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クリスマス、宿り木を飾って

最近の私はというと、インターンシップも始まり、更にヘトヘトな毎日。
そんなある日の帰り道、ふと立ち寄った店でヤドリギを発見した。



ヤドリギ(宿り木)は、他の木に寄生して水や養分をもらい成長する。宿主の木の上部に鳥の巣のような形で寄生している、なんとも不思議な植物なのだけど、欧米ではクリスマスにスワッグなどにして飾る国もあり、"永遠" を象徴することから 「ヤドリギの下でキスをしたカップルは幸せになれる」 とか「ヤドリギの下にいる若い女性はキスを拒むことができない」などとも言われている。

枝には竹トンボみたいな双葉が生え
真珠のような白く半透明の丸い実をつけている



この国に長いこと住んでいるが、今までクリスマスシーズンにヤドリギを見かけたことは一度もなく、やっぱり北の辺境の地ではヤドリギさえも育たないのだろう…と思っていたら、初めて売られているのを見て嬉しくなった。しかも見つけたのは花屋ではなく、ごく普通のスーパーなのだった。


日本でも最近は人気があるらしく、SNSなどで部屋に飾っている人をけっこう見かけるのだけど、日本の方々は一枝、二枝を上品に生けているのに対して、私が見つけたヤドリギはワッサワッサ沢山の枝が無造作に束ねられ、今採って来たばかりという感じで枯れ葉が付いていたり、実もところどころ潰れていて、なんだか扱いが雑な気もするが、値段も手頃だったので喜び勇んで買ってしまった。


ヤドリギの束を持ち帰る道すがら、そうだ!これに似合う花瓶を買うのはどうだろう!と思いつき、時々前を通るガラス店に寄ることにした。
このガラス店というのは、普通の店ではない。
扱っているガラス製品は新品ではなく、ヴィンテージやアンティークで、全てこの国の著名デザイナーたちが1900〜1990年代くらいまでにデザインしたものだ。それらは今ではそうそう手に入らないものもあり、所謂コレクター品なので、気軽に手にできるものではなく、ちょっと敷居が高い。
そして、こじんまりとした店内に入ったら最後、店主とガッツリ一対一になるので、逃げ場がない(苦笑)買う気もなく、ちょこっと見て出るというのは小心者の私には難しい。
そんなこともあり、私はこれまで一度しか中に入ったことがない。

しかし、この日の私はヤドリギを見つけた高揚感もあり、ここ数ヶ月自分なりに頑張ったし、自分で自分へクリスマスプレゼントをしよう!と、いつになく気が大きくなっていた。
店のショーウィンドウは、季節ごとにディスプレイが変わり、この日はクリスマスカラーの赤やグリーンの美しいグラスやプレート、キャンドルホルダーなどのガラス製品が飾られていた。
意を決してドアベルを押す。
出てきた店主は70代くらいの品の良いマダムで、クリスマスにちなんでなのか、赤と黒の配色のブラウスをお召しになっていて、ウェーブのかかった銀髪にとても似合っていた。

「このヤドリギに似合うフワラーベースを探しているのですが」と言うと、「あらまぁ、面白い植物ね」とマダムは微笑み、棚から幾つか深さが合いそうなフワラーベースを出してくれた。
製品には一つ一つ、デザイナーの名前とシリーズ名、製作年を丁寧に手書きした紙が入っていた。
この国の自然からインスピレーションを受けた氷の彫刻のようなフォルムや、特徴的なレリーフ模様が入っているものもあり、手に取り見惚れる。
さすが、どれも独創的でアーティスティックなデザイン。現在普通の店で売られているような品ではない。
やっぱり素敵だなぁ…と、しげしげ眺める私に、マダムが「実際に中に入れて見たら?」と言ってくれたので、ヤドリギを飾って見る。
ついでに値段もチラ見して、やっぱりこっちもなかなかのもんだなぁ…と後ずさりしかけたが、いや!今日は気に入ったものを持ち帰る!と決意も新たに、マダムと一緒に、これはどう?そっちはどう?と、店中のフラワーベースを片っ端から出して見る。
無色のものばかりでなく、白夜の湖を思わせるグレーがかったブルー、ベリージュースのような薄紫色、苔むした森の深いグリーン、光に淡く照らされたイエロー、こっくりとした琥珀のブラウンなどなど、色ガラスも試す。この国のガラス製品の色は華美ではないけれど、薄曇りの空の下で微かに煙っているような、独特の空気感を纏った美しさがある。

どんどん楽しくなってくるなぁこういうのは。ワクワクする。



迷いに迷った末にやっと決めたのは、こちら。



巨匠Tapio Wirkkalaタピオ ヴィルッカラデザイン 1966-1971年に製作された IittalaイーッタラMesiメシという名前のフラワーベース。
Mesiとは "蜜" という意味があり、丸い雫が滴り落ちているようなレリーフ模様が、陽の光に当たると反射し、きらきらと輝いてとても美しい。
ヤドリギの小さな丸い実ともお揃いということで。

さっそくヤドリギを生けてみた。
枝が絡まって葉もポロポロ落ちて大変だったけど、グリーンが映えてなかなか良き。
必要に駆られてではなく、なくても困らないけれど心が浮き立つ物を自分のために買ったのは、とても久しぶりだ。



ヤドリギの枝葉の間から、ポチポチと丸い実がところどころ顔を覗かせていて可愛いらしい。
しかし、この実が潰れるとネバーッと糸を引きベタベタしてちょっと不気味なんだけど(苦笑)
量が多いので、短い枝はいくつか小分けにして飾っている。


スワッグにもしてみた。

以前、切手の記事でも取り上げた
デンマークのクリスマスシールの額装と
一緒に飾ってみた


宿主から切り離されたヤドリギは、自分で給水もできないので、葉がどんどん落ちて日持ちしないらしい。


第4アドヴェントの日曜日は
4本全てのキャンドルに火を灯す


今年のクリスマス、我が家はツリーを飾らないことになったので、代わりにヤドリギを飾ってクリスマス気分を上げている。
窓辺には、こちらの国の伝統工芸であるストロー細工のミニツリーも飾り、やっとクリスマスらしくなった。
今年はもう私の気力がなく、クリスマスのお菓子なども全く作れず、クリスマス料理も夫に丸投げ(苦笑)
私は、おせち料理に全力を注ぎます(笑)


皆さまも、良いクリスマスを!







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