第五回 ブランドとデザイン(4) デザイナーと経営トップの二人三脚
これまで見てきたように、デザインを無視してブランドを構築することはほとんど不可能であり、ブランドとデザインは不可分の関係にある。
したがって、デザインの開発とブランドの構築に携わる者の間にも、それと同様の不可分な関係が求められる。そして、その中でも特に重要になるのが、デザイナーと経営トップの二人三脚である。ブランドは企業の理念や哲学とも関わる重要事項であり、その決定権を持つのは経営トップである。その一方で、ブランドを実際の製品の形に落とし込むのはデザイナーである。そのため、本来であれば、両者が常にそばにいて、絶えずコミュニケーションをとりながら作業を進めていく必要がある(注)。
しかし、残念なことに、多くの日本企業(特に、大手の製造企業)では依然として、デザイン部門を製品開発組織の下に位置付けるなど、デザイナーと経営トップとの距離が遠いままである。これは、開発現場での作業の効率性を優先しているためである。
デザイン部門が製品開発組織の下に位置付けられていると、デザイナーと他の開発メンバーのコミュニケーションがとりやすく、効率的に作業を進めることができる。しかし、その反面、デザイン部門のポジションが低くなり、デザイナーと経営トップとの距離が遠くなる。そして、距離が遠くなると、両者の間でコミュニケーションが上手くとれず、デザインをブランド構築に上手く活用できなくなる。
ただし、両者は不可分の関係にあるといっても、対等の関係にあるわけではない。これまでの話からも分かるように、ブランドの方がデザインよりも上位にある。日産自動車デザイン本部長の中村史郎氏(当時)の以下の発言が、それを端的に表わしている。
「エラそうなことを言っているけど、結局、デザインだけじゃなんにもできないんです。デザインっていうのは最終的にモノ選びと一緒で、選ぶ時の基準、つまり会社の基本的なモノ作りに対する考え方がないと選べない。ブランドアイデンティティにのっとったデザインアイデンティティという順番が大事で、デザインだけが先行しても、一貫したモノ作りが出来ないんです。」(『TITLE』2004年1月号、47頁)
つまり、デザインの開発に先立って、ブランドの中身を決定しておくことが必要になるのである。反対に、その部分を決めないことには、これから開発するデザインが目的に適合しているか、不適合かを判断することができない。
注) 経営トップとデザイナーの二人三脚ではないものの、経営トップとクリエイターの良好な関係を考える上で参考になりそうなのが、サントリーの佐治敬三氏と宣伝部や開高健氏との関係である。詳細は以下の書籍等に詳しい(特に『やってみなはれ みとくんなはれ』のあとがきは、当時の宣伝部の雰囲気がよくわかって面白い)。
https://www.amazon.co.jp/やってみなはれみとくんなはれ-新潮文庫-山口-瞳/dp/4101111340/
参考文献
森永泰史(2016)『経営学者が書いたデザインマネジメントの教科書』同文舘
出版。
『TITLE』「このデザイナーに聞け03」2004年1月号、47頁。