【イベントレポート】monopo session vol.21 「コピーライティング」- Tokyu Agency 室屋慶輔さん / CHERRY 片岡良子さん-
10月27日(木)に開催されたmonopo session vol.21の様子をお届けいたします。今回のSENPAIは、東急エージェンシーの室屋慶輔さんと、ADK発のクリエイティブブティック「CHERRY」の片岡良子さんのお二人。どちらもTCC(東京コピーライターズクラブ)会員のコピーライターさんです。 お二人が普段どのようにコピーを考えているのか、実際にプロジェクトの事例を交えてお話いただきました。
SENPAIのご紹介
室屋 慶輔 東急エージェンシー|Creative Director / Planner / Copywriter
2010年東急エージェンシー入社。幅広く企業の広告キャンペーン、コミュニケーション開発・企画・コピーなど、課題解決のための統合的なプランニングを手がける。
2022年ADFEST審査員など。TCC会員、日本デザイナー学院講師。
ACCシルバー、広告電通賞ゴールド、JAA賞グランプリ、TCC新人賞、TCCファイナリスト、ギャラクシー賞、日経広告賞、フジサンケイグループ広告大賞など受賞。
片岡 良子 CHERRY|Copywriter
2012年ADK入社。約5年営業を経験し、コピーライターに転向。TCC新人賞、FCC古屋彰一賞、CCN賞、広告電通賞、BOVA審査員特別賞など受賞。広告されない、ちいさなモノゴトマガジン『ちい告』共同編集長。2022年からCHEERYに所属。
モデレーター紹介
宮川 涼 Creative Director/Engineer
ブランドとユーザーをつなぐコミュニケーションの企画から、クラフト、世の中にどう広げるかまで、横断的にディレクション・制作しています。 漫画・映画・音楽・テレビ・ラジオがめちゃくちゃ好き。
人格化したキャラクターを言葉で表現する
まずは室屋さんがプランニング・コピーライティングを手掛けた「セブン銀行」の事例をご紹介いただきました。
「わたしが、セブン銀行です。」
クリエイティブのコンセプトは「ATMの人格化」。"擬人化"ではなく、誰もが見かけたことがあるATMの筐体自体には手を加えず、そこに一つの"人格"を宿らせることを軸に、言葉からビジュアルまで作り上げていったそうです。
クライアントから依頼された「セブン銀行のイメージ・利用意向の向上」をゴールに設定し、スペックや既に持っていたイメージなどからファクトを洗い出し、それに基づく柱をまず決める。そこから利用者にとっての価値をワードとしていくつか挙げていき、言葉に落とし込んでいったそうです。
――反響はありましたか?
室屋さん:「SNSではメインコピーの他、"『はじめまして』…でもないんですけどね。"、"端っこって、落ち着きますよね。"などが評判良かったのですが、これらはATMの人格を表すトンマナを作るコピーだったので、真ん中が伝わったんだなと思いましたね。
クライアントも途中から『ATM君が〜』と話すようになってくれて、キャラクターが浸透してきた感じがありました。」
――室屋さんにとってこのプロジェクトはどんなものだったのでしょう。
室屋さん:「正直なところクライアントからブリーフが出てきた時点では、難しそうだなとチームメンバーで話してたんです。でもセブン銀行の企業やサービスとしての姿勢や哲学を聞いていく中で、とにかく人の使い心地のためにやっていて、それがとても健気でチャーミングだなと思って、コピーにしたいと思いました。
プロダクトによっては難しいものもありますが、自分の頑張りと光の当て方次第で、発見さえあれば、何でもメッセージングできるんだなとこのプロジェクトで学んだのはありますね。今でも励みになっています。」
ターゲットとブランドのUSPが握手できるところを探る
続いて片岡さんには、対照的な二つの事例をご紹介いただきました。
一つ目は、明治エッセルスーパーカップの事例です。
「ふつうの日、スーパー最高では?」
片岡さんがコピーを作る時に基本としている考え方が、ターゲットとブランドのUSP(Unique Selling Proposition/独自の強み)がどこで握手できるかということ。
既にスーパーカップの知名度は高く、USPは「王道」なところだと思っていたところ片岡さんは「ふつう」と言い換えコピーに採用しました。ここで「ふつうの日」としたところに片岡さんのこだわりがあります。「普通が最高」と言い切ってしまうと、「自分は普通じゃない」と疎外感を持ってしまう人が出てきてしまうのではと考えたそうです。受け手の気持ちをとことん考えることも、コピーライターにとって大事なことだと気付かされました。
デジタル上のコミュニケーションではまず「自己紹介」を
もう一つ片岡さんにご紹介いただいたのは、EDのオンライン診療サービス「Oops」の事例。
「ED診療、ぜんぶオンラインで。」
(こちらのページからボディコピーもご覧いただけます。)
スーパーカップの時は真ん中に来る言葉から考えていましたが、Oopsでは頭(自己紹介)とお尻(読後感)を先に考えたと説明する片岡さん。
Oopsはスーパーカップと違ってまだ世の中に認知されていないものであることと、デジタルだけで完結するコミュニケーションを取らなければならないという状況から、まずは「Oopsが何者なのか」という自己紹介が必要だと考えられたそうです。読後感を意識したコピーは「思い合うふたりのために。」で、これはOopsがどのように受け入れられると良いのか、良いサービスだと思ってもらうためには、ということを考えて作られたとのことでした。
――このコピーで目指したことはどんなことだったのでしょうか。
片岡さん:「コピーで世の中やターゲットの認識をどう変えたいのか、このブランド(サービス)はどんな未来を目指すのかをまず整理しました。Oops自体のビジョンがはっきりしていてメッセージ性も強かったので考えやすかったですね。
デジタル上でのアプローチでさらに新しいものを伝える時は、コピーでいいことを言うよりも何者かをわかってもらえることの方が大事なので、シンプルにわかりやすいコピーにすることを心がけました。」
みんなが向かう北極星は、言葉で生まれる
お二人の事例紹介を受けて、宮川から出た「みんなが向かう北極星は、言葉で生まれる」という言葉。これについて議論が進みました。
宮川:「企画に関わる人たちがみんな言葉を目指していく感じがありますよね。コピーによって企画がドライブしていったり、人格が形成されていくということがあるんだなと。」
室屋さん:「言葉は骨格を作れるんですよね。それでもまだクリエイティブの余剰を残すことができて、監督や他のクリエイティブの人たちが関わっていくと二人力、三人力となって完成していく。絵コンテよりも字コンテを渡された方がバイアスがかからずに本質が掴みやすく、結果発想しやすいと言われることもあります。」
片岡さん:「言葉を使ってできることが多いからこそ、悩むこともあります。枝葉から考えるのか、真ん中から考えるのか。私自身は枝葉を考えるのが好きなんですけど、そうすると真ん中は何だっけってなったりとか。」
室屋さん:「枝葉から考えていくと、自分では気づいていなかった真ん中が見えてくることもありますよね。」
コピーには未来性を入れる
休憩を挟んで、パネルディスカッションへ。
――コピーを書く時に考えていることやプロセスについて教えてください。
室屋さん:「片岡さんの矢印の図のようなことを自分も考えますね。コピーは現状の価値だけを伝えるものではなく、そこに未来性を入れるものだと思っていて。コピーを見て、誰かがAだと思っていたものがBになるにはどうしたら良いかを考えて企てています。コピーは小さくて大きな企画だと思うんです。どうにか言葉で誰かを動かそうって。
実際に言葉を考える時は、8割くらいリサーチにかけてますね。よくやってるのはSNSで商品やブランド周りの不満や怒りなどの意見を探してそれに応えたり解決できることができないかとか、競合のことを調べて同質化ではなく、差別化できる価値はどこにあるかを考えたりしますね。」
片岡さん:「まずなぜコピーが必要なのかを考えます。それからクライアントが伝えたいこととターゲットの握手できるポイントや、コピーが何から何へ刺激する力点になるべきなのかを探します。
足を使って書けという教えは多いですけど、それは自分に合ってるなと感じます。調べると可能性を探れて安心するし、見つけたって思えることもあって。調べて整理する、ということに多くの時間を割いています。」
コピーは技術。過去のコピーから学ぶ
――日頃どのようなインプットをしていますか。
室屋さん:「案件のリサーチと似ていますが、何か話題となるニュースや事象が起こった時に、SNSで皆さんがどんな反応をしているかを見ます。それを見て『こういう風に受け取るんだな』とか、『こういうのが刺さるんだな』ということがわかります。」
片岡さん:「私は『コピー年鑑』を読むようにしています。コピーは技術だと思うので、良いコピーを見てキャッチと抑えの関係はどうなると良いのかとか、ボディコピーはこういうのが良いのか、などを意識的に学んでいます。」
客観的な意見も聞き、バランスを整える
最後の質疑応答で出た質問から1つのQ&Aをご紹介します。
Q: 伝えたいことを盛り込むことと言葉のリズムのバランスについて、どう考えているか教えてください。
室屋さん:「伝えたいことを優先すると、長めのコピーになりがち。自分で見直したり周りから客観的な意見をもらった後にブラッシュアップすると、削ぎ落として短くなることが多いです。特にボディコピーは一番客観的に見られないので、社内やできるだけ自分と遠い人に見てもらって意見をもらうようにしています。見せすぎるとブレるのでそこのバランスは取りますけど。」
片岡さん:「言葉の設計を考えながら作っていきます。これだけ語っておけば良いということもあるし、短くないと飛ばされてしまうということもあるし。絵や記号で整理した方が伝わるなどもありますね。私も信頼している人に見てもらうのはよくあります。」
私たちの生活に溶け込む言葉たちを実際に作り上げているコピーライターさんの、リアルな思考プロセスやお悩みなどを伺うことができ、今回も学びの多い回となりました。
室屋さん、片岡さん、ありがとうございました!
執筆:石原 杏奈 freelance PR( @anna_ishr )
撮影:馬場雄介 Beyond the Lenz ( https://www.instagram.com/yusukebaba )
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