9/15(日)田原町13のゲストは、“潜入ルポ”の横田増生さん
横田さんはなぜ、
潜入するのか?
ノンフィクションの書き手に「取材して書くこと」について訊いてきた「インタビュー田原町」の13人めのゲストは、最新刊『潜入取材、全手法』(角川新書)を書かれたばかりの横田増生さん。
9/15㈰19:00~20:50
浅草・Readin’Writin’ BOOK STORE(銀座線・田原町駅3分)にて、
「インタビュー田原町13 横田増生さんにきく」を行います。
ユニクロ、amazon、ヤマト運輸などの企業から米国大統領選トランプ支持の選挙ボランティアまで、さまざまな現場に潜入し調査報道を行ってきた「潜入ルポ」の第一人者に、潜入する理由と戦略をききます。
《ふざけるな、と思った。
取材は、街頭アンケートやキャッチセールスとは全然違う。私は名刺を渡してジャーナリストと名乗ったうえで、相手の名前や年齢を聞いてから取材しているのだ。おまけに、取材相手の写真も撮っている。そう反論した。》
横田増生著『潜入取材、全手法』(角川新書)、第五章「いかに身を守るか」p.186からの引用だ。
横田さんが何を立腹しているのかというと、
『ユニクロ帝国の光と影』(文藝春秋、2011年刊)と週刊文春に書いた、ユニクロの店長らの「サービス残業」や中国の生産工場の「過酷な労働実態」についての記述が名誉棄損にあたると、
2億2千万円の賠償金を求める民事訴訟を起こされた。その裁判をめぐってのこと。原告はユニクロで、被告は文藝春秋。横田氏自身は、訴えられてはいない。
『潜入取材、全手法』では、2011年6月から3年以上にわたるこの裁判の詳しい経緯が綴られている。
冒頭にあげたのは、証人調べに立った横田氏が、ユニクロ側の弁護士に問われ、
下請け工場の女性工員から20分ほど、雨降る中、工場の周辺で話を聞いた様子を話したあとのこと。ユニクロ側の弁護士から、
「それは街頭アンケートやキャッチセールスみたいなものですか」と聞き返されたのだという。
横田氏の怒りの度合いはともかく、冒頭のわずか3行に重要なことが具体的に記されている。
後にユニクロを仰天させる『ユニクロ潜入一年』(文藝春秋、2017年)とは異なり、『光と影』の段階では「潜入」取材は行ってはいなかった。
工場の敷地外で、横田は自身の名刺を渡し、身分をあかしたうえで女性工員たちにインタビューを行っている。その際、彼女たちが横田の名刺を手に話をしている写真まで撮影したという。
それを知ったうえで、あなたの取材は「キャッチセールスみたいなものですか」もないだろうが。
では、掲載しない写真をなぜ、横田さんは撮ったのか?
読むほどに大笑いしてしまう、法廷での弁護士と証人のやりとりが詳細に明かされる。
新書という、ボリュームのあるノンフィクションを書いてきた横田にしてはハンディな著作だが、
本来「潜入ルポ」というオモテには出てこない、調べられることは調べ尽くす「裏取り」を含め、横田がどれほど入念な仕事を重ねてきたのが見えてくる。
サブタイトルには「調査、記録、ファクトチェック、執筆に訴訟対策まで」とある。
帯では「誰でも使える、誰でも書ける。」と、潜入取材からブラック企業対策の実践ノウハウ本であることが強調されている。
手法をあえて明かすことによって横田増生は、10人、いや100人、後継者が誕生してほしいと記している。
出てくるのだろうか?
いわゆる安直なハウツー本などではない。ジャーナリストたる横田増生というひとりの「人間」、仕事バカぶりが見えてくる仕立てだ。
たとえば、第一章の「いかに潜入するのか」では、潜入ルポに大事なことは何かと自問し、二つをあげている。
一つは、現場では一生懸命に働く。
〈たとえ書くためにはじめた仕事であっても、一生懸命にやっているとおのずと見えてくるものがある。たとえ時給1000円でも、額に汗して働いていると、仕事のこの部分を改善したほうがいいというところまでわかってくるものだ(後略)〉
なるほど。『ユニクロ潜入一年』を再読すると、ついつい潜入であることを忘れるほどによく働き、周囲から頼りとされる「働き人」横田増生が登場する。
もう一つは、ウソをつかない。
この仕事をはじめる際にペンネームにしておけばよかったと後悔を綴っている。
応募の履歴書に偽名を使わない。
でも本名だと、著作から身元がバレてしまう。
では、どうしたのか……。
とった手段に、へぇーと驚かれる人もすくなくないだろう。
また、いかにして密かにメモをとっていたのか。
メモ帳はどんなのがいいのか。
録音は?
実際に用いたメガネ方の隠しカメラの使い方なども紹介している。
※当日は横田さんに、使ったカメラやメモ帳なども持参していただきます。
また、横田さんのいまにいたる足跡も書かれていて、よくデビュー作にすべて詰まっているといわれるが、
本書で紹介されている最初の単行本『アメリカ「対日感情」紀行』(情報センター出版局、2003年)を読むと、まさにそのとおり。
二年近くかけ、アメリカ全50州をまず現地で運転免許を取得することからはじめ、
クルマを走らせ、
不眠と腰痛に悩まされながら、
日本と関りがある(あった)にあてはまる(大半が初対面)の人たちに「日本」について訊ねて回る。
男がひとりハンドルを握る。ハイウェイ。バックにアコースティックギターのギュユユーンという音色が聴こえてきそうなロードムービー的おもむきすら漂い、取材の長期さ(根気)とエピソードの多様さに呆れはてるルポだ。絶版らしくどこか文庫にしてくれないか。
さらに横田増生の代表作に『評伝 ナンシー関』(中公文庫)がある。
「潜入」とは異なるジャンルだ。
死後10年を経て横田自身は、生前一度も会ったことのないナンシー関のことを、
彼女が消しゴムを買っていた文具屋もふくめ多様な人たちに聞いていく親本は朝日新聞出版(2012年刊→朝日文庫→中央公論文庫)を書いたときの工夫も書いている。
ジャンルは異なるものの、市井の人たちに話を聞くことを大事とする姿勢、視点には通底するものを感じています。なので、これらの本のことも是非きいてみたい。
■日時 2024年9月15㈰ 18:30開場/19:00開演~20:50(終了後サイン会あり)
■会場 Readin’Writin’ BOOK STORE(東京都台東区寿2丁目4−7 地下鉄銀座線「田原」駅下車2分)
※今回会場参加のみ、オンライン配信はありません。
■会場参加券
一般 1500円
リピーター割(過去に参観された方) 1200円
応援してやるぞ券 2000円
※中二階の畳桟敷を含め客席は25席。全席自由。開演までの待ち時間、会場は本屋さんです。ユニークな本棚を見てまわっていただくなり、開演前の公開打ち合わせ(雑談?)に耳をそばだてもらうなりしていただけましたら。
チケットは↓
ゲスト
横田増生(よこた・ますお)さん
1965年福岡県生まれ。米国・アイオワ大学ジャーナリズム学部で修士号取得。物流業界紙『輸送経済』編集長を経て99年よりフリーランスとして活躍。
2020年『潜入ルポamazon帝国』(小学館)で第19回新潮ドキュメント賞、22年『「トランプ信者」潜入一年 私の目の前で民主主義が死んだ』(小学館)で第9回山本美香記念国際ジャーナリスト賞受賞。
『仁義なき宅配 ヤマトvs 佐川vs日本郵便vsアマゾン』(小学館)、『ユニクロ帝国の光と影』『ユニクロ潜入一年』(以上、文春文庫)、『評伝 ナンシー関 ━━「心に一人のナンシーを」』(中公文庫)など。
聞き手
朝山実(あさやま・じつ)
1956年兵庫県生まれ。書店員などを経てフリーランスのライター&編集者。著書に『父の戒名をつけてみました』(中央公論新社)、『アフター・ザ・レッド 連合赤軍兵士たちの40年』(角川書店)、『イッセー尾形の人生コーチング』(日経BP)など。
編集本に『「私のはなし 部落のはなし」の話』(満若勇咲著・中央公論新社)、『きみが死んだあとで』(代島治彦著・晶文社)などがある。
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