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体と同じように、心にもストレッチとデトックス。「気持ちいい」エンターテイメントに大切なこと。【屋根裏のラジャー 感想】

いい映画に必要なことってなんだろう。


不完全燃焼だったエンタメ体験があるから、燃え尽きさせてくれる快感がひとしおだったし、なぜ燃え尽ききれたのかを分析するモチベになった。今回はそんな話。

2023年のさいごに観たエンターテイメントに、不完全燃焼感があった。
それは舞台だったのだけど。

心の温度は上がらず、体温も上がらず、終始余計なことを考えてしまった。
あまりに心が動かないので、知らぬ間に私の心は死んでしまったのかと、すこし心配した。

そんな私の心や感性が「ちゃんと生きているよ!」と確認できた映画について書こう。

2023年12月15日公開の「屋根裏のラジャー」

まず、観ようと思った経緯


ひとつめは、君たちはどう生きるかを観に行った時の予告で、「なんだこれは…!めっちゃザワザワする!!怖い!面白そう!」って肌で感じたから。

目がキラキラしちゃう鳥肌っていったら伝わるかしら。

世界観もだけど、謎の男バンティングの声がすごくよい。私の大好きな「こわ・面白そう」な雰囲気!

もうひとつは、幼馴染のAちゃんが制作に関わっているということ。

ちなみに、私は親友が関わっているからという理由だけで観に行く、ということはない。その子との関係性と私の好みは関係ないから。
前に劇場版銀魂の話をされたときも、すごいなーと思いつつ、銀魂が苦手なノリなのは分かっているので観にゆかず、その話もせず。ちょっとの罪悪感。


観るまでの懸念


好きそうなので観にゆくことに決めた元旦。

映画館に歩いて行く途中、私は不安でいっぱいだった。
もし、つまらないって感じたらどうしよう?私はいよいよ何にも感動できなくなっているんじゃないか。
逆に面白くて最高で、劣等感で押しつぶされたら…。とかね。
まぁ邪念が多いのよ。邪念が人の皮をかぶって歩いている、それが私です。

杞憂だった


なんだけども、その心配は無用だった。

映画が始まってからは、私はその世界を堪能することができた。
するぞ!って意気込むのではなくて、惹きつけてくれる。

結論から言うと、4回くらい泣いた。いろんな涙だった。濃い涙だった、と思う。

ここからはネタバレになっちゃう。

隠しつつ愛と感動を語る技術がない。
ごめんだけど、このままスクロールを止めて映画館に向かってください。
読んでしまったら映画の面白さがいささか減る。というか結構減る。まっさらな頭で、期待だけ持って観に行ってください。
読んでから観て後悔することはあっても、
観てから後悔することはないと信じてる。

では、まだ観てないひとは観てきたあとに、お会いしましょう。

(ちなみに、スタジオポノックの前作「メアリと魔女の花」があんまり…だったって人にも安心してお勧めできる。
わたしも観に行ったけど、絵は美しくてよく動くなあ〜くらいの感想だったから。)

ネタバレ含む感想


…みた?

観たね!おかえり!
観てくれてありがとう。

こんないい映画が劇場で観れるのに、テレビとかサブスク公開まで待つのはもったいないからね。

さ、安心して語るよ!
深い考察とかはできないから、ほかのひとに任せた!

美しくて泣く

まず、冒頭シーンから。
アマンダ(主人公)の想像の世界の鮮やかさと美しさに喜びと涙が止まらなかった。

人間はこんなに美しいものが作り出せるんだ…
美しさで泣かせることができるって、信じられないけど、あるんだよなぁ。

(この感覚、マレフィセントの冒頭5分くらいのシーンにもあった。マレフィセントが自慢の翼で空を駆け回るシーン。
気持ちよくて涙がでる。)

ここの鮮やかさが鮮烈だからこそ、ラジャーが図書館に避難したあとに体験する、「(アマンダじゃない人の)想像の楽しい世界」の弱さに共感できるんだよね。

いやこれはすごいんだけど…(アマンダの世界はもっとすごかった)っていう、自分の友達を誇らしく思う気持ち、その誇らしい友達がここにいない絶望感。

気持ちいいエンターテイメントに大切なこと



ここからは、タイトルのとおり「気持ちいいエンターテイメントに大切なこと」に沿って振り返るよ。

気持ちのよさ その1  没入感


こどもだから、目が離せない?

なんというか、目が離せない映画だった。

駆け回る子どもって危なっかしくて目が離せなかったりする。
これって子どもが出てくる映画に共通することかと言えば、全然そんなことはない。主人公が子どもの映画でも、声に違和感があったり、わざとらしいと没入できないのよ。
演技のほうが気になって。

でも、この映画は、目の前に本当のこどもたちがいて、危なかっしくて目が離せなかった。ヒヤヒヤするママの気持ち。(私にはまだ子どもはおらんが)

アニメは、どこまで行っても作りもの。
うそっこの世界。
そこにいかに説得力やリアルさを生み出すか。作り手はかなりその試行錯誤をしてると思う。

ストーリー、絵、キャラクター、演出、音…わたしの知らないそのほかもろもろの膨大な技術を総動員して「本物として伝わる」場面にするために、大人が命かけてる。

そんなことは映画を見てるときは考えないけどね。(そんなヒマないくらいぐいぐい惹きつけてくれた。)とにかく、ヒヤヒヤさせられました。久々のことだよ、フィクションみててヒヤヒヤするのは。

気持ちのよさ その2  緩急が素晴らしい 


この映画のタイミングを司ってる人はきっと
緩急にドSなこだわりがある、と思った。
まさに、息をつかせないってやつ。
ほろりとしたり、ホッとしたりするシーンに、ヤバイ!ってドキドキを重ねてくる。

息をつく暇がないので異世界に飛ばされた主人公みたいな気分になります。ちょ、待って!待って!

感動の涙の気分に浸ってるのに、展開が待ってくれない。人生もそんなところある。無駄にリアル。笑

あとは、大丈夫かな?って思うと、ほっとする描写があり(傘で滝の底から昇ってくるシーン)その安心も束の間、またハラハラさせてくれたり。感情が忙しいんじゃ。

この前のめりとも言えないこともない、テンポのよさはラピュタに通じるところがある。

(石が顔にぶつかって気絶したドーラが、地面にぶつかるギリギリのところで目を覚まして操縦するシーン。あの神がかってるタイミングの絶妙さ。好きな人いるよね!)

気持ちのよさ その3 見事な伏線回収


伏線張りと回収が自然で、気持ちよく罠に嵌らせてもらいました!スッキリ感がやばい。

何気なく頭に情報を残す。(2人の約束とか、冷蔵庫がヘビをやっつけてくれるエピソードとか)なんでだろうとか、とくに思わせないくらいさりげなく。

んで、心がハラハラドキドキしてるときに、その断片を思い出させる。

その見事なこと!気持ちよさといったら!覚えてるけど意識してなかった情報が、繋がっていく快感。伏線回収って気持ちよいものだったわ。



突拍子もない無邪気なこどもの思いつきに振り回されるように、心が振り回されて、息切れして汗をかきながら、おもしろかったね!いまの!って顔をつきあわせて笑い出す。

そんな気分。
爽快感。

その他、わたしの感じたこと


ここからはわたしの個人的な感想。

私のための映画だった…


アマンダの病室でベッドの上の2人が海の中を進むシーン。
Aちゃんや他の友達との、自分の子供時代の空想遊びを思い出してそれにも泣いた。

そのせいか、私へのすごく個人的な贈り物のように感じられて泣いた。(そんなわけないんだが、受け手がそう感じられる作品は熱量が高いと思ってる。曲も然り)

私の「好き」が詰まっていたのもうれしかった。
屋根裏、イギリス、本屋、図書館、美しい景色、冒険、ドキドキ、宝物の入った缶…

これは、私のための映画だ…って。

現実に戻ってきてから感謝が湧いたこと。

わたしにはイマジナリーはいなかったけど、同じくらいわたしの想像につきあってくれる想像力豊かな友達がいたこと。

しかも、消えてない!
大人になって、仕事や家庭、現場の現実の中で生きながら、こんな贈り物を作っている、すてきな友達がいる。
この現実がヤバイわ。

私にはできない形の、大人の遊び


選ばなかった道の素晴らしさに苦しくなる、なんて不安は杞憂だった。

のめり込んで、没入して、夢中になって、泣いて。
わたしにはとてもできないや!って良い意味ですっきりした。
選ばなかった道じゃないわ、そもそも選んでもこれは無理だわ。


アニメーション映画って、気の遠くなるほどの時間と手間がかかる。
去年私が描いた絵は150枚程度だけど、アニメーション映画を作るなら10万を超える作画が必要になる。

どんな素敵なものでも、お腹いっぱいになると飽きてしまう私。
(大抵長くても1年)
完成までに7年もかかるプロジェクトには、とてもじゃないけど同じ熱量では関われない。

膨大な時間と、エネルギーと、手間と、やりとりと、お金と(実際、制作のスタジオポノックは資金とクオリティの維持に苦しみ、2022年に倒産の可能性さえあったらしい。さっき調べて知った)
そういうものを全部投入して、ひとつの作品をつくる。
大人のマジの遊び。

現実と想像は作用しあってる。
仕事と遊びも。

それで、私はどうする?


改めて、自分自身に問うてみる。

私はこの世界でどんな冒険がしたい?
この想像力をつかって。

そういえば、美しい図書館に住みたいって夢があったなぁ。やるか、今年。

まとめ エンタメの役割


108分、たくさん心が動いて、新年のよい心のストレッチになった。

カタルシスなんて言うと、使い古された言葉でなんか嫌だけど、いろんな涙がでて、心がのデトックスにもなったように思う。

ストレッチとデトックス。
体だけじゃなくて心にも必要。
それがエンタメの役割のひとつなんじゃないかなぁ。

ちなみに劇場で映画体験を共にした、見知らぬ埼玉県民も啜り泣いてるのが聞こえた…
期待していなかったけど一体感って気持ちいいわ。
一緒に観れてよかったよ、ありがとう。



気持ちいい映画って燃え尽きること。
その後の人生について一度立ち止まって考える、そんな問いを残してくれること。

胸にくるものを求めているひと
しんどい現実に向き合ってるひと
ドキドキする世界に冒険したいひと
親との関係を見つめ直してるひと
子どものころのきらめきの愛おしさに気づき始めているひと

ぜひ観てきてほしい。
あ、ここまで読んでくれた人は観てきてるね。
ありがとう!

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