68:アコギ
私は迷っていた。
私は音楽がやりたかった。
私の家庭は音楽とは無縁であった。
クラシックの英才教育でもなく、高校ではバンドをやるのはキモいという感じであった。
かくいう私も音楽は疎かった。
そんな日も過ぎ大学生。
孤独を知った。
大学の仲間と信頼を掴めなくなり、
一人で行動するようになった。
一人でいると、自分の苦しい過去を思い出した。
小学校中学校いじめられてから、頭の中に見知らぬ声が聞こえるようになった。
その声はとても大きく、厄介だった。
普通を強要するあいつらに、想像と現実の区別がつかなくなっていた。
周りの人に似せて作られた幻想は、こちらに侵入し、私を無意識に蝕んでいった。
結論から話すと、私はこの戦いに負けた。
大学で選考する方の道を選んだのだ。
それでもたまに思う。
もし音楽の道を選んで、ライバルと頑張りながら、
オーディションや小さなライブを繰り返し、
今日の飯ギリギリで生活するその世界。
そこはどうにも楽しそうで、苦しそうだ。
だが、今の私は、違う。
安定の2文字のために、大学を卒業し、そっちの世界に入る。
それでもいいのだ。
今ならまだ引き返せるだろう。
このまま決心が揺らいでも、しょうがないのかもしれない。
だが、これは一つの人間の覚悟だ。
人間は何かにつけて理由と言い訳を探す。
フロイト的で過去に帰納しようとする。
私は未来のために生きる。
そのために一つ決めたのであれば、
それを曲げることは許さない。
でも時々、
無性に懐かしくなって、
また、
ギターを弾くのだろう。