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「聞き手は名監督!?できる人のユーザーインタビューの備えとは」

新規事業開発において、ユーザーインタビューやアンケート調査は不可欠なプロセスですが、多くの社内起業家が「調査が終わらない」という共通の悩みを抱えています。

MOONSHOT WORKS株式会社のCEO藤塚洋介が、70以上の新規事業開発プロジェクトに携わった経験から、この問題の本質と解決策を詳しく解説します。

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社内起業家の「あるある」悩み

まず、典型的な悩みのシナリオを描いてみましょう。

大手製造業で新規事業開発チームのリーダーを務めている山田さん(仮名)は、新しいアプリのアイデアを思いつき、ユーザーニーズを確認するためのインタビュー調査を開始しました。

しかし..よく考えたら止めるタイミングがわかりません。

・30人にインタビューしても、まだ足りない気がする。
・同じターゲットでも意見が分かれ、結論が出せない。
・調査を重ねるほどデータが膨大になり、分析に行き詰まる。
・上司からは「もっと多くのサンプルが必要だ」と言われる。


結果、調査開始から3ヶ月が経過しても、次のステップに進めないまま...。

インタビューのケースでは、20代から40代の子育て世代と65歳以上の高齢者の両方にインタビューを行ったところ、意見が大きく分かれ、どちらのニーズに焦点を当てるべきか判断できずに、さらに半年以上も調査を続けることになってしまったのです。

このシナリオ、どこか心当たりはありませんか?

なぜ調査が終わらないのか?

新規事業開発における調査の難しさは、統計学的に有意なサンプル数を集めることだけが正解ではない点にあります。

新規事業の成功率を上げるカギは「スピードと柔軟性」にあるのです。
我々の経験では、調査が終わらない主な原因は以下の4つです:

  1. 検証したいターゲットが不明確で幅広い層になっている

  2. 調査したい仮説の解像度が荒すぎる状態でインタビューを開始

  3. ターゲットではない人のインタビュー結果に惑わされている

  4. 調査の「完了条件」が設定されていない

例えば、あるメーカーの新規事業チームは「健康志向の若者向け新商品」という漠然としたテーマでインタビューを始めました。
しかし、「健康」の定義が人によって違ったのでチームが考える「健康志向ではない若者」のインタビュー結果に惑わされて元々の仮説を変更しようとさえしていました。

また「若者」の年齢範囲も明確でなかったため、インタビューを重ねるほどに混乱が深まってしまいました。

効果的な「調査設計」とは?

高度経済成長期のターゲット像では不十分

これらの問題を解決する為には曖昧な調査をいかに科学的に進めるか、「小さな一歩の積み重ね」を重視するものです。

Step 1: ターゲットの定義はこう変える


1.検証したいターゲットが不明確で幅広い層になっている
このケースでは残念ながら、検証したいターゲットの属性の考え方が間違っている場合がほとんどです。

よくあるターゲットの考え方

・B2C(個人向けビジネス)
「30代男性」「関東エリア」「会社員」

・B2B(企業向けビジネス)
「中小企業、XX部署、30代社員」
「XX業種の、1000人以上の大企業のXX部署」

このような感じですね。みなさんはいかがでしょうか?
これも完全に間違いではありませんが、残念ながら不十分です。なぜでしょうか?

実はこのようなターゲットの決め方は、高度経済成長期の物売り時代のターゲットの名残なのです。

当時、メディアは新聞かTVに限られ、チャンネル数も少なく、みんなが同じような番組を見ていました。

学校での話題は「昨日あの番組みた?」「みたみた!」のような感じです。
〜1980年代生まれの方は「そうそう」と思って頂いているのではないでしょうか?

インプット情報のばらつきは少なく価値観はおおよそ似ていたので、当時だとこのくらいざっくりしていても、同じような行動や価値観を持っているターゲットと言えたのです。

しかし、現在は同じTV番組どころか、チャンネル数も多く、BSやケーブルTV、スマホでSNSや動画しか見ない、PCでネットサーフィンするなど、同じものを見た人を探す方が難しいでしょう。

インプット情報が多様な結果、行動や価値観も多様化しているのです。

「30代の共働き夫婦は食事の準備時間を30分以内に抑えたい」というニーズ
実際はこんなターゲット設定では十分ではないのです。

「行動」と「価値観」

これまでの属性に【行動】と【価値観】を組み合わせる

ではどうすればいいのか?
ポイントは「行動」と「価値観」です。

「30代の共働き夫婦=食事の準備時間を30分以内に抑えたいというニーズがある」

であれば、【行動】と【価値観】に分けると

「30分以内に食事の準備を済ませる」(行動)
「仕事もプライベートも効率化しないと気が済まない」(価値観)

というターゲット像が出来上がります。
じゃあ元々のターゲットであってるんじゃない?
と思うかもしれません。

実は問題は
「30代の共働き夫婦=食事の準備時間を30分以内に抑えたいというニーズがある」
ということで30代の共働き夫婦の【価値観】を一つにしてしまっていることです。

このやり方だと「30代の共働き夫婦」全てが見込み顧客ということになりますがそんな都合の良いことないですよね?

そう、実際は沢山の属性があるのです。

【行動】
「自然由来の材料で、じっくり時間をかけてパートナーと一緒に作る」
【価値観】
「食が体を作るのだから時間と労力はかけるべきだ」

【行動】
「平日は外食や宅配も取り入れて食事の準備時間をゼロにする」
【価値観】
「習い事やコミュニティ参加で自己投資に時間をかける」

このように、いろんな行動や価値観がありますよね。
もうお気づきかもしれませんが、「行動」×「価値観」これが現代のターゲット属性なのです。

そして、「行動」×「価値観」がターゲットだとすると逆に30代の共働き夫婦以外でもこのニーズを広げられる可能性もあるのです。


Step 2: ターゲットや仮説は映画の1シーンのように

映画の脚本ができるくらいの仮説をイメージしよう

2.調査したい仮説の解像度が荒すぎる状態でインタビューを開始
3.ターゲットではない人のインタビュー結果に惑わされている

このケースでは、「顧客に答えがあるのだから自分で考えてもミスリードしてしまう」と思っているケースです。

しかし、実際は、ざっくりした仮説をぶつければ回答もざっくり、ありきたりな内容しか返ってこないもの。

出来るだけ具体的な、突っ込んだ質問をしてこそ、深層の発見があるのです。
また、ターゲット像が荒いと

「この人もターゲットかも」
「あの人も条件あっているよね」
「あのターゲットに売れるなら嬉しいし」

とターゲット「ど真ん中」がわからず、ターゲット以外からの情報を拾ってしまいがちです。

と、いうことでターゲット像が出来上がったら、次に検証すべき仮説の課題を磨くことが大事です。

すみません、仮説を「磨く」とかわかりにくいですよね 笑

仮説を磨き、解像度を思いっきり上げるのにおすすめのやり方の一つは、そのユーザーになりきって、どんな行動をしているか?
ストーリー仕立てで書いてみることです。

読んだ人が、まるで映画やドラマを見ているようにシーンが思い浮かぶレベルです。
意外かもしれませんが、インタビュー前に顧客の行動を理解する表現はたとえばこんな感じです。

仮説タイトル:共働き夫婦の晩餐

シーン1:帰宅
美沙子
「ただいまー!」

健太
「おかえり。今日もお疲れ様。」

美沙子
「ありがとう、健太。東京までの通勤、やっぱり疲れるわ…。でも、今日は職場でまた効率の良い進め方を褒められたの。」

健太
「さすが美沙子。仕事では本当に頼りにされてるんだな。でも、そんなに頑張って帰ってきたら、家でも無理しないでね。」

美沙子
「そうね。でも、家でもできるだけ効率よくやりたいの。食事の準備もサクッと終わらせたいけど、ご飯を炊くとやっぱり時間がかかるわね。」

健太
「お米を炊くと、どうしても30分じゃ終わらないよな。でも、僕たち炊きたてのご飯は外せないし。」
(美沙子はキッチンへ向かい、炊飯器のスイッチを入れて、冷蔵庫を開ける)

美沙子
「今日は冷凍の鶏肉と野菜で簡単に炒め物を作るわ。サラダの準備、お願いね。」

健太
「任せて。すぐにできるよ。」
(美沙子が鶏肉を解凍し、フライパンに火を入れる。健太は手早く野菜を切り、サラダを準備する)

シーン2:夕食の準備
(美沙子が鶏肉をフライパンで炒めながら、手早く調味料を加える)

美沙子
「職場では何でも効率よくこなせるのに、家ではなかなかそうはいかないわね。ご飯を炊く時間もあるし、結局30分じゃ終わらない。」

健太
「ネットのレシピを見ても、その通りの食材や調味料揃ってることはまず無いし、スマホ見ながら料理作るのって正直大変。片手塞がると作りにくいし、濡れたら嫌だもんね。」

「でも、無理せずやればいいよ。職場のように完璧を求めすぎると、家ではしんどくなる。」

美沙子
「そうね…。でも、もう少しで終わるわ。ご飯もあと少しで炊き上がるし。」
(美沙子は最後に醤油を垂らし、照り焼き風の味付けを完成させる)

シーン3:夕食
(料理が完成し、夫婦がダイニングテーブルに座る)
美沙子
「いただきます。」

健太
「いただきます。今日も炊きたてのご飯、美味しそうだね。」

美沙子
「やっぱり炊きたてのご飯は元気が出るわ。でも、時間がかかるから、もう少し効率よくできたらいいんだけど。」

健太
「無理しないで、少しずつ改善していこう。仕事と同じように、家庭でも試行錯誤してみたらどう?」

美沙子
「そうね、少しずつ工夫してみるわ。」

シーン4:後片付け
(食事を終え、二人が食器を片付ける)
美沙子「今日は早めに片付けて、ゆっくりしよう。」

健太「そうしよう。明日もまた頑張らないとね。」

美沙子「でも、無理しないようにね。」
(最後の食器を片付け、二人はリビングを後にする)

いかがでしょうか?

このように記載することで、どんな夫婦かすごく身近に感じたのではないでしょうか?
長すぎる?
では、この脚本ベースに動画も作ってみるのもいいかもしれませんね。

ただ単に「食事の準備時間を30分以内に抑えたい」夫婦と違って
このストーリーでは夫婦の行動の時間や二人の価値観の違いが加わることで、開発者(あなた)はこの2人のためのサービスを具体的に考えられると思いませんか?

単に30分で食事を作るだけでなく、前後の行動も踏まえて短縮するとか、外せない好きなものは簡素化しないであげようとか、美味しくしてあげたい、夫婦の会話も大事、等これによって新たなインタビュー項目が見えてきそう
です。

そして次第にクリアになっていくターゲット像に合わないインタビュー結果は、明確に省くことができるでしょう。


こんなに詳細に作ると共有が難しい
という人は4コマ漫画でも良いかもしれません。

脚本や4コマ漫画で関係者のターゲット像を合わせていく

Step 3: 完了条件の設定

<最小サンプル数の設定>

アンケートと違い、多すぎるインタビューは整理するのが難しくなってしまう

4.調査の「完了条件」が設定されていない
それではインタビューは何人にすればいいのでしょうか?
とっておきに我々の方法をお伝えしましょう。

ユーザービリティテストで有名なヤコ・ブニールセン工学博士によると「5人にインタビューすればユーザービリティ問題の85%が発見できる」という有名な言葉があります。

なんだ5人でいいの?簡単ですね!

という言葉が聞こえそうですが、実際はターゲットを3~5セグメントとか細かくして調査を進めるケースが多いと思います。

5セグメント毎に5人だと25人。
仮説を変更したり、プロトタイプを検証するために、同じユーザーに4回行うとすると、のべ100回になります。

全くの新規事業をやる場合は、おおよその目安はこれくらいだと覚悟を決めて計画しましょう。

「え?100回も多い!」と感じる人・この時点で諦めたくなった人は、残念ながらあまり新規事業開発に向いていないかもしれません。
そうはいっても、という人は既存事業に近い領域を取り扱うのをお勧めします。

既存商品の改良や入れ替えなど、ニーズが顕在化している領域ですこの領域だと過去のデータが使えたり、ネットの情報もある程度使えるので回数は減らせるでしょう。

〜ちょっと寄り道〜 「インタビューで得られる副次的効果」

のべ、とは言え100回のインタビューと聞くと「皆で手分けしよう!」となるものですが、経験の浅い方はできれば一度全部参加してみてください。

筆者も100回インタビューの経験が何度かありますが、実は100回インタビューにはとんでもない効果が「自分」に戻ってくるのです。

20〜30人に聞いていくとかなり顧客の理解が進み、顧客の困りごとのパターンが見えてきます。

インタビュー中もこの人もあのタイプか!みたいに先回りができるのです。
先回りができると、さらに深いインタビューにつながります。

そして困りごともなんとなく自分ゴト化=顧客と同化ができるものです。 

50人くらいを超えると、お客さんより自分の方がその業界に詳しいケースが出てきて、知り合いが知り合いを呼ぶ、のようなものがはじまり、さらに100人を超えると、顧客同士の繋がりにあなたが欠かせなくなり、周りからまるで第一人者のように感じてもらえるものです。

そうなるとプロトタイプを試していただく顧客が、すぐに見つかったり、新しい顧客を紹介いただいたり、どんどん人脈が広がるでしょう。

これまでちょっと調べたいことがあっても、調査会社や人材サービスなどで数週間かけて意見を聞いていたものが、業界の知り合いにチャットで聞けばわずか数分で本音が聞けるまでになるのです。

これは新規事業を進めるのに絶大なメリットになります。

<分析項目の事前決定>

さて、「食事の準備時間を30分以内に抑えたいというニーズがある」に話を戻しましょう。
インタビューで確認すべき項目を事前に決めます。

インタビューで確認すべき項目(例)
1日の時間の使い方(事実)
・これまでの食事準備時間(事実)
・理想の食事準備時間(考え方)
・時短のために試したこと(事実)
・時短に対する障害(事実)
・なぜ30分以内に抑えたいのか?
・抑えた時間で何がしたいのか?

ここでは本来ダイレクトに聞きたいことだけでなく、その課題の理由、背景、顧客体験の外側(1日の時間の使い方や、対象の行動の前後に何をやっているか?)も聞くと、解決策のヒントが見つかるかもしれません。

<クリア条件を設定する>

GAMEのようにルールを「先に」決める

ここでは「10人中7人が30分以内の食事準備を望んでいれば次のステップに進む」といった具体的な条件を設定します。

なんにせよ、インタビュー「前」に決めておくことが大事です。

インタビューをした後だと、「もっとインタビューしたらいい結果が出るかもしれない。

「後一人だけ、1社だけ聞いてみよう!」となかなかその仮説から離れられないものです。

そんなことより新たな仮説にシフトしてどんどん回す方が、余程前向きなのです。
そのためには最初にルールを作っておくに限るのです。

ある家電メーカーの新規事業チームは、AIを活用した調理支援デバイスの開発を検討していました。

彼らは「週5日以上自炊する30-40代の単身者の70%が、調理時間を現在の半分に短縮したいと考えている」という仮説を立て、10人へのインタビューで6人がこの仮説を支持したら、プロトタイプ開発に移行すると決めました。

結果、7人目のインタビューで仮説が支持され、迅速に次のステップに進むことができました。

まとめ:MOONSHOTな調査へ

 ここまで読んでいただいた皆さん、いかがでしたでしょうか?
みなさんがこれまでのアクションを行うとこんな風に効果が現れます

・顧客の「行動」「価値観」でターゲットが明確になる。
・ストーリー仕立ての「顧客体験」シーンで共感を得やすくなる。
・インタビューで「ターゲットではない人」に気づく。
・調査の完了条件を使ってどんどん実験が進む。

ユーザーインタビューやアンケート調査は、新規事業開発において重要なプロセスです。

しかし、適切な設計と実行がなければ、調査が終わらない罠に陥る可能性があります。

そしてそれは社内起業家にとって命取りとなる「時間」が奪われることにつながるのです。

今回の記事で書かせていただいたのは、ほんの入り口に過ぎません。

「科学的に調査すすめる方法」や「プロトタイプの検証方法」などたくさんお伝えしたいことがあるのですが、またいつかの機会にさせていただきますね。

新規事業開発に挑戦する皆さま、調査の罠に陥らず、効果的なユーザーインサイトを得るためのスキルを磨いていきましょう。

MOONSHOT WORKSは、皆さまの挑戦を全力でサポートします。

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