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バイト帰り、いつもの夜道を歩く。僕の住む町はもともと何もないところではあったが、この通りは人や店といった活気が時の流れによって丸ごと連れ去られてしまったような、そういう名残だけを強烈に主張していた。そのせいで、この道は何もないというよりも寂れているという表現の方が的確で、そして不気味だった。かろうじて生き残った街灯でさえ、まばらな明滅ですぐそこに迫った寿命を訴えかけているが、こんな冴えない町の冴えない道を照らす灯りをいったい誰が交換しに来るというのだろう、と疲れた頭で投げやりに思う。
寿命が既に尽きてしまったかと思われた少し先の街灯が、最後の力を振り絞って、とでもいうように一瞬強烈に発光した。丸く照らされた地面に何かがいたような気がして、思わず立ち止まって目を凝らす。黒猫だ。そいつは身じろぎもせず、ただ僕の視線を静かに受けとめ、また僕に静かに視線を寄越していた。僕は間隔をとったままゆっくりとしゃがみ、飽きもせずそいつを観察していた。すらりとした手足、ぴんと立った耳、夜に染められたような色をしたビロードのような体毛。首輪はしていなかったが、汚れているわけでも極端に痩せているわけでもなさそうだった。飼い猫か、野良猫か……。ふと、黒猫と出会うと不幸というのをどこかで聞いたことを思い出した。そんなわけあるか、と心のうちで吐き捨て、僕は足の痺れるまでそいつを眺めていた。

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