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知らない。

だから心の扉だけは固く戸締りしていたのに。

ひとり、しんとした部屋で夜を迎えるのが少し寂しくて、見るつもりもなく何となくつけていたドラマに思わず胸が締め付けられて、いつの間にか泣いていることがある。
そんなとき、いつも、あぁ心がさらわれたなと思う。
でも、私の心をさらうのは、泥棒なんかじゃなくて、静かに押し寄せて一気に引いてしまう引き波のようなもの。
さっとさらわれて、どっと涙が押し寄せる。
それで、恍惚として眠りにつく。
それでよかった。

でも、今日は心が返ってこない。
すれ違う瞬間すっと吹く一縷の風にのせて
私の心の中に手を伸ばして知らない間に奪い去った泥棒がいた。
わたしはあなたを知らない。
どんな音楽が好きで、どんな映画に感動して。
そして、どうしたらあなたにもっと近づけるのか。
それでも、すれ違った瞬間一瞬だけ見せた笑顔で、それだけでよかった。

心が返ってこない。
強い力でひかれて、ひかれて、ひかれて
どっと押し戻されたとき、この感情をどうしていいのか分からない。

わたしはまだ、恋を知らないの。
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