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あの子の日記 「とじない花と」

日本のどこかの、誰かの1日を切り取った短篇日記集

「春だから」

そう言い残していなくなった恋人を思い出す三日月の夜。うす雲で見え隠れする細い三日月は、あの子のまつ毛によく似ている。

満開の桜の下で最後に見つめた横顔は、ぼくの記憶から消えていないし、消える予定もないけれど、あの子はどうだろう。もう忘れてしまったかな。

ひらひらと散って地面に落ちていく花びらを見て、「なんか似てない?私たちと」と独り言のようにつぶやいたあの春が、たとえばもう少し肌寒くて、つぼみのまま開かない季節だったら。

たとえば、見頃をねらって行ったあの日が大雨で、つぎの春にもう一度花見に行く約束をしていたら。

ぼくらの未来は変わっていただろうか。

「ぼくら」と呼べる現在が、世界のどこかにあっただろうか。



たのしい Instagram も、やっているよ。

あたまのネジが何個か抜けちゃったので、ホームセンターで調達したいです。