最近読んだ本の書評と感想(中編)―備忘録としてー
メシロです。最近読んだ本について書いてたらあんまりにも長くなってしまったので、3つに分けました。ここから中編です。
アニメ化4作品のマンガ家が腕時計にハマった結果5000万円の借金をつくった話 ヒロユキ
時計集めが趣味なんで買っておかねばと購入しました。時計愛好家も楽しめるのはもちろん、時計に興味ない人にも分かりやすく説明されていて、読みやすかったですね。作者はアニメ化もされた作品を連載されている漫画家さんということで、さぞお金持ってんやろなあとか邪推してたんですけど(すいません)、割と手つけちゃダメな金もつぎ込んで時計買ってらっしゃって、時計好きとしてその気合の入りぶりに尊敬しました。そして仕事のモチベーションとして、自分を追い込むためにも買いまくるって発想が自分にないもので面白かったです。原動力っていうのはまさにこういうものかなって。ちなみにこの作者さん、時計に億近く注ぎ込むのもやばいんですけど、400万の練り香水買ってるのが一番すげえなって思いました。
ここからは大っぴらにいえないかもなんですけど、ぶっちゃけ高級時計にここまでお金使っても最悪、売却すれば大抵半額かそれ以上のお金は帰ってくるんで、実はそこまでやばいお金の使い方でもないんですよね。なんならヒロユキさんのコレクションって希少価値が高くて人気なモデルが多いんで、下手したらプラスαでお釣り帰ってくるんじゃない??ってレベル。だからローンも通るし、ここまでお金をつぎ込んでもそこまで深刻じゃないっていう。(正直同額をキャバクラとかに使う方が100倍やばい)ただし、これは周りの経済状況にも依存しているんで、今後もその価値が続くかはなんともって感じではあるんですけどね。(逆に練り香水は買った瞬間に価値が激減するから本当に好きじゃないと買えない)
印象に残ったパート
ここ結構えぐいなって思ったんですけど、ヒロユキさんが欲しいモデルを買うためにあるメーカー(P社?)の正規店で何千万も使い込んで何本も時計を買って、やっとお目当ての時計を買うっていうシーンです。
時計に詳しくない人からすると意味わからないかもなんで説明しますと、ここ数年間、時計市場はバブルでして、ある特定の人気モデル(オーデマ・ピゲのロイヤルオークやパテックフィリップのノーチラス、ロレックスのスポーツモデルなど)は正規の定価で買うよりも、中古や2次流通品の方が遥かに高い(要はプレミア価格)、っていう意味わからん状況になってましてね。ここ最近は落ち着いてきたものの、依然としてこの状況は続いているんですよね。
だから売却益を狙う転売ヤーや、このブームに乗っかろうとして人気モデルを(パクった)オマージュした時計を作るメーカー、そして2次価格の上昇を受けて原価高騰を建前に便乗的に値上げしまくるメーカー各社、それに乗っかる消費者やこの状況にウンザリしている愛好家などで、割とカオスなんです。
問題なのはここからで、正規ディーラー(時計屋)がそれを一番理解しているから、みんなが欲しがる人気モデルをエサに、不人気モデルを何本も買わせてから、目当てのモデルを買わせるっていう、抱き合わせ商法を一部のお店がやっているんですよ。そしてヒロユキさんはカモにされてるのをわかった上で、これに付き合わされてるんですね。にしてもこれは結構えぐいケースですね。てか抱き合わせ商法ってそもそも独占禁止法違反なんですけどね。やっちゃダメよ。
僕はこれ以外にも、他の愛好家の方からも似たような話をたくさん聞いてきているんで不思議ではないんですけど、正直こんな思いさせてまで客に買わせまくる店ってどうなん??って思っちゃうんですよね。もっともこれは時計に限らず、ラグジュアリー業界全般の問題でもあるんですけどね。強欲なラグジュアリーブランドと、それに付き合わされる顧客(ただし転売ヤーもいる)という二項対立として読んでみるのも面白いかもです。
サラ金の歴史 -消費者金融と日本社会- 小島庸平
堀元見さんのマガジンでお勧めされていたので購入。武富士やアコムなどに代表されるサラ金が日本の経済にどのような影響を与えたのか、そして元々消費者金融とはどんなものだったのかを解き明かす本。個人的には1章の「消費者金融の源流を辿ると、コネと虚栄心をもった男たちが貧民街で生活に困窮している人々に個人融資として貸し付けてた」のが始まり、という箇所が面白かったですね。他にも、もともとサラ金の創業者たち(武富士の武井保雄やアコムの木下政雄など)は独自の貸付基準をもっていて、例えば武井はもともと団地に住む主婦にお金を貸し付けていたのですが、その際「家に上がって、トイレを借りてきちんと掃除しているかどうか」を見たり、「平日の昼にベランダを観察して、きちんと衣類を干している主婦には貸す」、といった具合で独自の審査基準を持ってたんですね。他にも、サラ金の走りである団地金融を広めた一人である日本クレジットセンターの田辺信男は、
といった感じで独自の基準で貸していた、って部分は心理学や行動経済学という言葉がなかった時代にもかかわらず、それを実践しているという意味で面白かったです。
印象に残ったパート
この本の核心で、ここほんまえぐいなって思ったんですけど、要はこれ、個人への貸し付けが整備された際に、制度の設計ミスで債務者に死んでもらった方がサラ金の債務回収が進むから、サラ金は滞納者をガンガン自殺に追い込むっていう最悪な状態を招いてしまってたんですよね。そのせいで多重債務に陥った人々がサラ金に追い込まれて自殺というケースが跡を絶たなくなって社会問題化した結果、サラ金は衰退したという話です(グレーゾーン金利判決とか過払金請求とかバブル崩壊とか他にも理由はいろいろあるけど)。こうしたゾッとする話が多かったですが、とても学びが多く、興味深い本でした。
あたまのいい人が話す前に考えていること 安達祐哉
Twitterでおススメされているのを見て買ってみました。元デロイトトーマツのコンサルだった人が書いている本で、頭がよくなるというよりかは、どうすれば他人から「頭がいい人」にみえるか、そしてそれがどう信頼につながっていくのかというお話なんですけど、これ、割と良いところをついていると思っていて、頭がいいって基準ってあいまいだし、たいていの人々は頭が良さそうな人をなんとなくで判断しているんですよね。そこをハックしてどう見せるか、という部分に焦点を置いているのは面白いです。でも実際、これらを実践している人は頭いいと思いますけどね。
そしてそれだけでなくて、「思考の『量』ではなく、『質』を変えることを意識すべし」だったり、「むやみに自分の知識をひけらかすんじゃなくて、相手の話を聞いた上できちんとアドバイスしろ」「少ない情報を信じきってあれこれ言うな」「自分に不利な情報や、統計データを示して自分の話に深みを与えよ」「自分の使う言葉の意味はきちんと理解せよ」「相手が話している時に相手の話を聞かずに自分が何話そうか考えるのはNG」といった具合に、知性というよりも性格的な問題や、割と当たり前なことも書かれていましたが、どれもいざ実践ってなると難しかったりするものが多くて、勉強になりましたね。ただ読みながら思ったんですけど、こういうのってほとんど大学で教わるような内容だったりすると思うんですけどね。繰り返しになりますが、実践ってなると難しいなって。
普段こうした自己啓発本は読まないんですけど、めっちゃ面白かったです。あと結構読みやすいんで大学生は必読の書だと思います。
印象に残ったパート
良質なアウトプットは再定義によって生まれるというのはその通りだと思っていて、僕の好きな再定義があるんですけど、その話をさせてください。(知識のひけらかしじゃんね)
みなさん、「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」っていう映画をご存知ですか?これ、マクドナルドが全米、ひいては世界中に店舗を拡大させた過程をおった伝記映画なんですけど、これめちゃくちゃ面白い作品でして、もともとマクドナルドを創業させた人(マクドナルド兄弟)と、レイ・クロックという、それをフランチャイズ化させた人が別にいるんですよ。その後者にスポットライトを当て、両者の出会いと確執を描いた作品なんですが、途中、レイがあるコンサルタントからマクドの経営改革の一環として、「土地を買収してフランチャイズ店にリースすることで安定した収入を得る」というスキームの提案を受けて実行するんですけど、これかなり核心をついていて、つまりマクドナルドが土地を買収して、その上に店舗と設備を用意する。そしてフランチャイズ契約を結んだ人がそれを運営して、不動産契約金と家賃収入、そして売上の一部をマクドナルド側に支払うっていうスキームなんです。これ以降、マクドナルドは爆発的に店舗を拡大させたけど、創業者のマクドナルド兄弟と揉めて、、、ってストーリーなんですけど、面白いんで是非みてください。
そして、先述のシーンから言えることで、あの瞬間、マクドナルドの本業は「ハンバーガー屋さん」じゃなくて、「不動産屋」になったんですよね。リンクの記事にもあるように、現在でもそれは変わってないんです。
だからこの話から言えることは、マクドナルドはハンバーガー屋ではなく、不動産屋である。その結果世界最大のチェーン店の一つになったってことですね、以上再定義とマクドの話でした。
アマゾンVSウォルマート 鈴木敏仁
アマゾンで何冊か買った時に一緒に買ってみました。言わずと知れたEC界の帝王、Amazonと、米国小売業界のトップであるウォルマートについて企業分析がなされた本です。
面白かったのは、Amazonってオンラインでの販売で儲けている訳ではなくて、AWSっていうクラウドコンピューティングサービスで稼いで、その利益でECを支えているって構造なんですよね。クラウドコンピューティングサービスっていうのはかなりざっくり言ってしまえば、会社や自宅のPCからインターネットを通して、めっちゃ高性能なPC(サーバー)を動かせて使える、ってことです。それを通して社内のサーバーを構築するなりストレージとして使うなりといった、かなり柔軟性の高いサービスであると言われています。
次にウォルマートについてです。日本ではあまり馴染みがありませんが(一時期西友を買収してたらしいけど)、米国企業の売り上げランキングでずっと1位を取り続けてるやばい企業なんですよね。どれくらいすごいか調べてみたら、今年の売上額がベルギーのGDPと大体一緒。一企業がヨーロッパの国のGDPとそこまで変わらないって意味わかんないでしょ。ついでに言うとアマゾンより売り上げてます。
印象に残ったパート
失礼ながら僕のウォルマートの印象って、「ただ爆安でものを大量に売ってるアメリカ消費社会の権化」ぐらいにしか思っていなかったんですけど、このEDLP(Every day low price)/EDLC (Every day low cost)に代表されるみたいに、仕入れと人材、物販管理を徹底的にやってるんですよね。つまり製配販の全体最適化を徹底してると。これはすごい。ほかにもDXについて説明している章もあったんですけど、これもかなり真剣に取り組んでて興味深かったですね。これ経営学的にみたらすごくいい教材じゃないかなって思いました。んで、特にこのパートで、値下げプロモーションを行うとその分の宣伝や、客数の変動によって波を作ったら物流と販売スタッフにさらなる負担がかかるからやらない(価格を固定して安売りする)。そして仕入れに関しても同じっていうのはすごく合理的だなって思いました。
ただアマゾンにも言えることですが、これらは徹底して垂直統合、そして競争優位性による独占をしてるからできることであって、従業員やサプライヤーの苦労を考えたら手放しで褒めれるものでもないよなーって。これが行く先は格差の拡大と階層の固定化なんかなあって思いますね。
小括
今回は中身が濃い本が多く、まとめに力を入れ過ぎて文字数がえらいことになったんで、さらにもう一回分けて投稿したいと思います。長々と失礼しました。ほな。
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