて退場しそうな勢いだ。
「ええと……。どちらも同じスペースでご紹介しようかと」
「そんならウチを先にして。そのくらいはできるやろ!」
「写真の上がりを見てみないと、すぐにはお答えできませんが……」
するとエリちゃんは、ちょっと考えたあとニッコリ笑ってこう言った。
「ほなら、私の車も撮らしたげるわ。車の中がシャネルづくしやったらインパクトあるやろ。そこまで協力したら、当然、ウチが最初やんなあ?」
帰る素振りは、どうやら脅しだったらしい。関西一のシャネラーの称号が欲しいエリちゃんだもの、女性誌に亜美ちゃんだけが載るのはプライドが許さないようだ。
急きょ、シャネル・ポルシェの撮影が決定した。すでに車の中にはシャネルのスカーフで作ったクッションだの、バッグミラーにぶら下げたシャネルのブレスレットだのと、シャネルがごっちゃり飾られていたが、エリちゃんにとってはまだ不足だったらしい。
「ちょっと待ってな」
というと、シャネルの紙袋でティッシュカバーを作成したり、大きなストールをシートカバーがわりにしたりと、器用に装飾をほどこしてくれた。さっきの高ビーなエリちゃんとは、まるで別人。
そのご自慢のボルシェの前で、シャネルのキーケース片手に満面の笑みでポーズを取るエリちゃん。筋金入りのシャネラーだ。
世の中には、本当にいろんな人たちがいる。世界は広いね~。
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