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★映画鑑賞★『二重生活』
緊迫度★★★★★
まさか度★★★★★
菅田将暉のエロス度★×1000
主題歌のない映画を、私は信じる節がある。
音楽で誤魔化さないというか、感動で完結させないところに現実味があって、自分の身に降り掛かってくるような感覚がある。
主題歌のない『二重生活』はそんな映画だ。
大学院で哲学を専攻する白石珠(門脇麦)は、修士論文のテーマに悩んだ挙句、指導教授の篠原(リリーフランキー)に勧められ「理由なき尾行」を始める。それは、実存哲学に繋がる何からしい。ただ、これにはルールがあり「ターゲットに会ったり、知られてはいけない」というもの。興味があるから尾行するのではなく、「人間存在に尾行する」という点に、大きなテーマを持つ、と篠原は言う。
そのターゲットになったのは、隣の家に住む石坂(長谷川博己)。誰もが羨む家庭を持つお金持ちの編集者。しかし、尾行を続けることで見えてくるのは、誰にも言えない石坂のたくさんの秘密。
珠は、恋人の卓也(菅田将暉)と同棲しながらも、「理由なき尾行」をこっそり続ける。
彼女もまた、恋人に秘密を持ち始めているのだ。
監視カメラを見続ける管理人、良い妻を演じる石坂の妻、余命少ない母に妻を見せ安心させる篠原、尾行する珠を尾行する誰か。
結局、「何か」を隠しているのは誰なんだろう。
※ネタバレしたくないので感想だけ書きます!
『二重生活』を観ていて、珠の「理由なき尾行」を見ていると、ふと「あ…これ私もやっていることかもしれない」と思いました。
それは直接でも、オンラインでも、話者の言葉を聞いたり読んだりしている時のことです。
別に、相手は誰でもいい。
目の前の人の言葉、表情、声、におい、行間。何かしらの記号から、その人独特の何かを知ってしまった感覚。
例えば、「匂わせ画像」とかもその一つのように思います。ちょっとした秘密が、どんどん推測を生む連鎖です。他にも絵文字の使い方や、「怒ってないよ(笑顔)」みたいな竹中直人的なアレ、そういう裏の裏から、その人の何かが窺い知れてしまう。
その時、どうしても、その人にはこれ以上触れられない「壁」のようなものを感じます。そして、その人の生々しさをベトっと感じてしまう。まさに、サルトルの『嘔吐』です。
そんな時、立ちはだかるのは、とてつもない孤独です。立ち入ることを禁じられたことに対する空虚が、胸を締め付けます。
(しかし?)
(それでも?)
(したがって?)
(だからこそ?)
人は人を理解しようとするのかもしれません。その人にしか表せない個性を分かろうとするのかもしれません。話を聞いたり、近づいたり、手を取り合うのかもしれません。(この映画の冒頭が、身体を重ねるシーンから始まるのは、そんな皮肉な伏線のように思います。)
珠が提出する修士論文のテーマ”実存主義”という哲学は、こういう上に成り立ってるように思います。
私は珠と同じく、実存哲学をテーマにした学位論文を提出しました。
「その人が、その人であること」を追求することはとても重く、存在することの意味がどこにもないと実感した時、絶望します。そんな時、「秘密」を持ってると少し「私らしく」いられます。
「秘密」は仄かな希望を孕んでるんだと思いました。
「この世界に満たされてる人間なんていないんだよ。」
「ほんの少しその苦しみを軽くしてくれるもの、きっとそれが秘密である。」
映画最後の、この言葉が余韻として響きます。
だから、「秘密」を通して誰かと分かち合えたら、それは幸せでしょうね。
✱アンニュイな雰囲気は門脇麦さんと決めています。(勝手に。)彼女の才能には圧巻されます。一人になった部屋で泣きながら論文を書く姿は、ひたすらに美しいです。
菅田将暉さんは、もうムダ遣いレベルで出番が少ない。だからこそ余計に光っている。妖艶でリアルでした。
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