【人生、転職やり直しゲーム　第二章 転職と地獄の研修の巻】

【山奥の処女寺(しょじょじ)】

コンビニでの人間観察の後、
バスは高原の山奥に向かって走っていた。
山寺かぁ。
あの、ドラマでたまに見る、
禅の修行で、座って妄想していると、
住職に棒でバシッと叩かれるアレをやるのかなぁ？

…叩かれて何が楽しいのだろう。
俺にはサドとかヘンタイにしか思えないのだが。

それとも、自衛隊の訓練みたいに山の中走らされて、
大声で社訓を唱えるのかな？
駅前で歌を歌わされて、
知らない人と名刺交換して、
もらった名刺に営業電話かけるのかな？
洗脳されたら嫌だなぁ。

でも、俺は就職したい。
たとえ不合格になっても
交通費と研修費は貰えるから、
家賃のために我慢しよう…
俺は自分に言い聞かせた。

バスはうねうねと険しい山道を登っていった。
俺はスキー場に向かうバスもこんなふうに山の中を
登ったなぁ、とぼんやり思った。
やがて、
山の中腹を切り崩して作った平らな斜面に建てられた
大きい山寺にバスは到着した。
山寺と隣の建物が繋がっているようだ。
隣は住居だろうか？

山寺から少し離れたところにも建物があった。
長いえんとつがあるから、火葬場かな。
火葬場に続く道の前には犬小屋があり、
2匹の秋田犬が長い綱で繋がれており、
こちらを見て吠えた。

建物を建てるために山の斜面はかなり削ったようだ。
地震がおきたら崩れないかな？
山寺の駐車場は広く作っている。
駐車場から山の上は、階段があり、その上には
墓地が広がっている。
墓参りが大変そうだ。

小型バスが
寺に到着して、玄関に入ると、
洗脳さんがデカい声で言った。
「靴を、そこのビニール袋に入れて、
玄関の隣の部屋に行ってください」
玄関の目の前には、
よく居酒屋なんかである
昔風の鍵付きロッカーの靴箱があったが、
俺は指示された通りにビニール袋に靴を入れて、
旅行用トランクと一緒に持って
玄関の隣の部屋に入った。

「女の人は、こっちね」
エプロンを身に着けたおばさんが女の子を
玄関のすぐ隣の扉にに誘導した。
俺は女の子2人の全身をチェックした。
1人は、栗色のロングヘアでロングスカート、
身長が高い平田さん。
もう1人はショートカットで、背がちっちゃい、
ジーンズ姿の猫田さん。
正面に回り込み、もっとチェックしたかったが、
俺は洗脳さんに、玄関の近くの部屋に誘導された。

俺が玄関の隣の部屋に入ると、
寺の住職の前で旅行用トランクを開かされ、
洗脳さんに
からだをさわられ、荷物検査をさせられた。
「履いていた靴と携帯と財布と時計と筆記用具とカミソリは
預かるからね」
「えぇ！」
「髭は、研修が終わるまで剃れません」
没収された荷物は、
俺の名前が書いてある大きめのジップロックに移動させられた。

部屋には、
旅館やホテルの客室でよく見かける金庫が
横並びに5個置いてあった。
住職は、
おれの没収した荷物を
真ん中の金庫に入れて鍵をかけた。

新人研修が終わるまでここに閉じ込める気だな。
帰りたいけれど、
寺の窓から外を眺めると、
俺たちを乗せてきた小さいシャトルバスが
寺の前の駐車場から発車した。
逃げるとしたら、
歩いて帰らなくてはいけないのか？
俺は観念して、研修を受ける事にした。

住職が
廊下で皆に言った。
「食事は、1日2食、
寝る部屋は男女別の大部屋です。
2人で1組の布団に寝ます。」

「2人で1組？」
大袈裟さんは露骨に嫌な声を出した。

「24時間、
全て研修のつもりで
生活してください。
旅の疲れを癒すのに、
まず、お風呂に入ってください。
風呂は、大部屋の奥の大浴場です
着替えは、下着以外は、
用意してあります。」

まず、俺は
男用の大部屋に旅行用バックを置いて、
着替えの下着を持ち
大浴場に入った。
たくさんの人が泊まりに来るのだろう。
大きな共同風呂で気持ちが良かった。
外には露天風呂もついていた。
脱衣場には、タオルと着替えが置いてあった。
使ったタオルや洋服、下着を入れるカゴに
ガムテープで張り紙が貼ってあった。

「洗濯表示に油性ペンで名前を書いて
使用済みタオルと一緒に入れてください
ここでは作務衣で過ごしてもらいます」

洗濯機は無い。
着替えは、下着は自前だが、
服は作務衣が置いてあった。
MとLとLLサイズを選べる、
皆同じデザインだ。
俺はMサイズの作務衣を着た。
旅館なんかだと、
皆、浴衣で廊下を歩いていると風流があるが、
この研修は別の目的があるんじゃないかな。
脱走しても
すぐに発見できるようにか？
まるで刑務所だ。
俺は不安になった。

「新人研修始めるぞ。
新人は、広間に集まれー！」
洗脳さんのでかい声が脱衣場まで聞こえてきた。

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山寺でのマインドフルネス風の企業研修の洗脳方法は

こちらの本を参考にしました。

「洗脳の楽園　新装版　ヤマギシ会という悲劇」　米本和広

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