Bible Gamer 第一夜 「カルカソンヌ」
アメリカや日本などと並んで、「ゲーム」を語る上で欠かせない国にドイツがある。たとえば、欧州最大のコンピューターゲームショウ「ゲームズコム(Gamescom)」は、毎年ケルンで開催されている。
このイベントは2018年に10周年を迎え、この年の総来場者数は37万人にも上った。開催期間や方式が異なるので単純に比較はできないが、総来場者数だけ見るなら東京ゲームショウよりも多い。
またドイツはアナログゲームも極めて盛んな国で、ゲームズコム同様、アナログゲームでも世界規模のイベントを開催されている。それが1980年代から続く国際見本市「シュピール(Internationale Spieltage)」だ。
シュピールは毎年エッセンで開催されている(そのため、日本では『エッセンシュピール』と呼称されることが多い)。2018年の総来場者数は19万人にも及んだ。
そう、ドイツはワールドクラスでゲーム大国なのだ。
遊びに溶け込む文化
ゲームへの文化の融合はよく見られる。ゲームという遊びの中にも、世界中の国や地域に由来する多種多様な文化が混ざり合い、生み出された製品にその息吹が吹き込まれている。そしてキリスト教文化は、遊びに溶け込みやすい文化のひとつだ。
前述のドイツを含め、キリスト教圏で制作されたアナログゲームは多い。そのため、キリスト教文化が自然かつ色濃く反映されているゲームも数多く存在する。
アナログゲームを趣味として楽しんでいる愛好者であれば、「大聖堂」「司祭」「教会」など、キリスト教の用語や構成要素を取り入れたゲームが、すぐにいくつか思い浮かぶのではないだろうか。
名作に見る「修道院」
さて、今回取り上げる「カルカソンヌ(Carcassonne)」は、2000年にドイツで発売されたゲームだ。
シンプルなルールと多彩な戦略性を兼ね備えた本作は、2001年にドイツで最も権威のあるアナログゲームの賞「ドイツ年間ゲーム大賞」を受賞した極め付きの名作である。
発売から数年ほどで店頭から消え去る商品が多いアナログゲーム市場において「カルカソンヌ」は、現在でも世界中で販売され続けている超ロングセラーだ。日本語版も発売されており、国内でも入手は容易である。
「カルカソンヌ」が題材としているのは、フランス南部に実在する同名の城塞都市をモデルにした都市構築だ。未開の土地に少しずつ都市を作り上げていくこのゲームには、さまざまな地形を模したイラストが描かれた厚紙製の地形タイルが数十枚も用意されている。
これら地形タイルのほとんどは、「道」や「都市」など一般的な名称が付けられているものだが、ひとつ例外がある。それが修道院(Kloster)」タイルだ。
「カルカソンヌ」の基本セットでは、この「修道院」だけが具体的な名称を持つ建築物として登場する。
上の画像にもあるように、「修道院」タイルのイラストには2種類あり、そのうち1種は建物の屋根に十字架が掲げられている。十字架の有無にかかわらず、どちらもゲームでの扱いは同じ「修道院」となっている。
いずれにせよ、これがキリスト教に関わる建築物であるのは明らかだ。
ゲーム内での「修道院」タイルは、少し特異な(そして重要な)しくみの得点源であるが、それは現実の修道院を具現化したものではない。あくまでもゲーム的な演出として「修道院」という名称とイラストが利用されているに過ぎない。
しかし形だけであっても、新たな土地が開かれて人々が定着すると、自然にそこへキリスト教信仰の礎が築かれていく過程が、ゲームの中で確かに見られるのだ。
これは、戦略に多様性をもたらすアイデアを土台にして、現存する長い歴史を持った城塞都市の宗教的様相を自然に描写した、巧みなゲームデザインの産物に他ならない。
このことにより、ゲームの背景に息づく人の営みがさりげなく感じられるほど、その表現に深みをもたらした。
人気作となった「カルカソンヌ」は、いくつも拡張セットがリリースされ、風景や建造物などのタイルが続々と追加されることになった。プレイした人は、それらを通じて中世ヨーロッパの文化や生活を垣間見ることにもなるだろう。
旧約聖書版「カルカソンヌ」
後年になって、別の会社から「契約の箱(The Ark of the Covenant)というゲームが販売された。これは、ゲームシステムの基礎は「カルカソンヌ」だが、背景設定を旧約聖書に置き、キリスト教色をより強く押し出したゲームだ。
タイトルの「契約の箱」とは、旧約聖書に、「モーセの十戒」が彫り刻まれた2枚の石版などが収められていると記述された「箱」のことである。
実際にこのゲームには「契約の箱」という名前のコマが用意されており、特殊な得点源として機能する。
他にも「預言者」というコマ(特定の条件下で、得点を増やす効果を持つ)が導入されていたり、草原には「ヒツジ」や「オオカミ」が描かれ、それらが最終得点計算にかかわってきたりもする(ヒツジは得点源で、オオカミはヒツジを食べてしまうので得点を減らす)。
これらは、原型の「カルカソンヌ」にはないアイデアだ。
この「契約の箱」は、モチーフを変更して独自の雰囲気を醸し出しただけではなく、オリジナルとは異なったアプローチで面白さを追求しており、制作者たちの見事な構想の好例となった。
本作は初版が2003年と古いこともあって国内ででは入手が難しくなっているが、海外では現在でも比較的容易に入手が可能なようだ。
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