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【学芸員日誌】「森よそだて・いせひでこ『木』のタブローと絵本原画展」のご紹介と見どころ
こんにちは、森のおうちの米山です。
安曇野でも、人里の雑草まで水気を失いパリパリと音を立てるほどの猛暑~残暑の中、この夏の「いせひでこ絵本原画展」にも多くの方に足をお運び、ありがとうございます。
10月2日(月)までの夏の企画展も後半となりました。
現在、2023年の年間企画展テーマ「森よ!」の第3弾として、「森よそだて・いせひでこ『木』のタブローと絵本原画展」を開催中です。
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今回は、この展示のご紹介、みどころをお伝えします。
画家・絵本作家 いせひでこ と、木
いせひでこさんは、スケッチの旅先で出合ったことやものを大切にした作品を描きつづける中から、特に「木(自然)との共存・いのち・子どもの成長」をテーマにしたシリーズを創作しています。
その魂がこもった深みのある内容が、老若男女を問わない幅広いファンを惹きつけている画家・絵本作家です。
いせさんは、いつから木を描き始めたのでしょう?
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絵本『たぬき』(平凡社)の舞台となった以前の家の庭にて
いせさんは1985年『ざしき童子のはなし』、1986年『よだかの星』と宮沢賢治童話の絵本を出版し始めます。
そのために東北に取材に出かけ、何度も重ねたスケッチでは、いつの間にか「木」を沢山描いていたと言います。
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いせさんとの出会いのお話は、名誉館長・酒井倫子が書いた森のおうちnote「【宮沢賢治と私】④~詩人・画家 いせひでこさんとの出会い」をご覧下さい。
意識し始めたのはこの頃だそうで、1987年初版の『カザルスへの旅』(伊勢英子/著、理論社版)でも、東北への旅の記憶として、いせさんが木に注目している様子が分かります。
早池峰の神社の杉、三ツ沢川の黒いシルエットになった低いかん木の林、河童淵の朽ち果てた大木の根っこ、三熊野神社の樹齢1200年という大木……。
私は植物や木の絵を描くのが好きだ、枝の一本一本、葉の一枚一枚を描きながら、小さなものの合体として草を、木を、林を、森をしあげてゆく。総体として、風景としての山や森だけは描けない。大地に一本一本足をつけているものを無視しないで、愛しながら細部から描いていくことで森を創ってゆく時、私の中で森は音と光の総合物となる。そんな時、私は生命を紙の上に創りかえていくのだなあと思う。
そして現在に至るまで、多くの木の物語の絵本を生み出しています。
「木」に注目した原画展
これまで、たくさんの「いせひでこ展」をさせていただいてきましたが、意外なことに、“木”に焦点を当てた展示をしたことがありませんでした。
今年は、満を持して、「いせひでこの木」の展示です!
その上で、2021年の冬から、森のおうちの周辺は、松食い虫対策とそれに伴う倒木対策、松の伐採のための雑木整理によって周辺の木々が無くなり、いせさんは、「これでは、“野はらのおうち”じゃない!」と、私たちと共に悲しんで下さいました。そこで、今年の原画展は「木よそだて」のタイトルがつきました。
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徐々に森は育っています。
企画展の構成
いつもですと、絵本のストーリーも大切に原画をご覧頂きたい当館は、全展展示(展示室をぐるっとまわると、絵本を1冊読める形の原画展示)をしていますが、今回は「木」にまつわるシーンを抜き出してのイレギュラーな展示となっています。
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ポプラ(森のおうち所蔵)のポストカードや冊子の表紙
※森のおうち内「絵本書店 星めぐり」で販売中
いせさん著作の書籍は沢山ありますが、その中から絵本14タイトルが選抜されました。
その中から、さらに数点ずつ抜粋をして、さらにタブロー(1枚で完結してる絵画作品)を組み合わせて、絵本のイメージとはまた違った角度から、それぞれの原画を楽めるようにしています。
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そして、当館の4部屋に分かれている展示室の1部屋ごとにテーマをつけました。
Ⅰの部屋 芽吹き-出会い
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『ルリユールおじさん』『大きな木のような人』『まつり』(以上、講談社)
Ⅱの部屋 木の記憶
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俳句誌「岳」の表紙絵
Ⅲの部屋 語りかける木
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『おさびし山のさくらの木』(BL出版)
『絵描き』(平凡社)
Ⅳの部屋 めぐるいのち
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『こぶしのなかの宇宙』『木のあかちゃんズ』(以上、平凡社)
さらに、廊下やカフェスペースの壁にも、いせひでこの作品が並びます。
そのうち、初展示の作品が2点あります。
タブロー「公園林」と「桜の下には」です。
どちらも1985年に制作のアクリル画。
特に、「桜の下には」は、『ざしき童子のはなし』(宮沢賢治/作、講談社)を描いた頃の作品で、見る人を異次元に引き込むような圧倒感があります。
実際に、ご来館の多くの方がその絵の前で立ち尽くす姿を見ています。
ぜひ、この機会にご覧頂きたい1点です。
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いせひでこさんより展示に寄せて
ちょうど、今回の展示スタートと共に「木の三部作」といえる『ルリユールおじさん』、『大きな木のような人』、『まつり』(以上、講談社)のうちの『まつり』の重版が決定しました。
原画を展示する私たちにとっても、大変嬉しいニュースでした。
その上、講談社さんが、こども、子育て、本、読書にまつわる記事を配信しているWebメディア「コクリコ」にて、展示についてもお知らせ下さいました。
その中でいせさんは、このように寄せています。
思えば、宮沢賢治の取材から始まって、木を描くために旅をし、旅をするから木に巡り合う、の繰り返しのうちに、『ルリユールおじさん』の400歳のアカシアを始め、いったい何冊の「木の絵本」が生まれたことでしょう。
『ルリユールおじさん』取材中、1612年に植えられた400歳のアカシアの存在を知ります。そのアカシアを中心に物語は展開しますが、パリにはもう1本400歳のアカシアがありました。それがパリの植物園の絵本『大きな木のような人』に結晶していき、その登場人物たちを日本に移動させたことによって、日光を中心に日本の伝統的な文化を支えてきた木々の職人たちの物語『まつり』が生まれました。
スケッチの旅は発見の連続です。『風の又三郎』(宮沢賢治)ではリンゴ畑よりもサイカチの木に夢中になりました。サイカチ(ハリエンジュ)の木はトゲがあって登れないのに賢治は、村童たちを川のそばのサイカチ淵の木に登らせていました。作家の間違いに気づくのも、取材の楽しい寄り道です。
その上で、当館の展示をご覧になる方々に向け、
これらの絵本の他、『絵描き』『チェロの木』『木のあかちゃんズ』『わたしの木、こころの木』(以上、平凡社)『おさびし山のさくらの木』(BL出版)、長田弘さんの詩『最初の質問』『幼い子は微笑む』(講談社)などの木々たちもゆっくりご覧ください。
「ルリユールおじさん」のアカシアの夏バージョン(400号)や、森のおうちのアカマツ林の水彩画やアクリル画、1980年代の木々の絵(タブロー)も展示しています。
新作出版前に内容をちょっとのぞける資料展示
いせさんの新作絵本が10月に出版予定です。
次は、『チェロの木』(偕成社)の姉妹本となる「ピアノ」の物語です。
もちろん残念ながら、原画は今、印刷のため出版社・印刷所にあるため、展示できません。
ところが、特別に、絵本が出来上がるまでの構成表や資料、スケッチ、下絵などを展示させて頂けることになりました!
ですので、新作を手に取る前に少しだけ内容がのぞけます。
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断片的な言葉や絵、資料を見ることで、想像が膨らみ、発刊に向けてワクワクがとまりません。
ぜひ、この特別感を味わいにお越し下さい。
展示情報
森よ! VOl.3●2023年7月7日(金)~10月2日(月)
森よそだて・いせひでこ「木」のタブローと絵本原画展
絵描きは旅で出会った、いくつもの「木」の物語を描いてきた。
土の中の種にも、芽吹きの森にも、年老いた大木にも、切り株の跡にも、めぐる命がかがやいている。
いせひでこが、描かずにはいられなかった「木」たち。タブロー作品と、これまで描いてきた絵本原画の中から木が登場するの場面を抜粋して展示。
自然に対しても、人に対しても“こころ”を大切にする絵本作家が魂を込めて描く、さまざまな場所で、それぞれの情景を物語る「木」の展覧会。
【展示作品】
タブロー「400歳のアカシア」「クロマツ」など多数
『チェロの木』 いせひでこ/作・絵 (偕成社)
『ルリユールおじさん』
『大きな木のような人』
『まつり』いせひでこ/作・絵 (以上※3部作、講談社)
『見えない蝶をさがして』
『わたしの木、こころの木』
『木のあかちゃんズ』(以上、平凡社) などから抜粋
絵本美術館 森のおうち
399-8301 長野県安曇野市穂高有明2215-9
TEL 0263-83-5670 FAX 0263-83-5885
開館時間●9:30~17:00※12月~2月は16:30まで(最終入館は閉館の30分前) ※変更日有、当館HP参照
休館日●木曜日(ゴールデンウィーク期間・お盆期間中・年末年始無休)※祝日振替休有、当館HP参照
入館料●大人800円 小・中学生500円 3才以上250円 3才未満無料
これからの関連イベント
・9/16 いせひでこ×舘野鴻 対談 ~「木」と「いのち」と「絵本」
詳細は、森のおうち公式サイトへ
※間もなく定員に達するため、予約締め切り間近です。
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(文/学芸員・米山裕美)
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