店主との交渉で勝ち取った?アンティーク小箱
前回に引き続き、今回もフランス・ストラスブール留学時代に私の元へやってきたお品のお話。
フランスに留学したことで「古いもの」が好きになった私は、蚤の市に夢中になった。フランスならばどの街でも蚤の市は開催されてて、私の住む街ストラスブールでは、夏季は水曜日と土曜日の週2回、街の中心広場で開かれていた。色々な人が色々なものを持ち寄って、自分のテーブルや地面に並べて売っている。レトロな扇風機やラジオ、アンティークの刺繍の布に精巧なカメオ…。ひとつひとつに物語がありそうな品々に、私の心は掴まれていった。
学校の合間を縫って、ほぼ皆勤賞なのではないかというぐらい、毎週飽きずにせっせと通った。といっても学生の身分、毎回買えるわけではなく、ただ眺めるだけで満足する日々。
様々なお店が立ち並ぶ中、私にはずっと気になっているお店があった。そこは中年の女性が店主で、机の上には所狭しと「小箱」が並べられているお店。白いセラミックに色とりどりの花模様がかかれているもの、シルバーで美しい彫りが施されたもの、大きさも形も素材も、本当に様々だった。
私が目を奪われたのは、ブルーのエナメルの猫の小箱。箱に猫が描かれているのではなく、箱自体が猫型で、ブルーは目が覚めるような濃いブルー。そして猫ちゃんは、所々ピンク、赤、水色の独特な色使いで塗られている。
一目見て、「高いだろうな」と思った。高い、といっても学生のいう「高い」だから4~5,000円ぐらい。それでも忘れられない私は、ひとまず様子を見ることにした。何せ蚤の市は週に2回あるのだ。通う度にそれとなく女性のお店を通りがかり、「よし、今日もいるな」と確認する。そんなことを何度か繰り返し、数週間後、私はついに決意した。
意を決して店主に話しかけ、まずはお値段を確認。肝心の値段は正確には忘れてしまったのだが、予想通り「高い」と思ったことだけは覚えている。ただし予想の4,5000円よりは若干安く、確か30ユーロぐらい(当時のレートで3,000円程)だった。店主曰く、この猫ちゃんは1920年代フランス製らしい。「うーん」と悩む私を尻目に、店主はほかの小箱についても説明を始めた。
「これはすっごい古いの!こっちはイギリス製でこっちはロシア製…」
と机に並ぶほぼ全ての小箱の由来を説明してくれたのだが、アンティークやヴィンテージのことをあまり知らない当時の私は、「えー、絶対いくつかテキトーだよー」と思ったのだった。古い物なんて身近にない、典型的な現代日本人だったのだから仕方もない。
さて、肝心の猫ちゃん小箱だけれど、値段で悩む私に店主は、「2つ買うなら安くしてあげる」と持ち掛けた。どんなに安くしてくれるって言ったって、1つ買う時より安くなることはないんだから、と今の私なら即座にやめるが、当時のピュアピュアな私は店主の口車に乗せられて、半強制的にもうひとつ小箱を選ぶこととなった。当時の私、そこもう少し頑張って…。
そんな超消極的な経緯で私の元へやってくることとなったのが、鷹の小箱である。精悍で、「絶対値段は下げん」と店主のセリフを代弁してきそうな顔つきの鷹が、蓋に描かれている。でもその一方で、絵のタッチはまるで色鉛筆で描かれたように細い線で繊細さを感じるものだった。技法は分からないので、分かる方がいたらぜひ教えてほしい。形は円型で、周囲は螺鈿が貼られている、中々素敵な小箱だ。こちらはナポレオン3世の時代(19世紀半ばから後半)のものだそう。
ちなみに、猫ちゃんの値段を下げてもらうために選んだ鷹なのに、猫ちゃんの値段は下げてあげるが、こっちは絶対だめ!ということで、猫ちゃんを半額で、鷹を元の値段で買った。
ええ、薄々気が付いている…これは本末転倒ってやつ。
猫と鷹、ミスマッチな組み合わせだけれど、私の中ではベストフレンドということにしている。
・愛用歴:10年