「旅そば」万歳! 三枚目 阿賀町津川のそば
無類のそば好きを自認するH助が、旅先で出会ったそばについて書き綴るのがこの連載です。ただし、当方、ウンチクの多いそば好きではなく、ただ単にそばを食べるのが好きという輩。偶然出会ったその地方ならではのそば(=旅そば)を、のどごし良く紹介していきます。
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古民家ですする十割そばと名物かき揚げ
新潟県阿賀町津川『塩屋 橘』
福島県と群馬県を水源として、日本海へと流れ込む阿賀野川。日本でも有数の水量を誇る川として知られる。この阿賀野川、江戸時代には会津から全国、全国から会津へと物を運ぶ船運ルートとして重要な役割を果たしていたらしい。その舟運の港がある町として栄えたのが新潟県東蒲原郡阿賀町にある津川という町である。
ある本の取材で、この津川を訪れた。ひととおり町の散策が終わり、さて昼飯でも、となったのだが食堂が見あたらない。あった!と思っても閉店していたり、定休日だったりでガックシ。しかし、ここで食べておかなければあとがつらい、と思いながらとぼとぼ町を歩き続けていると、古民家風の豪壮な家屋が目に入った。近づいてみると、長屋門みたいな木戸に「川港 塩屋橘 橘屋藤三郎」と文字が染め抜かれたのれんのようなものが掛けてある。
なんだこの店。
空腹と好奇心がないまぜになりながら、おそるおそるのれんをくぐってみた。
鼻腔をつくそばつゆの匂い。これは、蕎麦屋ではないか?
そのまま、外観同様に古めかしい屋内の廊下をさらに進む。
奥から聞こえる威勢のいい女性の声に導かれるように扉をひらくと、3、4人座っているテーブルが8つほどあり、今まさにそばをずずず〜っと、すすり中なのであった。
ちゃんとした蕎麦屋じゃないか。
いいにおい。腹がなる。これは、いただくしかない。
ころがるように空いている席につき、とにかく注文!
腹がかなり減っていたので、メニューにあったざるそばとかき揚げ丼のセットを所望した。
「かき揚げ丼セット、お願いします!」
注文の品が出てくるまで、あらためてあたりをキョロキョロしてみた。目立たぬように、他のお客さんが食べているそばを見る。すると、円柱型のばかでかいかき揚げがのっているそばを食べている人が多いことに気づいた。かき揚げの下には、なにやら綿のような白いものが見える。
あれは何だ?
その場ではわからなかったが、あとで聞いてみると、かき揚げおろしそばで、この店で人気の名物なのだそうだ。その名も「かき揚げおろし」。綿のように見えたのは、大量の大根おろしだった。だったらそれを頼んだのに、と思ってもあとの祭り。とにかく早く食べたいという一心で、調べる余裕がなかった……
しかし、出てきたざるそば+かき揚げ丼もなかなかだった。麺は少し硬めで幅広で、しっかりとした歯ごたえ。八割そば、かな。店の人に聞いてみると、なんとつなぎなしの十割そばだった。なにやら、津川は昔、福島の会津藩の領地内にあり、そばも会津の影響を受けて十割にするのが普通だそうだ。そば粉も会津のものを使っているらしい。
つゆは、これも会津寄りなのだろうか。かなり濃い、からい。ちょっと好みが分かれそうだが、私は濃いめが好きなのでまったく問題なし。
かき揚げは、まわりのお客さんたちが食べていた「かき揚げおろし」のかき揚げとは大きさが違う“丼ぶりバージョン”。山菜が中心で、衣少なめでさくっとした軽い食感。量も、そばのサブメニューとしてちょうどよい。満腹、満腹。
こう言っては失礼だけど、お世辞にもにぎわっているとはいえない津川の町中に、こんなしっかりした蕎麦屋があるとは驚きだった。
日本中、いたるところに素敵な蕎麦屋があることを再認識。新たな「旅そば」を求めて、「そば旅」に出たい!と思うH助であった。
【川港茶屋 塩屋橘】
新潟県東蒲原郡阿賀町津川3508
0254-92-2073