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【企画に携わった編集者より】近刊『これからの線形代数―3重対角化,特異値分解,一般逆行列―』

2024年12月中旬発行の新刊書籍、『これからの線形代数―3重対角化,特異値分解,一般逆行列―』について、企画に携わった編集者のコメントをご紹介します。

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私と一般逆行列の出会いは、遡ること10数年前。多数のパラメータをニュートン法(のようなもの)で最適化していた頃です。

パラメータが多くなると、どうしても寄与の小さいものが出てきます。そうするとパラメータは実質的に不定になり、ヘッセ行列(のようなもの)が正則ではなくなります。

学部生の頃に学んだ線形代数学の教えによると、正則でなければ逆行列が存在しません。したがって、反復法はエラーを吐いて止まってしまうのです。
さあ困りました。

そこでいろいろと試行錯誤が始まります。寄与の小さいものは途中で切り捨てて行列を縮小していくような処理を組み込むべきか…と悩みつつ、数値計算法の本をめくっていたときにそれは現れたのです。

$${A^+ = Q \Sigma P^{\mathrm{T}}}$$ ここで、$${\Sigma}$$は行列$${A}$$の特異値

エウレカ! これで無事解決です。

ただ、改めて考えてみると、逆行列を一般化するのはきわめて自然な発想で、定式化されていないはずはありません。しかし、線形代数の教科書ではその存在すら触れられていないのです。

さて、隣の席に目を向けると、友人が大きな行列を対角化しています。行列が大きくなると既存の線形代数パッケージでは扱えなくなるので、3重対角化してから固有値を求めるのが常套手段のようです。ではどうやって3重対角化をするのか、それが書いてあるのもやはり数値計算の本なのです。

また近年では、データ分析分野において特異値分解が利用されることも多くなっています。この場合も、やはりデータ分析の本で特異値分解を学ぶことになるのでしょう。

もちろん、線形代数学は基礎科目として開講されているものですし、数値計算に資するものであるべきという意見には反対の声も大きいと思います。また昨今では便利な線形代数ライブラリが公開されていますので、わざわざ勉強しなくても問題なく使えるというのも事実でしょう。

しかし、その存在を知るとともに、疑問を感じたときに参照したい本は、数値計算やデータ分析ではなく線形代数学ではないでしょうか。ただ使えればよい、ではなく、その幾何学的な意味をわかりやすく丁寧に説明し、実際に「手を動かして学ぶ」ことで理解を深められるのが本書の大きな特長です。

「これからは、こんな線形代数の本があってもよいのではないか」

それを見事に実現していただいた藤岡先生に脱帽です。

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「授業で習う線形代数」から「工学・統計学で用いる線形代数」への扉を開く一冊。
 
通常、線形代数の授業では、行列の計算といった基礎事項から、線形写像などの抽象的な内容へと進んでいきます。しかしながら、工学や統計学などの応用分野では、大量の数値データを計算機で分析するために、授業では学ばない手法を用いる場面が多くなっています。
 
たとえば、計算機を使って方程式を解いたり固有値を求めるような場合、行列を扱いやすい形にしたり、擬似的な逆行列を考えるといった方法をとります。そこで用いるのが、ギブンス行列やハウスホルダー行列を使ったQR分解、ヘッセンベルク化、3重対角化や、特異値分解、一般逆行列です。本書では、基礎事項の復習から始め、これらの概念を丁寧にわかりやすく解説します。
 
また、具体的な問題と詳細な解答が用意されており、自分の手で計算しながら学ぶことができます。


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