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道徳科での「ちょっと気になるあの子」の学びの具体

道徳科に限らない話ですが、私たち教師は「ちょっと気になるあの子」と、どのように授業を紡ぐかに心を砕きます。この前提を理想論にしてしまわないために、授業そのものを機能させる策を考えるわけです。具体的にどう紡いでいるかについて、数年前の記録を引っ張り出してみました。

「世界最弱のヒーロー,アンパンマン」(文溪堂5年生)を使って「公正公平・正義」について考えたときの記録です。
子どもたちの「正義」についてのイメージと認識をもとに,「正義を可能にするものは何か」について考えを深めることで内容項目についての理解を深める授業を構想して実践しました。

(以下、1人の児童の動きと思考に着目した記録)

T:「正義」と聞いて、どんなイメージが連想される?
G:(なんとなくぼっとしつつ、副読本をパラパラめくる)

T:みんなが考えた「正義ってこういうことかな」っていう4つのなかで、自分はどのイメージに近い?
G:わかりません!
T:う〜ん、Gくんが正義って感じるのがこの中のどれに近いかってことなんだけど、今の自分の考えに一番近いのを選んでみてよ(ひとつずつ読んで確認)
G:1番かなぁ。でも、なんか、わかりにくい。
T:うん、それは素直なとこだろうねぇ。そこで今日は、「正義って何だろう。正義について考えよう」ってテーマで話をしてみようか。じゃあ、教材を読みます。
G:(教材文をボーッと眺めながら聞く)

T:なぜ、初代アンパンマンは、誰からも尊敬されないのに、あんパンを配り続けたの?
G:(教材を眺めているものの、心ここに在らず...な雰囲気)

T:ところで、アンパンマンは、お腹がすいた子がいたらどうする?
G:(さっと顔をあげて)顔をちぎってあげる!

T:そんなアンパンマンのことを、やなせさんは、「世界最弱のヒーロー」って呼んでいるんだよね。
G:はあっ?どういうこと?意味わからん。(内心、「その反応を待ってたよ。今日もいい仕事をするねぇ」と思いながらも、表情には出さず...)

T:では、みんなGくんの疑問から考えを深めてみようか。なぜ、アンパンマンは「世界最弱」なのに「ヒーロー」なんだろうね。自分なりの思いをひとつ書いて、そのあと友達と考えを交流して学び合ってごらん。さあ、始めよう。

G:(う〜んと唸りながらも)あっ、わかった‼ 
G:(「バイキンマンは強いし、それに比べてアンパンマンは弱いから、本当は闘いたくない。けど、放っておくこともできない」と書いて、友達のところへ向かう)

G:(何人かと話した後、私のところへ来る)先生、わかったで!(自分の考えを話す)
T:なるほどね。放っておかないんだね。それがGくんの「正義」が現れた姿なのね。でも、簡単にはできないでしょ?
G:うん、だから、勇気がないとできん。
T:おーっ、Gくんの「正義」には勇気が大切なんだね。
G:そう、絶対に勇気がいるもん!(満足そうに席に戻る)

(意見交流後)
T:さあ、なぜ「世界最弱」なのに「ヒーロー」ってどういうことか、自分なりに納得できた?
G:(挙手して4番目に発言)「正義」って、困っている人を放っておけないってこと。自分でも、他の人でも。でも、そうするためには、絶対に勇気がいる。勇気をもってできるから、弱くても正義なんだと思う。

T:「正義」って何か?について考えるなかで、正義についてや、正義のために大切なことが見えてきたみたいだね。では、今日の学習で考えたことを書いて、まとめにしよう。

G:「自分が放っておけないって思ったことをするのが正義。そのためには勇気がいるけど、立ち向かっていけると思う」


「ちょっと気になるあの子」こそ、授業の中核に据えるに値する問いをもっている可能性があることを、私たち教師は心に留めておきたいものです。

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