「Be yourself~立命の記憶~Ⅱ」第13話
舞台の裏側
朝早くに、俺は、パソコンに映るSNS画面の投稿ボタンをクリックして、アイのSNSのタイムラインを眺めた。
日本語と英語で、投稿されたものは、イイねを見ると数百、コメント欄は世界中の言語で溢れかえっている。
2画面のデスクトップパソコンから目を離し、部屋の角の仏壇に目をやると、俺はアイの笑顔の写真に話しかけた。
「ほら、イイねとコメント、凄い増えたよ。見る?」
アイの遺影を、手に取り、パソコン画面に向けた時、部屋の扉を開けて、サッカーのユニフォームを着た中学生の長男が声をかけてきた。
「父さん、じゃ、行ってくるね。」
「おぅ!頑張れよ!後でチビ達、連れて行くから。」
「はーい。」
俺は、アイの遺影を置いて、話しかけた。
「サッカー、上手になってきたよ。勝てるように、念、送ってね。」
そして、下の子供たちが起きる前に、洗濯乾燥機を回して、朝食の準備をする為に、部屋を出た。
***
区内のサッカーの試合場の保護者観覧席についた俺は、隣に小学生の年子の二人を座らせて、買っておいたお菓子を袋から取り出した。
チビっ子二人にそれを渡した時、反対側の隣に座っていた男性が、俺に話かけてきたことで、よく知っている人だった事に気付いた。
「こんにちは」
「あ、先生、どうも。先日はありがとうございました。」
「いえいえ、ご主人も長い間、大変でしたね。」
「えぇ、でもね、先生、ウチの奥さん、まだ僕に大変な仕事させてるんですよ。」
「そうなんですか?」
「家内のSNS、ぜひ見てみてください。SNSでも、僕の中でも、まだまだずっと元気なんです、彼女。」
「そうでしょうねぇ。入院中もずっと明るかったし。あんな癌患者さん、初めてですよ、僕。ハハハ。」
そう言って、主治医だった先生が笑ったので、俺も笑った。
「ハハハ!死んでも人を笑わせるなんて、ウチの奥さんらしいわ。」
***
お医者さんをやっているパパ友達の病院に入院して精密検査を受けた私は、主治医の先生と話し合った結果を、子供たちがあまり悲しまないように、上手く伝えてくれと主人に言った。
自分に起こった出来事を、前向きに捉えて生きていく方法を考えて欲しいと思ったし、まずは、親の私たちが背中を見せよう、とも伝えた。
そして、私は、病室にノートパソコンを持ち込み、度々、主人に自宅や外の写真を送ってもらった。
入院中のパジャマから洋服に着替えて、自撮りした写真と、主人が食べたお昼ご飯の写真を合成してSNSにアップする私。
土曜日の昼は、長男のサッカーの練習日。主人に「写真送って」と連絡をした。
私服に着替えてサングラスを頭に乗せバッグを持って、看護婦さんに写真を撮ってもらい、それを合成してアップする。
治療で髪が抜け始めると、ショートヘアーのかつらを買い、スプレーをふきかけ、寝癖ヘアを作った。家の写真と合成し、アップする。
頬がこけ始めて、顔色が悪くなってくると、どうにも写真が上手く撮れないので、病室にヘアメイクさんを呼んだ。
私服で、ベッドに寝たまま、両手で拳を握り、写真を撮ってもらい、家のソファの写真と合成した。
そうやって、合成写真を作り続けた私は、投稿する文章と写真をセットにしてノートパソコン上のフォルダに入れた。
そうして、自分の身体に限界を感じた私は、最後に、主人と子供たちに、その使い方を伝え、ノートパソコンが壊れても大丈夫なように、SNSやブログ、投稿サイト全てのアカウントのIDとパスワードを、付箋に書いた。
***
長男のチームが勝った事で、ホクホクの笑顔になった俺は、サッカーの試合場からの帰り道、チビ達に更にお菓子を買ってあげて、自宅に戻った。
SNSの画面を開いた俺は、タブレットやゲーム機でそれぞれ動画を見ているチビ達の前で、独り言のように、ちょっとした愚痴をこぼした。
「手動で生成してアップするの面倒だなぁ・・、なんかいい方法知らない?」
すると、ちょくちょくと小難しい内容の動画を見ていた小学3年生の次男が言った。
「パパ、AIにやらせたら?」
「それだ。さすが!やってみるかな。」
最近のAIが性能が上がっていると噂になっていたのを知っていた俺は、プログラマーとしても挑戦してみたくなり、画像生成AIの設定と自動投稿のBOTの制作に着手した。
多少時間はかかったものの、完成した、自動で生成される写真と文章、それを投稿するBOT。
その投稿を、ニコニコしながら、家族で眺めていると、俺のスマホへニュースの通知が届いた。
やべぇ。
最終話へ続く
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