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【感想】ルックバック
劇場版ルックバックをPrime Videoで観ました。
エンドロールを見るまで知らなかったのですが、原作はファイアパンチやチェーンソーマンで有名な藤本タツキさん。ジャンプ+に読み切りが公開された当初は非常に話題になったのだとか!全然知らなかった。お恥ずかしい。
本作を観ようと思った理由
劇場でルックバックのポスターを見かけて気になっていた
しかし観ることができないまま上映終了
年始にPrime Videoで発見して歓喜
上映時間が60分もないため、さらっと見られそうと思った
全体的な感想
号泣に次ぐ号泣でした。さらっと見られるだなんて、とんでもない。この上映時間とは結びつかないくらい濃厚で大事な要素が詰め込まれていました。誰にでも味わったことのある悔しさや努力や喜び、そして喪失感。それでも生きていかなきゃいけない日々を、とにかくたくさんの背中が語っていました。
コミックも買って読み、また懲りずに号泣してしまいました。
*ここからネタバレを含みます。
分かりみが深い藤野の幼少期の体験
自分が得意だと思っていること。殊更周りより飛び抜けてて、自分才能あるな、絶対一番上手いな、なんて思っていた「絵を描く」こと。いつも周りに褒められて満更でもなくて。そんな得意なことを、自分よりもっともっと上手い人が出てくる。これは誰もが味わう挫折ですよね。自分なんかよりずっと上手な人がいるというのは、なかなかにショックなものです。その事実にただでさえ落ち込んでいるのに、周りからの悪気のない一言というのは特にグサリと来ますよね。
没頭という名の努力
京本の絵を見て、学校に来ない間も京本は絵の練習をしているんだ、と気がついて、ひたすらに来る日も来る日も絵の練習をする藤野。本棚に参考書が増えていく描写やスケッチブックが溜まっていくところは、こんなに没頭できるなんてすごい!と純粋に感動してしまいました。得意なことでも、悔しくても、その後努力できる人って少ないと思います。そこでやめてしまう人もたくさんいると思うから、藤野はよほど絵を描くことが好きだったのだと思いましたし、同時にこんなに没頭できることを小学生のうちから見つけられるなんて、なんて羨ましいんだ!とも思いました。
中学生になるということ
あまりに絵を描くことに夢中になっている藤野は、周りから様々なことを言われますね。両親が心配してると姉伝いに聞いたり、友人から中学に行ってもそんなだったらオタクだと思われちゃうよ、と言われたり。親はともかくおせっかいな人というのはどこにでもいますよね。そんなどこにでもいる人と同じになることを仄かに強要してくる、みんなと同じ出なければきもい、という思想に辿り着くのが日本ですね。どうか藤野、ここで負けないで!と思ったけれど学年新聞を見て「や〜めた」と一言。あれだけ努力して、京本より自分の方が上手いと心から思えない日々は辛かったでしょう。だから、周りの囁きに唆されて、ポッキリというのか、すっぱりというのか、努力してきた日々を捨ててしまう気持ちもよくわかる。いや、でもすごい。あんなに夢中になってできることって本当になかなかないものです。ここまでの努力を褒め称えたい。
京本との出会い
これはとてもよかった。部屋から出てきた京本が可愛すぎて・・・。本当に藤野の4コマ漫画が好きなことが伝わる、そして京本の人柄もよくわかる。きっととても心が優しいからこそ、人に傷つけられるのが怖くて、部屋から出られなくなってしまったのでしょう。
藤野にとっては、京本というライバルからあんなにも褒められ認められ、サインを求められるなんて思いもしなかっただろうけど、今までの全てが満たされた瞬間だったのではないでしょうか。5年生から話も絵も上手くなっていって、と京本が気づいてくれていたことも、あの努力の日々を唯一認めてくれた人として、本当に嬉しかったろうなと思います。
そして、4コマ漫画をやめたのは漫画の賞に作品を出すからだと藤野は嘘をつきますが、家に帰って速攻取りかかれるところを見ると、やはり本当に頭の中にはネタを持っていたんだろうなと思いました。「や〜めた」で、すっぱりやめたように見えて、やはり好きなことって自然と考えてしまう。それが例え絵を描いていなくても。
また、京本と会った帰りに、溢れ出す喜びが隠せなくなってくる藤野が可愛かったです。あんなふうに田舎の田んぼを走ってみたいものです!
中学生で佳作
制作に1年以上かかったとはいえ、書き始めたものをきちんと完成させ、そして応募した、ということだけで本当にすごいと思いました。描いても描いても終わらない、と言っていたし辛い日々もあったでしょうが、二人で描いていたから続けられたのではないかな。
賞の発表の日、二人で雪の中コンビニにジャンプを買いに行くのよかったですね。本当に可愛い・・・おめでとうございます!
田舎での5000円
佳作で100万円手に入れた二人は多分半分こして50万ずつ。そこで、藤野が10万を降ろしてきて、街にいって好きなことしようと誘う。街といっても田舎の中学生が行ける街にはそこそこ限度があるので、5000円しか使わなかったと言った藤野が可愛くて。東京だったら秒で無くなりそうだし、高校生だったら秒で無くなりそうだから、田舎で中学生、というところもほっこりしました。
街中でも京本が藤野に手を引かれるシーンがありました。いつも京本は藤野の背中を見ているのです。見返して泣きそうでした。
それぞれの道を選ぶとき
高校生まではなんとなく流れで周りの様子も伺いながら・・・みたいなところがありますが、高校卒業後何をするかは、かなり人によると思います。
藤野は、7作も読み切りを載せて実力もついてきたわけだし、編集者から連載の話を持ちかけられてもちろん当然やります、という意気だったけれど、京本が美大に行きたいと切り出す。これも切ない。
小学生からの知り合いとここまで繋がっているのってすごいことだと思うんです。ここで道を違えるのは割と普通のことだと思いますし、まだ若いんだから色々やりたい気持ちもある。「もっと絵が上手くなりたい」が理由だったのは、今までずっと部屋に引きこもって絵を描いてきた京本だからこそという気がします。ここで連載を始めてしまったら、絵を学ぶ機会はなかなか訪れないかもしれないですもんね。
藤野が「私についてくれば」と言うセリフ、これもいつも藤野が先に歩いていて、そこに京本がついて行っている、その関係も出ていましたね。
美大での事件
これ、もう、本当に許せないです。犯人の「絵をパクられた」ことが事実かどうかなんてどうでもよくて、それが人を殺していい理由になんかならないわけですよ。本当に、悔しい。パクられたくない絵ならそもそもネットに公開するな、そして本当にパクられていたのであれば著作権を主張して法的措置とか、それができないのが現状なら、安易にネットに載せた自分にも反省すべき点はある。そんなことも考えずに、パクったやつを殺すなんて、なんて頭が悪いんだ。でもこういう何もかも感情任せに衝動的に何かを行なってしまう人っていますよね。そうなるともう天災とか災害の扱いで、本当に運が悪かった、となってしまう。そんなの辛すぎる・・・。
と、犯人についての感情が昂ってしまいましたが、この件を聞いた藤野は、京本が「じゃあ私ももっと絵ウマくなるね!」と言っていたことを回想します。京本が絵が上手くなりたいと思うのは自然なことだと思いますが、自信家の藤野は自分のために絵が上手くなりたいと言ってくれた、とも思ってそうです。
そして「京本も私の背中みて成長するんだなー」と言います。
自分を責める藤野
前述した京本とのやりとりを回想しているあたり、藤野は徐々に自分のせいではないかと思い始めていて、そして京本の部屋の前まで来て、小学生の時、自分が京本を部屋から出したからだとパズルのピースが埋まり、自分のせいだと泣き崩れる。本当に見ていて辛かった。だって誰のせいでもないんだもん、というか犯人のせいなんだもん!
京本はジャンプを買って藤野の作品を楽しみにしていただろうし、そこからひらりと落ちてくる小学生の時に藤野が書いた4コマも切なかった。
パラレルな世界の二人
藤野が破った4コマの「出てこないで」だけが京本の部屋へ吸い込まれていく。そして二人は小学校の卒業式の日に会わない。
それでも!京本はやっぱり絵が上手くなりたくて美大に行く。やっぱり!藤野のせいなんかじゃない、ってずっと伝えたかった!そもそも小学生の時から学校に行かなくて暇だから絵を描き始めたと言っていた京本、きっかけは何にしても、やっぱり好きでないと、または何か幸福を感じていないと、続けられないと思います。特に学生時代は。だから、この描写があって本当に救われたし、本当に純粋に絵が上手くなりたいと京本が思っていたことがわかってよかったです。
そして同じ事件が起きるも、空手をやっていた藤野のスーパーセーブで難なくを得る。救急車に乗せられる藤野と京本がそこで始めて出会う。こんな世界もいいなと思いました。結局二人はどこかで会えるんだ。
背中を見て
パラレル世界の京本が書いた4コマが、主軸の世界の京本の部屋から流れてくる。4コマのタイトルは「背中を見て」。パラレル世界で起きた場面の一部が使われていて、助けた藤野の背中に工具が刺さっている。
なんと表現していいか、この4コマが秀逸で。藤野の自信満々な性格がよく現れていると思いました。
そしてタイトル。「背中を見て」は作品タイトルの「ルックバック」の直訳ですよね。私は、look backは「振り返る」と言う意味で認識していたので、作中「背中を見て」と出てきた時、まあ直訳したらそうなるか、くらいに思っていました。でもこの「背中を見て」や「ルックバック」にはいろんな意味が込められているなと感じたのでいくつか記載します。
いつも京本は藤野に手を引かれて藤野の背中を見ていた。だからこそ、京本は藤野のことがよく見える。いつも自信満々の藤野自身の背中を見て欲しい(工具刺さってる4コマと同じ)の意味。
いつも京本は藤野に手を引かれていたので、振り返って欲しい(ルックバック)、自分のことも見てほしいの意味。京本が自立したいと言ったのは、いつも手を引く藤野の存在があったからこそ。
京本の部屋の前でうずくまる藤野にドアを開いて自分(京本)の背中を見てほしいの意味
look backには回顧する、追憶する、の意味もあるので、連載漫画があまり上手く行っていない藤野に、子供の頃の輝いていた頃を思い出して、描き続けてほしいの意味。
など、何だか上手く言葉にできないのですが、とにかくいろんな意味にとらえられる。それも素敵だなと思いました。
京本の部屋
藤野が京本の部屋に入ると、藤野の連載漫画を応援しているのが伝わってきましたね。一巻がめっちゃあって、少しでも売り上げに貢献しようとしてくれていたことがわかります。そして、部屋のドアにかけられた藤野のサイン入り半纏。あんなの見たら泣いちゃいますよ・・・。
部屋の窓には4コマまんがが7つ貼ってあり、一枚だけセロテープだけが貼り付いているところがあります。そこから風で飛ばされてドアの下を潜ったみたいですね。
京本の部屋で、藤野が回想をします。「漫画を描くのは好きじゃない」と藤野。その後、じゃあなぜ描くのかを京本に尋ねられて、明確な言葉はありませんが、京本が自分の作品を認めてくれたこと、二人で一緒に描き続けたあの日々、そういう幸せがあったから描き続けられたんですよね。
背中で始まり背中で終わる
京本の部屋から戻る時の背中は、もう哀愁だけではなく何か決意を感じられるような背中でした。
そして自分の作業部屋に戻ってきて、また漫画を描き始める。その背中でこの作品は終わります。
京本の存在がどんなに大切だと気がついても、もう京本に会うことはできない。漫画には書かれていないですが、劇場版の方では、藤野のアシスタントさんがどんどん辞めてしまう、いいアシスタントさんが見つからない描写があります。やはり藤野はアシスタントさんを京本と比べてしまっているのでしょうし、藤野自身も二人で描いていた頃よりも楽しく描けていない様子が出ていました。それでも、日々は続いていくし、京本のように連載の続きを楽しみに待ってくれている読者がいる、そんなことを思い出してまた机に向かっている京本の背中が、切なくて、そしてかっこいいなと思いました。
最後に
この作品を見られて本当に良かった!何なら去年劇場で観なかったことを後悔していますが、きっと号泣のあまり周囲に迷惑をかけていたと思うので、一周回ってナイス判断でした。
私も何かに没頭できるものを見つけたい、やりきれない日々も、原点を見つけられたらきっと乗り越えられる気がしています。
今年も始まったばかりなので、色々とチャレンジしていきたいです。