「旅そば」万歳! 六枚目 瓦そば
無類のそば好きを自認するH助が、旅先で出会ったそばについて書き綴るのがこの連載です。ただし、当方、ウンチクの多いそば好きではなく、ただ単にそばを食べるのが好きという輩。偶然出会ったその地方ならではのそば(=旅そば)を、のどごし良く紹介していきます。
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茶そばが香る山口の新名物「瓦そば」
一瞬の閃光の如く人生を駆け抜けた詩人・中原中也。みなさんも一度は熱中したことがあるかもしれませんね。そんな中也の生涯を追ってみたくなって山口県山口市の湯田にある中原中也記念館に行ったことがある(仕事の合間をぬってですが……)。
久しぶりに中也の生涯に触れて心が凛としたあと、猛烈な空腹に襲われた。朝、バタバタしていて朝食をとっていなかったのだ。
とにかく何か食べられる店を探そう。そう思い、記念館から広い通りに出てあたりを見渡すと、「瓦そば」という幟がはためいているではありませんか。
たしか、瓦そばとはこのあたりの名物そばだったのではないか。これは、ぜひ食してみたい!
「長州屋」という店の暖簾をくぐる。
「山口の食材がまるごと食べられる」がコンセプトの店で、どうやら、夜は居酒屋になる店のよう。フグやケンサキイカ、しらす、ブランド地鶏の長州どりなど、山口県の名産を使ったメニューが味わえる、とある。夜もいいなぁ〜と思いながらも、とにかく今は瓦そば。さっそく注文!しようとしたのだが、一人前だと瓦にのってこないそうなので、一緒に来ていた仲間の分まで強引に3人分注文した。
待つことしばし。おお、本当に瓦がやってきた。湯気を立てながら運ばれてくる。熱々の本物の瓦の上には、茶そばがどーん!! その上に錦糸卵とのり、そして牛肉がのっていて、さらにその上にレモンと紅葉おろしがのせてあった。注文人数分のレモンがのっている。
では、さっそく……麺に箸を入れ持ち上げようとすると、ジュという音がする。この音がいい。瓦に面した部分はこんがりと焼けて香ばしい匂い。食欲をそそる。なかなかほぐれない麺に苦労しながら、つけ汁につけてすする。そう、瓦そばはつけ汁につけるタイプのそばで、出汁にはポン酢が入っていて、醤油ダレと絶妙なハーモニーになっている。すする、すする、うん、うまい。ポン酢の酸味が口の中に広がり、どんどんいける。錦糸卵の甘みが時折アクセントになって、どんどん箸がすすむ。あっという間、10分もかからずに完食してしまった。あぁ、満足満足。
ところで、なぜ瓦の上にそば、なのだろうか。あとで調べたところによると、西南戦争の野戦時に、兵隊さんたちが崩れた家の瓦を熱して、その上で肉や野菜を焼いて食べたことが始まりらしい。その話を聞いた高瀬慎一氏(元祖瓦そば「たかせ」の創立者)という方が山口の新しい名物にするためにそばを焼いてメニューにしたという。いろいろなそばを試してみたが、焼いたときにお茶の香りが広がるということで、茶そばが瓦に載せられたらしい。今では山口の名物としてだいぶ知られるようになった。
さて、瓦そばでしっかり腹ごしらえしたので、午後、もう一度中原中也記念館に行ってみようかな、などと思う私であった。
長州屋 湯田店
山口県山口市湯田温泉4-1-7
055-5571-5277