家族とは...
「もう解放してほしい」
そう母が言った。
私がふざけて「おかーさーん!」と甘えたように読んだときのことだ。母の言葉にはため息が混ざっていた。
たしかに私は長年母を苦しめた。それは心を病んでまともに働くことも叶わなかったからだ。正直この年になっても、いまだに世間でいう「自立」には程遠い。その点については、本当に申し訳なく思う。けれどだからと言って「開放してほしい」なんて言葉は使ってほしくない。
開放してほしいのは私。この家族のしがらみから、私が開放されたいのだ。
ずっとずっと、もう二十年以上ずっと悲劇の中に閉じこもったままの長女。自分が三姉妹のなかで一番父の被害を受けていて、一番辛くて、一番かわいそうだと言い張る長女。その言葉を放つたびに、末っ子である私が一番楽をしたと、暗に言っていることにすら気づかない長女。人生がうまくいかないことのすべてを父の虐待のせいにする長女。そこから抜け出すことを選ばないのは自分なのに、一方的に自らの主張だけを押し通そうとする長女。そしてなぜか、いつも微妙に意見が長女よりになる母。
お母さん、私、あの人と今後も家族でいたくないよ。開放してほしいのはお母さんだけじゃない。私も、次女も、あなたの孫も、みんなだよ。
お母さん、あなたが一番辛くて苦しくて、もう死んでしまいたいような思いをしたことは、家族全員わかっている。
だけど、あなたとあなたの元夫が築いた家庭で生み出された負の連鎖を、まるですべての責任が私にあるみたいに、そしてすべてを投げ出すかのように「もう開放してほしい」だなんて言わないで。あなたのその何の気なしに放つ一言が、私をひどく傷つける。もうずっとこの繰り返し。何十年と繰り返しているはずなのに、何度やっても慣れるものではない。
家族とは何なのだろうか。それを考えるたびに途方に暮れてしまう。私はまだ、その答えを見つけられずにいる。