[小説・ユウとカオリの物語] 初めての幸せ │ユウ目線12話
※前回はカオリ目線のこちら
僕はとっても心地いい夢を見ていた。カオリが僕をぎゅっと抱きしめて、頭を撫でながら鼻歌を歌ってる。なんの歌だろう?あぁ、早くキスしてくれないかなぁ...
「唇、伸びてるわよユウ......どんな夢見てるのかしら?」
頭をポンポンされてびっくりした。あ、また寝ちゃってたんだ僕。
「あ、ごめん、マジで寝ちゃってた」
起きると僕ら以外のお客さんは誰もいなくなっていた。
「あれ?もう閉店?僕、結構寝ちゃってた?え、もしかして変な顔してたの僕!?」
マスターとナナさんもお酒を飲みながら、そんな僕に微笑んでいた。
「かわいいなぁユウ……ふふ......大丈夫。少しの時間よ。今日はもう貸し切りだって。」
そう言いながらカオリが僕のほっぺたを撫でた。ナナさんが笑って、
「おはようございます。良い夢見てたみたいですね!」
あぁ、最悪だ。ナナさんにまで見られてた......罰悪くカオリを見ると、カオリはニヤニヤしながら、残りのウイスキーを飲み干した。
「へ、変な寝言、言ってなかった?あ、寝ちゃってごめんね......」
しょぼくれてる僕に、カオリは耳元に顔を近付けてそっと言った。
「かわいい寝顔だったわよ?ここじゃなきゃ襲ってたわよ」
酔いが回ったカオリはそう言うと、僕のほっぺたを撫でながら「かわいいなぁ」と、何度も何度も言いながら、微笑んでいた。
とても穏やかな顔、幸せそうな顔、だな......
なんだか僕は、嬉しくなった。僕を眺めながら、カオリが穏やかで幸せそうな表情をしていることに。
「カオリさん、表情がなんだか以前より柔らかくなりましたよね。幸せなんですねぇ......」
ナナさんはそう言うと、ふふっと笑った。そうだ。僕といて、カオリは今、幸せなんだ。あの日ここで出逢った時のカオリは、静かに、寂しそうに微笑みながらウイスキーを飲んでいた。僕はそれがとても気になって。優しくてかっこよくて、だけどあの頃のカオリは間違いなく、寂しそうだった。
「寂しいのなんて、当たり前。生きていたら寂しいのなんて当たり前だって、そう思ってきたのよ。だけど......寂しくないことなんて、あるのね......生まれて初めて、今わたし、寂しくない」
カオリは少し前にそんな話をしてくれた。カオリも僕と同じ、好きな人にあわせて生きてきた。僕への恋愛感情を否定していたのも、「もう恋愛はやりきった」なんて言っていたのも、カオリにとって恋愛は、穏やかなものじゃなかったからなんだ。ずっと頑張るものだったんだよね。しんどかったんだよね。そんなカオリが僕を撫でながら、とっても穏やかで幸せそうにしてる。そんなカオリに僕は、切なくなった。僕はほっぺたを撫でていたカオリの手を握りしめて思いっきり、微笑んで言った。
「カオリ、僕もとっても幸せなんだ。ありがとうカオリ」
帰り道は駅まで2人、手を繋いで歩いた。カップル繋ぎをして外を歩くなんて、僕は初めてだった。誰もいない夜道。時々立ち止まってビルの間でキスして。なんて自由なんだろう。カオリは僕を否定しない。僕もカオリを否定しない。こんなに自由に生きられてる。こんな幸せがあるだろうか。
「あ、カオリ!お月さんが出てるよ!今日は三日月だね!」
そう言うとカオリはにっこり笑ってこう言った。
「そうね......ユウ......ずっとずっと、月は綺麗でしたよ」
僕らは月を見ながら笑いあった。幸せな気持ちが、込み上げてきた。そしてカオリもやっぱり、とっても穏やかで幸せそうだった。