『犯人の犯沢さん』感想

ゴールデンウィークに漫画を読破。

今年はお出かけができないので、広告を見て気になっていた漫画『犯人の犯沢さん』をまとめて読んでみた。
その感想を簡単に書き留めておきたい。
(※ネタバレあり)

『犯人の犯沢さん』1〜5巻
名探偵コナンに出てくる「黒ずくめの犯人」が主役のスピンオフである。
実は、名探偵コナン本編は数巻しか読んだことがなく、小学生の頃少しだけアニメと映画を観た程度の知識である。

小ネタ(元になっている事件の犯人や小道具)はあまりわからず、知らないキャラクターもいたが、それでも犯沢さんの強烈な存在感のおかげで楽しめる。

スピンオフと言えど、この作品の笑いは「主人公犯沢さんの“読者目線”」によるものである。

他作品のスピンオフもいくつか読んだが、基本的に登場人物は本編の世界を「当然」のものとして扱っている。
三次元の世界を基準に考えたらおかしなことがあったとしても、本編やスピンオフの中でそれを取り上げることはない。

読者であるわたしも、漫画を読みながら「現実にこんな人はいない」「何年小学生をやっているんだ」「数日の話に何年何ページかけてるんだ」と、そこまで深刻には考えないし、もしくは知らないふりをしている。

しかし、作中の人物が「漫画では三日の話なのに、連載は一年かかってるよ。いい加減疲れてきた」などと「メタ発言」をすることは、一歩間違えれば一気に世界をぶち壊しにしてしまう危険性がある。

しかし、『犯沢さん』は初っ端からそれをやっている。これは、主人公の犯沢さんと読者が、「本編」を一歩引いた目線で見る話である。

コナンの住む米花町は犯罪都市。
犯沢さんが、米花町で電車を降りようとすると他の乗客が必死に止めてくる。
いざ家を借りようとするも事故物件だらけ、無事故物件はめちゃくちゃ高い。
事件ばかり起きるので、夜は外も歩けない。コンビニすらやっていない。武器を持ち歩くしかない。
危険極まりない町である。とても住んでいられないが、市役所は住民流出を防ぐため、わざと手続きをさせないようにしている。
挙句に年中年中、毛利小五郎が事件に遭遇するので警察が出払ってしまい、免許証の手続きさえ進まない。本来、犯人検挙の立役者と感謝されるべき毛利探偵のはずなのに、免許更新待ちの一般市民は「おのれ毛利」と怒りを募らせている。
遊園地は厳重に警戒。「なぜ」か調整中のアトラクションばかり。唯一動いているからと、乗った観覧車は爆発する。
そしてビルも爆発する。春だから…(大人の事情)。

本編が始まったのが1994年。
20年以上経つが、コナン(新一)は変わらず高校2年生。
原作漫画、映画、アニメの事件量を考えたら、1日1回事件に遭遇したとしても回数が合わなくなる。
そこに整合性を求めようとすると、確かにかなり頻繁に事件が起きていなければいけなくなる。

米花警察署に貼り出されている「先月の事件数」は、151人。
実際の統計資料を確認してみたが、日本中の事件が全て米花町で起きていたとしても多すぎる件数である。

『海外旅行へいく飛行機内でコナンに会った』
『せっかくの休みなのに、温泉宿にコナンがいた』

こういうネタは、SNSなどで時々目にすることがあった。あくまで読者目線の「もう、絶対事件起きるじゃん!」というジョークである。

しかし犯沢さんは公式(スピンオフ)でありながら、堂々とそれをやってのけている。

大家さん「ここ20年事故物件は爆発的侵食を見せている。何者かの陰謀か、はたまた死神の仕業か…」

阿笠博士「爆発は春の季語じゃよ」

蘭「(犯沢さんの包丁を手で丸めて)うんざりなんですよ。」

「仮にも公式スピンオフがそれ言っちゃうの!?」と、半ば驚きである。
長期連載の触れてはいけない部分に、「20年間も小学生やってるの?」なんていう軽い小突き方ではなく、「この町、事件だらけだよ!死神でもいるんじゃないの?春はいくつも爆発が起きるんだよ、映画のために」と思い切りどつき回している。

これをもし、他の長期連載漫画やアニメがやったとしてもこのような笑いにはならないだろう。
せいぜい「毎年毎年、クラス替えで◯年生になる」「いつになったら大人になるんだろう?」程度の優しい笑いで終わってしまう。
これはコナンのスピンオフだからこそできる話である。

「道に針を捨てるモラルハザードおじさん」
毛利探偵事務所の近くには大量の「謎の」ハリが落ちている。
読者の「あのハリ、どうなってるんだろう。」という「気にしてはいけない疑問」に対する一つの回答である。
なんと、小五郎の首に何本も刺さりっぱなしになっているのだ!!!
小五郎も特に気に留めず、首を掻いて何気なく針をぽいぽい捨てている。
コナン君、せめてこっそり取ってあげようよ…。

犯沢さんは、もちろんそんな背景は知らないので、小五郎が道にハリをポイ捨てしている「モラルハザードおじさん」だと思い込んで怒っていた。

ヒッチハイクで帰省
犯沢さんは出雲の実家に帰省することになる。
しかし、「出雲→米花町」は2万だが、米花町→出雲」は10万。
人口の流出を防ぐためらしい。

仕方なく、ヒッチハイクをすることになった犯沢さん。まさかの、コナン、小五郎、蘭の車に乗せてもらうことに。
誰しもが思う「たとえ大金を貰っても乗りたくない車」である。

犯沢さんが乗ってすぐに、近くの車内に倒れている人を見かけて事件を発見。その後も当然ながら道中、事件事件のオンパレード。
ショックで体調を崩す犯沢さんに蘭は、
「そんなに心を揺らしていたら身が持ちませんよ」
と言い放つ
蘭の感情のない表情がとても怖い(笑)
女子高生にも関わらず、米花町に住み、身近に探偵がいるばかりに、行く先々で事件に巻き込まれ続ければ、それくらい達観しなければやってられないのかもしれない。

本作で蘭は人間離れした強さを持っている。銃弾を手で掴んで止めたり、包丁を素手で曲げたり、波動(?)で人を飛ばしたりする。
尖った髪型は頭から垂直に伸びており、本当にツノのようである。
作中の一部の画像だけ取り上げられたときに、本編ではなくスピンオフだと一目でわからせる目的もあるのだろうか。
どちらにしても、ネット上で「ツノ」と言われている髪型を縦に伸ばす思い切りの良さがこの作品の面白いところでもある。

ところで犯沢さんは復讐のために「ある人物」を探しているらしい。その人物との間に何があったか、誰なのか…それはこれから明かされるのだろう。

「米花町の事件の多さ」「登場人物の言動」による笑いのみにとどまらず、今後「コナンのスピンオフ」ならではのシリアスな展開も見られることを期待している。


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