【日本全国写真紀行】42 佐賀県佐賀市富士町上無津呂
佐賀県佐賀市富士町上無津呂
山村の素朴な暮らしと静かな時間
佐賀市富士町の上無津呂という山村に、県内最古の民家があるというので行ってみた。「吉村家住宅」というのがその民家である。一見して、その豪壮な佇まいに経てきた年月の重みを感じた。かつてこの家を増改築しようとした際、天明九(1789)年建立という墨書が発見され、県内最古という称号を授かることになったという。
実際に中に入ってみた。木造平屋建て、茅葺の寄棟造り、かまどや囲炉裏がある。棟が一直線になった直すぐ家や 形式が珍しく、東側に土間、西側に五室ある。家の規模から察するに、かなり力のある農家だったのかもしれない。
そんなことをぼんやりと思いながら、上無津呂の集落を歩いてみた。この集落は、佐賀県の北部、もうほとんど福岡との県境に近いところにある。山に囲まれているために田畑は少なく、林業が主要な産業になっているらしい。集落の中を神水川という細い川が流れ、その川に沿うように道があり、ぽつりぽつりと家が点在している。
細い一本道を歩いてゆくと小さな神社があった。淀姫神社である。室町時代の末期から江戸時代初期にかけて多く造られた肥前鳥居という佐賀独特の形の鳥居が目をひく。境内には、推定樹齢250年以上の大きなクスノキが枝を広げていた。
境内をよく見るとナマズの石像が置かれていた。聞くところによると、ナマズは淀姫様の使者であるという言い伝えがあり、周辺の村人たちにとってナマズは神聖な存在となっているらしい。
神水川のゆるい流れを見ながら集落の道をさらに歩く。人影がまったくない。そして、音がほとんどしない。自らの足音と川のせせらぎが小さく聞こえるだけだ。
冬への備えだろうか。屋外に薪をたくさん積んでいる家が目立つ。一方で、朽ち果てて誰も住んでいない家もいくつかある。この集落もいずれは人がいなくなってしまうのだろか。誰も知る由はなし。ただ確かなことは、明日もまた朝の陽光がこの村を照らし、変わらずに川は流れ、鳥のさえずりが響き渡るということだけだ。
※『ふるさと再発見の旅 九州1』産業編集センター/編 より抜粋
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