🌲🌟昭和、平成の子ども達を満たしてきたパンの味は
シンプルでおいしい。
そして、コスパ最強なのだけど、それを強調したくはない。
(どれくらい最強なのかは、一応、最後に写真と共にまとめました)
コスパのことはどうでもいい。
良心的な価格のパンに詰まった歴史を知ってしまったから。
草津町に来て3ヵ月経ったが、当初からこのパン屋を気に入って、よく買いにきている。
そのうちnoteで紹介しようと思いつつ、またいつでも来れるからいっか!と先送りにしていた。
それに、一番目立つ所に「地酒」と書いてあって、酒屋がついでにパンも売っているようにしか見えない、不思議で渋い佇まい。
面白い何かがあるに違いない!
店の人に話を聞いてから記事にしようと思い、私は質問するチャンスをうかがっていた。
昼間はだいたいおかみさんが一人で店に立っている。息子さんがいる時もある。
「どれくらいお店をなさってるんですか?」
こないだ、ついに、尋ねてみた。
「60年前からなんです」
いつも寡黙なおかみさんが、少し嬉しそうに答えてくれた。
その日は二言程、会話をして店を出た。
気をよくした私は、数日後、今度は疑問に思っていることを確かめるべく、いくつか質問してみた。
きんか堂は、60年前におかみさんの旦那さんがパン屋としてはじめた。
十数年前までは小学校の給食のパンも作っていた。
以前は、中学校では給食がなかったというので、お弁当代りにここのパンを食べていた子ども達も多いだろう。
また、草津町にはハンセン病の療養所があって、そこにもパンを届けていた。
昔は若い働き手がまだいて、従業員を雇っていたこともあるという。
おかみさんは87歳だと聞いてたまげた!
小綺麗で姿勢も良く、とてもそうは思えない。
継ぐ人はいないので、いずれ店をたたむことになりそうだ。
それでも、今は来てくれるお客さんのために、毎日パンを焼いて店に立っている。
「自分の食べていく分くらいは自分で稼がなくちゃ」
そう話すおかみさんには、ただ頭が下がる思いだった。
「私ここのパンが好きです!ピーナッツパンと、コッペパンと、あとブール(丸いフランスパン)も!」
おかみさんに挨拶して店を出る。
この日選んだのはタマゴサンドと、値引きになった75円のぶどうパン。
帰り道、歩きながら私は、この町の人々が辿ってきた歴史に思いを馳せていた。
自然と共に暮らしたくて移住してきたけど、草津町の人々への関心は少しおざなりになっていたかもしれない。
昔からこの町で暮らしてきた人々に敬意を払いたい。
きんか堂のいつものパンが、この日はとても重く感じた。
運がよければ、猫にも会えます。