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【読書記録】坂の上の雲 三

ポイント

  • 相手を見下し追い詰めると痛い目を見る

  • 人事は過去の実績や感情ではなく合理的に判断する

  • 強大な相手にも弱点はあり、研究し、諦めないことで勝機は見える

本のこと

日清戦争から十年ーーじりじりと南下する巨大な軍事国家ロシアの脅威に、日本は恐れおののいた。「戦争はありえない。なぜならば私が欲しないから」とロシア皇帝ニコライ二世はいった。しかし、両国の激突はもはや避けえない。病の床で数々の偉業を成し遂げた正岡子規は戦争の足音を聞きつつ燃え尽きるようにして、逝った。

新装版 坂の上の雲 (3) (文春文庫) (文春文庫 し 1-78) https://amzn.asia/d/6R53tg7

感想

正岡子規が亡くなり、日露戦争が始まった3巻。

たくさんの登場人物が出てくるけれど、主人公の一人、秋山好古に魅力を感じます。

戦場でも軍刀を持たないところとか、戦場でブランデーを飲みながら寝るところとか。

色んな漫画やゲームで出てくる、「普段やる気ないけど強い」みたいな。

好古以外の人物にも見られたことですが、

リーダーが最前線や現場に立つことでチームの士気を上げる

ということは、今のチームにおいても肝要といえることではないかと思って読んでいました。

どうにも、頭だけを使って指示して汗をかかない人が多い気がしています。

私の尊敬する人は、一緒に悩み、汗をかいてくれます。

そうして現場の苦労を共有してくれるからこそ、尊敬したり、慕われるのではないでしょうか。

また、この3巻では日露戦争が開戦します。

そして、いかにロシアが強大で、当時の日本軍との間に大きな差があったかを痛感しました。

ただその中でも、著者はロシアと日本の「戦争への意識の違い」について比較することが多くありました。

当時、維新から間もない小さな国である日本にとっては、強大なロシアとの交渉はなんともヒリヒリしたものでした。

かたやロシアは、「日本がまさか挑んでくることはないだろう」と考え、戦略や戦術もそうですが、兵の士気に差があったと、本書内で書かれていました。

どれだけ大きな敵でも、必死に研究し、準備すれば、完勝とはいえなくても負けないところまではもっていけるかもしれない。

これも、現代のビジネスにおいても同じかもしれません。

相手を見くびってかかるのは言語道断です。

何事も準備がすべて。

最後に、本書で印象的だったのは「人事」です。

山本権兵衛は、当時の軍内の配置を刷新しました。

維新で勝った側にいたという理由で選ばれていたような人を、過去の実績や家柄は無視して、首を切っていきます。

艦隊司令長官を東郷平八郎に任命するときも、前任の日高壮之丞に対して、「東郷は才能は君に劣るが、職務には東郷の方が適している」という理由で説明します。

これについても、日々会社で働く身として、共感できる部分でした。

社歴や過去の実績でポジションを得ることが多いですが、適材適所かというと、別問題。

誰に何をしてもらうかという人事配置は、働き手が減っている現代においてはとても大切なことです。

小説ながら、得るものは多く、考えさせられる素晴らしい本です。

なにより、小説として、本当に本当に面白いです。

全8巻の、今は3巻。

残りが楽しみ。

メモ

秋山真之「白砂糖は、黒砂糖からできるのだ」(p12)
真之は過去の海賊の戦術から学びを得て海軍戦術に活かした。
今も昔も、本質的には変わらないことが多くあり、過去の例から学ぶことは意義がある。

日清戦争から日露戦争にかけての十年間の日本ほどの奇蹟を演じた民族は、まず類がない。(p45)
日清戦争から日露戦争の間に日本が大海軍を作り上げたことは、当時の狂気とも言える国家予算組みがあったからだが、それは国民が貧困に耐えたからであり、日本人はそれができる国民でもあった。

山本権兵衛「功労者には、勲章を与えればいいのです。実務につけると、百害を生じます」(p52)
明治26年、山本権兵衛の大量首切り。
過去の実績と、今必要な能力とは切り離して考えないといけない。
合理的な考え方に共感。

東郷平八郎「俺の負けじゃ」(p58)
山本権兵衛と東郷平八郎のマスト登り対決。
山本の圧勝だが、勝負が決しても最後まで途中で止めなかった東郷平八郎を、山本権兵衛は高く評価した。
勝負が決したとみえても、最後まで何があるかはわからない。
だから、将官にはしぶとさが必要だ、という考え方。

山本権兵衛は海軍建設者としては、世界の海軍史上最大の男の一人であることはまぎれもない(p58)
山本権兵衛は、中国の艦隊に勝つために、研究し戦略的に艦隊を揃えた。
大きいが鈍い中国艦隊に対して、小さくて速い艦隊を設計。
大きな相手でも弱点はあり、自分たちの戦力をどう配置するかで、勝敗は変わる。

西郷従道「二人が死んで主力艦ができればそれで結構です」(p64)
西郷従道が、軍艦三笠を海外に発注するための予算がないことを悩んでいた山本権兵衛に言った「違憲だがやろう。ダメなら二人で腹を切ろう。二人の死で主力艦ができるならそれで結構」という言葉。
肝の据わっている。
現代にこれほどの覚悟で仕事に向かう人は少ないだろう。

伊藤にあっては、理想と現実が、つねに調和していた(p90)
伊藤博文は理想と現実が調和した人物だった。
「現実に重きを置きすぎるのは単なる商人で、理想の比重が重すぎる人は、単なる願望者か、詩人か、現状否定のヒステリー的な狂躁者になりがちである」という旨の著者の言葉が刺さった。
また現実を受け入れて自分の意見をすぐに改めるところも、伊藤博文のすごさ。

ワンノフスキー「日本陸軍は、乳児軍である」(p96)
当時の駐日ロシア陸軍武官ワンノフスキーの日本への評価。
戦う相手を正しく見定めることの大切さを痛感する。

秋山好古「とくにロシア騎兵は、ええ」(p137)
国は違えど、騎兵という同族グループの仲間とみて好古と酒を交わすシベリアの騎兵。
戦争はどちらかが悪とは言い切れないものかもしれない。

山本権兵衛「なるほど東郷は、才は君に劣る」(156)
艦隊司令長官を日高壮之丞から東郷平八郎に変えることについて、日高本人へ山本権兵衛は「東郷は才能は日高に劣るが、本営からの指示を忠実に守る。個人の友情を国家の大事に代えることはできない」と言った。
人には適所がある。
才能の有無と優劣は違う。

伊藤博文「事ここにいたれば、国家の存亡を賭して戦うほか道はない」(p185)
アメリカへ戦争時に好意的に仲介してもらうための交渉を任せられた金子堅太郎。
そんな金子に伊藤博文が言った言葉。
日本に戦争する力はないとみて強気な外交を進めるロシア。
追い詰められた日本が窮鼠になっていく。
完勝する見込みはないが、六分四分に持ち込み、調停者を待つという日本の思惑に、当時いかにロシアが巨大な相手だったかを感じる。

山本権兵衛「まず日本の軍艦の半分は沈める。人も半分殺す。そのかわり、残り半分をもってロシアの軍艦を全滅させる」(p188)
かなりの犠牲を伴う覚悟をしなければならないほど、ロシアは巨大な相手。
しかしこれくらいの覚悟があったからこそ、ロシアと戦えたのかと思う。
当時と今との感覚の違いに驚く。
今の日本にいて戦争の危険を実感することは少ない。
でも、歴史は奪い奪われの連続で、世界ではそんなことが今もある。
日本はいつから、そしていつまで平和なんだろう?

島村速雄「すべて君に一任する」(p213)
島村は秋山にそう言い、その通りにした。
自分を過信せず、プライド持たず、冷静に対応する。
功名主義は危険。
部下の功績は素直に認めて公表する。
上も下もなく能力を認めて褒めることができる島村の懐の深さを尊敬した。

森山慶三郎「勝つべくして勝っただけです」(p226)
仁川攻撃の際、ワリャーグとコレーツを討つため、大型艦の浅間を待機させていた。
勝負を挑むなら、勝てるように最善を尽くしてから。

秋山真之「作戦ほどおそろしいものはない」(p257)
秋山真之は日露戦争後、「僧になって、自分の作戦で殺された人々を弔いたい」と言った。
自分の作戦で人が命を失うことに重責を感じていたのだと思う。

広瀬武夫「このいくさは勝つ」(p259)
旅順港の入口を、艦を沈めて塞ぐ閉塞作戦。
助からない見込みの高いこの作戦に、下士官以下の人員として二千人が応募した。
その中から肉親の係累の少ない者という基準で、67人か選ばれた。

広瀬武夫「わが親しい友よ、健やかなれ」(p267)
広瀬武夫は、ロシアに駐在していたときに知り合い、慕われていたヴィルキツキー少尉と、旅順で戦うことになってしまう。
閉塞作戦に向かう直前の艦内で、同じくロシアで知り合い手紙を交わしていたアリアズナという女性と、ヴィルキツキーに向けた手紙を買いた。
お互いに国を守るために戦うが、個人の友情には変わりないという広瀬の想いに、胸が熱くなった。

秋山好古「名誉の最後を戦場に遂ぐるを得ば、男子一生の快事」(p289)
弟真之へ宛てた、好古の手紙。
功名を断じて顕わすな、とも言う。

秋山好古「おれがみがきあけた日本騎兵がおれの軍刀だ」(p293)
日露戦争への動員が決まったが、軍刀を持っていかず、演習用のサーベルしかもたない好古。
指揮官としての矜持が垣間見える。

全員に戦略目的を理解させたうえで戦意を盛りあげる(p326)
ロシア軍の海軍中将マカロフは、水兵まで戦略を伝えて、自分が何をしていて、何をすべきかを悟らせることで、士気を大きく上げた。
また彼は自ら走り回り、柔軟にものを考えた。

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