桜庵へようこそ
私はジュビア王国の城下町に住むモブキャラでございます。
本日は、最近気になっている桜庵という甘味処に足を運んでおります。
和国出身のイケメン店主の作る和菓子や甘味が最高に美味しいと評判になっていて、前から行きたかったのですが…
モブキャラの分際で人気店に行くなんて許せない!と、思われたらどうしようと震えていたのです。
そんな私が何故ひとりで、桜庵に来ているのかと不思議に思うでしょう?
つい先日、私の推しが桜庵の和菓子が大好きだという情報を手に入れた為、推しに差し入れるべく、勇気を出して桜庵の店前の長蛇の列に早朝から並んでいたのです。
早朝から並んだおかげで開店直後に入店する事が出来ました。
可愛らしい白ウサギ獣人さんに、案内されてカウンター席に落ち着いた私です。
キョロキョロと店内を見渡すと開店時にも関わらず席は、ほぼほぼ埋まっています。
流石、大人気店だけありますね。
店内をひと通りチェックした後、ぼんやりとメニューを眺めていると…
「ご注文はお決まりですか?」と麗しの重低音ボイスが耳を直撃したのです。
「あっ、あの…
初めてでよくわからなくて何がおすすめですかね?甘い物は全般いけるんですけど‥」
「それはそれは頼もしい。色々食べたいお客様におすすめの春の彩りという甘味四種盛合せとお好きな飲み物のセットがありますがいかがですか?」
「是非ともそれでお願いします」
「では、お飲み物はどれになさいますか?」
メニューを見つめるが予想より沢山の選択肢があり悩む私。
「飲み物は後で聞いてもらってよいですか?」
「かしこまりました」
ふーっ。イケメンと美声にクラクラするよ。
モブキャラの私には耐えられません!
悶えながらメニューをじっくり見て甘いため息をついていると、先程案内してくれた白ウサギ獣人さんがやってきた。
「お待たせしました!春の彩りでございます。飲み物はどうされますか?」
「抹茶ラテのあったかいのお願いします」
「はい。かしこまりました」
白ウサギ獣人さん、可愛いっ…
全体的にもふもふしてるし、しっぽが可愛すぎる!ヤバい!!
「わぁ。綺麗!」
目の前に置かれた皿の上には、桜の花がのっている桃色の丸いお菓子。
緑色の四角いお菓子、小鳥の形をした黄色いお菓子、丸いお団子に茶色のたれが絡まったものが美しく配置されている。
先ずは、桃色から食べてみよう。
「ムグッ…ケホッ…」
大口で、一気に食べたら喉につまってしまったようである。
慌てて水を流し込む。
ヤバかった。
それにしても美味しいわ。何これ?
次は‥黄色い小鳥を少しずつかじる。
「甘さが絶妙。ほんのり、甘くてふわふわしてる。何で出来てるんやろ?」
ぶつぶつ言いながら食べ進む。
「お待たせしました。抹茶ラテになります。ご注文は以上で宜しいですか?」
「はい。あの…
このお菓子の名前を教えてもらってもよいですか?」
「大変申し訳ございません。
先程、説明し忘れました」
ぺこりと頭を下げる白ウサギ獣人さん!
可愛い!!
「今日の春の彩りは、桜餅、鶯餅、ひよこ、御手洗団子となっております。
それぞれ、お持ち帰りも出来ますので気に入った物がありましたら伺いますよ」
「有り難う。みんな美味しくて迷っちゃうなぁ。
ちなみに春の彩りは毎日違う物になるの?」
「いえ、春の彩りは週替わりです。毎日違う物を食べたいのであれば甘味二種とお好きな飲み物のセットになる本日のおすすめもいいかと思いますよ」
「それもいいわね。次回はそれを頼んでみようかしら?」
「有り難うございます。ごゆっくりなさってください」
抹茶ラテを飲みながら店内を見渡すと、いつのまにか満席になっており、店の前には列が出来ていた。
本当に人気店なんだなぁ。
入れて良かったわ。
さぁ、次は何を食べようか?
茶色いタレが、かかっているお団子をひとくちかじってみる。
甘辛くて美味しいなぁ。
お土産はこれにしよう!
混雑してるから今日はもう帰る事にしよう。
私が席を立つと白ウサギ獣人さんが、慌てたように歩み寄ってきた。
「お客様。どうされました?」
「混んできたからそろそろ出ようかと…」
「あの…お客様…
いつもの事なので、気にせずゆっくりなさって下さいませ。
だいたいはお持ち帰りの方が多いのですよ。うちの店は」
「有り難う。大丈夫よ。今日は帰るね。あと、御手洗団子?あの茶色タレのかかってた団子を持ち帰りたいの」
「わかりました。それでは、こちらにどうぞ」
お会計をして、ウキウキしながら外に出ると店の前の行列は凄いことになっている。
早く来て良かったと思いながら帰途につくモブキャラであった。
今は名も無きモブキャラの彼女であるが…
次回、桜庵に来る時には彼女に名前がついているかもしれない。