木原一彰

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『オリジナル地域教材でつくる「本気!」の道徳授業』の読後感想

この本の編著者の一人である藤原友和先生との出会いは、いくつもの偶然がもたらしたものでした。尊敬する実践家の一人である大野睦仁先生と藤原先生とがclubhouseで対談しておられたのを拝聴したことがきっかけでした。そのなかで、この本でも紹介されている岡田健蔵氏の人物教材づくりの話をしておられ、私なりの雑感をお返ししたことから、交流が始まったという次第です。(ですから、まだ、直接お目にかかることはできていません) この本は、編著者の「なぜ地域教材の開発が必要か」という切実な問題

    • やっぱり、私は斬れない男...

      このところ、若手や中堅の先生方の論考を拝読した際に、「どうぞ斬ってください」と言われることが増えました。 「気付いたことがあれば指導して欲しい」ということだとは理解した上ですが、やはり、私は「斬る」ということは(特定の場合を除いて)苦手ですし、できればやりたくないと考えてしまいます。 自分なりの問題意識をもち、虚心に自己を見つめ表現しようとした人に対して、私がその論考を「斬ろう」としたならば、最後は「斬る」だけではなく「切り捨てる」ところまでやってしまうのではないか...

      • 閃きは、ある日突然に‼️

        給食を食べ終えた子が、静かにコミカルにソロソロと歩いていた。その姿がなんとも可愛らしくて... 思わず「いやぁ、普段なら気に留めないでおこうとするところだけれど、そりゃアナタ、思わず声をかけてしまうでしょうよ」と話しかけた。 それを聞いた別の子(普段から何事にも理詰めで認識し理解しようとするタイプ)が「先生、なぜですか?」と聞いてきた。 「いや、今の声かけは、何かしらの理屈があってじゃなかったなぁ。君も私もどちらかというと、ある種の理屈があって判断と行動を取るタイプだけ

        • 道徳科での「ちょっと気になるあの子」の学びの具体

          道徳科に限らない話ですが、私たち教師は「ちょっと気になるあの子」と、どのように授業を紡ぐかに心を砕きます。この前提を理想論にしてしまわないために、授業そのものを機能させる策を考えるわけです。具体的にどう紡いでいるかについて、数年前の記録を引っ張り出してみました。 「世界最弱のヒーロー,アンパンマン」(文溪堂5年生)を使って「公正公平・正義」について考えたときの記録です。 子どもたちの「正義」についてのイメージと認識をもとに,「正義を可能にするものは何か」について考えを深める

          現場の視点から,教育哲学について考える~「大きなものさし」と「小さなものさし」~

          わたしたち現場の実践家は,迷いのなかに埋もれがちな日々の実践に関して,あるべき姿に近づける道を模索しています。そのなかで,自分のうちにある幾つもの「ものさし」を使いながら,その道に光を見つけようとしています。 わたしたち現場の実践家が用いる「ものさし」の多くは,「小さいものさし」であることがほとんどだと思います。それは,教育現場が直近の状況において求めわれる尺度には,「小さなものさし」が適しているからであると考えます。 しかし,教育の根幹に関わる部分については,「大きな流

          現場の視点から,教育哲学について考える~「大きなものさし」と「小さなものさし」~

          道徳科の学習と心情との関係を整理してみる

          昭和33年の道徳の時間の特設以降、特に生活指導主義と価値主義の対立を経て、道徳の時間の学習は資料の主人公への共感的理解を中心とした授業過程が広められ、定着していった。 その大きな要因のひとつとして、瀬戸真の講演内容を新潟県立教育センターがまとめた「価値の主体的な自覚を目指す指導過程」が、道徳授業の雛形として広められていったことがあげられる。この展開例の多くが、感動教材を利用し、道徳的心情からねらいに迫るというものであった。これが「道徳授業=心情追求」という方向付けに大きな影

          道徳科の学習と心情との関係を整理してみる

          「若手教師が陥りやすい」道徳科授業の落とし穴

          ・ 教材だけに目が行く  本時の授業で扱う教材文だけに目を奪われ、学習指導要領に示されている内容項目を読まないで授業に向かおうとするパターンです、本時の授業の基盤となるねらいを明確にするためには、学習指導要領解説編に示された内容項目を確認していくことは、授業を構想するためのスタートラインだと考えます。 ・ 指導案を軽視しがち  指導案は、教材研究のあゆみそのものです。「教材」、「児童・生徒」、「教師」の3つの関わりで授業は構想されますが、教師が教材をどう価値づけ、児童・生徒

          「若手教師が陥りやすい」道徳科授業の落とし穴

          「登場人物への自我関与が中心の学習」に思うこと

           文部科学省が取りまとめた、「「特別の教科 道徳」の指導法と評価について(報告)」の中で、考え、議論する道徳の推進に向けて、「問題解決的な学習」や「体験的な学習」と並んで提示されているのが、「登場人物への自我関与が中心の学習」です。  この指導法、気を付けないと、従来の「心情の読み取りに終始する学習」と何も変わらないといった状況を生んでしまうことになります。ポイントは、パターン例として提示されている「教材を読んで登場人物の判断や心情を類推することを通して、道徳的価値を自分と

          「登場人物への自我関与が中心の学習」に思うこと

          教材研究のポイント⑤ 教材に対する理解を深める

           教材がもつ意義と意味をふまえて授業を構想するためには、単に教材文を読むだけではなく、その教材の背景にあるものや社会との関わり、歴史的な事実などをふまえ、教材そのものへの理解を深めることが重要です。  この指標における最初のレベルは「教材に示された事象やその背景を知る」ことです。例えば、「いのりの手」や「小川笙船」など、実話や具体的な人物をもとにした教材の場合、その教材のもつ事実や背景を知ることが、教材に対する理解を深める第一歩となります。  また、「泣いた赤おに」や「花さ

          教材研究のポイント⑤ 教材に対する理解を深める

          教材研究のポイント④ 児童生徒の実態を把握する

           みなさんが学習指導案をどのような過程で作成していくかについて、思い出してみてください。どの教科の学習指導案も、最初に主題設定の理由を書くと思います。そして、その項目のひとつに、必ず「児童の実態」を書くのではないでしょうか。  授業とは、「子ども」、「教材」、「教師」の三者の相互作用による営みによって成立します。ですから、教材に対する教師のアプローチは、子どもたちの学びの様子や道徳性に関する実態と、密接に関連する必要があります。  子どもたちが学習するということは、教材とし

          教材研究のポイント④ 児童生徒の実態を把握する

          教材研究のポイント③ 他の内容項目との関連を考える

           教材の中心をなす道徳的価値について、その内容項目を階層的にとらえて多様な思考を保障するのが、「多面的な見方」とするならば、他の内容項目やそこに含まれる道徳的諸価値との関連から多様な思考を保障するのが、「多角的な見方」だといえます。 この指標における最初のレベルは「関連しそうな道徳的諸価値が含まれる内容項目を想定する」ことです。  例えば、「個性の伸長」の学習を構想したとき、その生き方を支えていた思いについて考えを深めると、「自分のよさを伸ばす」や「短所を改める」といった内

          教材研究のポイント③ 他の内容項目との関連を考える

          教材研究のポイント② 本時の内容項目を理解する

           道徳科の教材研究をするうえで、本時の中心となる内容項目と、そこに含まれる道徳的価値についての理解を深めることは、必須条件です。  ところで、内容項目と道徳的価値とのちがいについて考えたことはあるでしょうか。『学習指導要領解説 特別の教科 道徳編』では、内容項目は、「児童が人間として他者とよりよく生きていく上で学ぶことが必要と考えられる道徳的価値を含む内容を、短い文章で平易に表現したもの」とされ、道徳科の学習で扱う内容を示した項目のことをいいます。つまり内容項目は、その内容

          教材研究のポイント② 本時の内容項目を理解する

          教材研究のポイント① 道徳的問題を的確にとらえること

           道徳科における教材には、本時の学習で追求する道徳的問題が含まれています。その道徳的問題を、教師がどのようにとらえるかが、授業の成否の鍵だといえます。  道徳的問題を的確にとらえるというこの指標における最初のレベルは、「道徳的問題を見つける」ことです。これは、教材に対する見方を明確にすることによっておのずと明らかになります。  道徳科の教材の多くは、本時の学習で扱う内容項目が明確になるようにするという性格上、その内容項目に沿った議論ができるような仕掛けがあるものです。主人

          教材研究のポイント① 道徳的問題を的確にとらえること

          道徳科教材研究の出発点 ~教材に対する見方・考え方の5つのポイント~

          道徳科の授業力を向上させたいと考えたとき、まず初めに思いつくのが、「教材に対する見方や考え方を深める」ということでしょう。この「見方や考え方」という言葉をよく使いますが、そこにどのような意味があるかを考えているでしょうか。 道徳科で「教材に対する見方」といったとき、私は、教材そのものがもつ意義を見出すことに意味があると考えます。授業である教材を用いようとするとき、その教材のもつ価値観やメッセージ、テーマ性をとらえようとします。『手品師』の場合なら、誠実に生きることについて、

          道徳科教材研究の出発点 ~教材に対する見方・考え方の5つのポイント~