見出し画像

【読書感想】ヴォネガットファン必読書ーー『読者に憐れみを』を読んで

カート・ヴォネガット スザンヌ・マッコーネル著 金原瑞人 石田文子訳 フィルムアート社 2022年出版

 なかなか分厚くて読みごたえのある本だった。ヴォネガットが残した資料をもとに、彼の長年の親友でもあり、作家、編集者、文芸創作の教師であるスザンヌ・マッコーネルが執筆した書籍。小説を書こうと志している若者に向けて指南書を書かれたと思われるが、読み物として、ヴォネガットの人となりが伝わってきて、この本を読んでからますますヴォネガットを身近に感じるようになった。

 とにかく資料が豊富。大学で学生に出した課題から、親友に宛てた手紙まで、いろんな一次資料が図書館などに保管されていて、その文章の写真が載っている。始めの方に、戦争に行ってたヴォネガットが家族に向けて、生きてますよ、もうすぐ帰りますよ、ということを知らせる手紙はなんかとても歴史的資料に触れている気がした。ヴォネガット若干22歳で、自分が生きていることを知らせるだけの手紙なのに、なんか、すでに、ヴォネガットの文体が確立されていて、戦争中の話なのに、どこかユーモアがあった。ヴォネガットってどこか自分をはす向かいに眺めているもう一人の自分というものがいてそこに彼独自のユーモアが発生している。といっても、ヴォネガットはうつ病に悩まされていた、ともあって、それはとても意外だった。

 姉と姉が結婚した相手が二人とも死んでしまって、幼く残された彼女の子どもたちをヴォネガットは預かって、自分の子含めて計7人の子育てをしたらしい。子育ての様子は分からないが、娘が書いた文章を、とても良い、といって、それが残っていて、この本にも紹介されていたりするのをみたり、他にも子供の証言がとりあげられてたりする様子を読んでると、とても愛されてた父親だったっぽい。でも、フェミニズムの話にもちょっと触れているけど、時代がまだまだ全然そういう時代じゃなかったから、多少理解のない発言などしていたというのも、見過ごされることなく、この女性著者のマッコーネルさんに書かれているのだが、それを読んでたら、そうか、ヴォネガットってそんな昔の人だったのね、と改めて気が付いた。

 というのもヴォネガットの小説はどれも彼のスタイルがもうそのままひとつの小説のスタイルとして完成されていて、それを読んでいると、そんな戦争に行った経験がある人など思えないくらい最近の小説の書き方をマスターしているような気がする。でも、確かに変な科学主義というかそこらへんは戦争から時代の経過をとても感じて、SFなんだけど、SFというより、ヴォネガットスタイルが確立されている。

 ヴォネガットは晩年こんなことを言っていたらしい。

 「偉大な文学作品はすべて[...]人間であるということがいかに愚かなことであるかについて書いている(誰かにそういってもらうと、心からほっとするだろう?)」p. 227

 私はなんだか、ヴォネガットにそういってもらえることが嬉しい。そしてほっとする。

 この本はヴォネガットファンブックみたいなところがすごくある。小説家になりたい人が読んでなにか参考になるというか、一人のアメリカ人の小説家の生き方を知るような感じだろう。ヴォネガットファンは読むべし。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集