
モノの図書館が寄与する社会的課題の考察
こんにちは。モノの図書館研究所の佐藤です。
前回の記事では、モノの図書館が発揮する機能のうち、環境的側面について温室効果ガスの削減効果の記事を書きました(https://note.com/mononotoshokan/n/n4eb8264d3331)が、今回はモノの図書館が寄与しうる社会的側面について書いてみたいと思います。
モノの図書館の持つ機能 ①お試し機能(体験格差の是正)
モノの図書館では、会員は安価もしくは無料でモノを借りることができます。ここで果たせる機能としては、お試しの機能であると言えます。一つは経済的事情や優先度の問題により、やってみたかったけどやらなかった体験は、そのハードルを取り除くことができる可能性があります。例えば、楽器はその最たる例と言えます。ヴァイオリンを弾いてみたい、ピアノを弾いてみたいという子どもがいたとして、楽器を借りるハードルは現状では高いのではと推察されます。(貸出のサービスは存在しますが、価格面や利便性などの観点から、お試しするにはハードルが高いと考えられます)また、電動ドリルなどはどうでしょうか。DIYをしてみたいと考えた時に、いきなり購入するよりも試してみたい、というのは皆が持つ自然な感情だと思います。昨今の日本のホームセンターでは電動工具の貸出を行っていますが、世界では稀であり、車で行く必要がある場所では、利便性の観点からハードルが高いかもしれません。理想は徒歩や自転車で気軽に行ける程度の距離が望ましいでしょう。近くで、気軽に試せるという機能が体験格差の是正に繋がり、創造性を高めるきっかけになるかもしれません。なお、アメリカの図書館で提供されているモノの図書館の発端は、生活保護者への貸出からスタートし、後に住民の基本サービスに進化したという歴史があります。(バークレー公共図書館の記事を参照 https://note.com/mononotoshokan/n/ne1ac1fb21b04)
モノの図書館の持つ機能 ②雇用機能(人材の活躍機会の創出)
2つ目に雇用創出機能が挙げられます。モノの図書館の運営における重要なポイントは、メンテナンスです。貸し出すモノの品質を維持し、安定した貸出を行うためには、清掃はもちろん点検や修理が必要になります。そこで雇用が創出されます。例えば高齢人材です。高齢化が進む社会において、高齢人材の活用は重要な課題です。その中で、近隣施設での勤務は高齢人材にとっても働きやすい環境となり得ると考えられます。また、それまで培ってきた専門性を発揮する機会にもなり得ます。また、障害者人材の活用にも活かせる側面があると考えられます。チェック項目を定め、一つ一つを丁寧に確認し、細かな清掃まで行うことを得意とする障害者人材も多く存在します。彼らの働く場所としての機能にもなり得ると考えられます。
モノの図書館の持つ機能 ③コミュニティ創出機能(つながりを通じたウェルビーイングへの貢献)
3つ目に挙げられるのが、コミュニティの創出機能です。モノの図書館の重要な機能として、使い方を教えるワークショップの開催が挙げられます。ワークショップは、道具を使ってみたいと考えている人にきっかけを与え、道具の利用につなげる重要な役割があります。ワークショップを通じて、参加者同士、貸し手/借り手のコミュニケーションが生まれ、コミュニティが生成され活性化されるとヒルズボロ公共図書館のブランダン氏*1は述べています。
地域内でのコミュニティ、つながりの創出は住民のウェルビーイングに関わります。末吉ら(2018)*2は、地域住民の主観的ウェルビーイングの向上には、地域住民間のつながりの増進が重要と述べています。
このように、モノの図書館の機能を小規模地域内に導入することにより、体験格差の是正、雇用創出、コミュニティ創出が可能になります。日本にはまだまだ少ないモノの図書館の仕組みですが、これからの少子高齢化の日本はフィットする仕組みなのではと思っています。ご興味を持った自治体担当者の方や図書館司書さん、福祉担当者さんなど、一つづつでも事例を作っていけたらと思いますので、ご連絡お待ちしてます。
*1 Wilsonville library set to introduce 'Library of Things'“It’s a way to try new things and learn things from themwww.wilsonvillespokesman.com
*2 末吉隆彦、保井俊之、飛鳥井正道、江上広行、本條陽子、前野隆司(2018) 「地域経済をめぐる二つの対立的貨幣観をテーマにした協創型ビジネスゲームにおける地域住 民の内的活力の分析:主観的幸福の 4 因子モデルによる定量評価を通じて」『地域活性研究』