ある日の桜庵
ここはジュビア王国の城下町にある桜庵という甘味処。
店主の作る甘さ控えめで食べると元気になると噂の和菓子や甘味が大人気のお店です。
店主が元冒険者なので、冒険者ギルド関連のお客様も沢山来店するのですが、テイクアウトする方が多いようです。
冒険者さん達は、ギルドでの依頼終了後のご褒美に、餅入りどら焼きや、栗蒸しようかん、フレッシュなフルーツを使った大福を大量にテイクアウトする方が増えてきております。
指名依頼前の気合いを入れる為に、紅白のおまんじゅうを早朝から買いにくる冒険者さんもいるんですよ。
アーライ神国から和菓子修行に来ている白ウサギ獣人のラビのファンである奥様方は、店内でゆっくりと談笑しながら日替わりメニューや、限定メニューを楽しまれている方々が多いようです。
本日は、どんなお客様が桜庵を訪れるのでしょう?
◇◇◇◇◇◇◇◇
はぁぁ…
いい天気ですねぇ。
今日から私の新作がお店に並ぶ事になったので楽しみなんだけど…
買って頂けるんでしょうか?
ドキドキします…
桜庵の店員である白ウサギ獣人のラビは、店の前のそうじをしながら何やら独り言を呟いております。
というのも、ずっと試作していたラビ作の新商品である【白兎の夢】が今日から売り出される事になった為、無事に売り切れるか、心配なようです。
開店30分前になり、桜庵の前には見慣れた常連さんが並びだしました。
「皆様おはようございます。
開店まで、しばらくお待ちください。
本日は、私の新作である【白兎の夢】という最中が店頭に並びますので気になる方はお買い上げ頂けたら幸いです」
ラビが挨拶すると…
「ラビくんの新作楽しみだよ」
「白ウサギ煎餅とセットでお土産にしようかな?」
「新作は試食出来ないのかい?」
などと、常連さんからの温かい言葉が返ってきました。
「試食は先着10名様なので…
試食希望の方はお早めに私に声をかけてください」
ラビがペコリとお辞儀をして、店内に入ろうとすると、パンダ獣人の女の子がラビを呼び止めた。
「あの…
私、黒の森からお使いに来たのですが黒の王の名前で予約が入っているはずなので確認お願いします。
それと…
女子受けする和菓子の詰め合わせを作って頂きたいのですが…」
「黒の王のお使いの方ですね?
お急ぎのようなら直ぐに商品をお渡し出来ますよ?
詰め合わせは何名様用でしょうか?
店内でお伺いするので私についてきて頂けますか?」
「あの…
そんなに急いではいないので、開店してからで大丈夫です!
詰め合わせは甘党10人分と店主に伝えればよいと黒の王から言われております」
「成程、お急ぎではないのですね。
では、追加の詰め合わせの件を店主に伝えておきますので開店までしばらくお待ちください」
ラビは、再度お辞儀をして店内に入って行った。
「お姉ちゃん、ここに来るのは初めてかい?
直ぐに帰らないでいいなら、中に入って好きな物を食べてからにしたらいいよ。
桜庵は何でも美味しいからな。
ワシら熊獣人は、蜂蜜入りの饅頭や日持ちする蜂蜜と木の実の煎餅を目当てに、ここに通っているんだよ」
「熊獣人さん達用のお菓子もあるんですね…
私の好きな笹を使ったお菓子もあるかしら?」
「あらっ、確か笹餅があったわよ?
私たちは笹を食べないけど、お餅の周りの笹も食べたらいいんじゃないかしら?
葉っぱが好きなら桜餅や柏餅にも葉っぱがついているわよ?
試しに食べてみたらどうかしら?」
熊獣人の冒険者に続き、常連のマダムからもアドバイスされたパンダ獣人さんである。
桜庵の常連さんは、このように優しい人が多いのだ。
開店後、予約した商品と追加の商品を受け取ったパンダ獣人さんは…
葉っぱがついているお菓子を全部頼んで、ゆっくり味わってから黒の森に帰って行くのでした。
また、お使いに来た時は違う甘味にも挑戦してくれたらいいなぁと思いながら見送るラビなのです。
ちなみに、白兎の夢は開店後30分で完売しました。
皆様本日も、桜庵をご利用頂きありがとうございます。
またのお越しをお待ちしております。