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インディフィニト・ノート 3話

<前話までのあらすじ>

 新しいデスクで仕事が一区切りついた安藤は課長になって同じ部署に
新入社員(新人)が配属されて歓迎会が開かれる事となった事に気付い
た。が肝心の新入社員の名前(天海ミサ)と顔が一致しないでいた。
 部下の神永が不参加を不思議に思いながらも車の話をしていくうちに
愛車遍歴と女性遍歴から初体験まで遡ると最高の女性を思い出していた。

2話は<6~10P>こちらから

          3話<11~15P>

「あんたを良い男だと見込んで今夜だけ私と一緒に遊ばない?」
 女は耳元で、ささやくと安藤の顎を持って顔をワザと正面に向かせて、
じっと返事を待つ。
 視線は一時も離さずにだ。月明りでも、はっきりとわかる端正な顔立
ちで好みで言えば、ドストライクだった。至近距離で見つめ合うのは、
久しぶりだったので照れが勝ってしまい視線を外してしまう。
「視線、外すの禁止‼」 

 甘ったるい口調で言われたので心地良さが勝ってしまい。一瞬、ここ
は、キャバクラかと思ってしまったが山奥にキャバクなんてあるはずも
なく現実に引き戻される。
 こんな絶好のチャンスは二度と巡ってこないかもしれないと少し焦り
が出たのか金目的ならばケチな男と思われたくないので思いきって財布
を出しかけた時、相手の女性に手で制されていた。
「私をその辺の安い女と同じ扱いにしないで。お金には不自由していな
いのっ」
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 この言葉で急に相手が不機嫌になってしまった事が分かり、額に汗が
滲み始める安藤だが一度の失敗で諦めるには、あまりに惜しい女な事は
充分すぎる程に理解し始めていた。
(次の一手はどうする⁉)

 次外したら見逃し三振になるんじゃないかというような最悪な展開も
予想したが待ってるだけじゃ何も手に入らない。味方が誰もいない状況
では送りバントという奥の手も披露する事は出来ない。監督は俺自身。
安藤は、考え抜いた末に一緒にドライブしないかと提案した。

「いいよ。その代わり行く先は私が決めるね」
 金髪女と車の場所まで移動していると左手の薬指に指輪があるのが分
かった。初対面は、山の麓だった気がする。ギャラリーの中心でナンパ
待ちをしている女性を物色していたのだ。
 昔は顔とスタイルを重視していたので、独身が多かった。後腐れなく
ワンナイトの関係でいれるという理由も大きかった気がする。

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 「へぇー。あんた良い車持ってんじゃん。これホンダのNSXだよねっ」
 駐車場に停めてある安藤の愛車を見るなり金髪女が口を開く。
 「えっお姉さん。車に詳しいの?」
 峠を攻めていれば詳しい女性が居ても別段、不思議ではないのだが、
車名を一発で当てられたのは今回が初めてだった。中身にまで興味を持
ち始めたのは、この時だけだったのかもしれない。

「結婚する前に付き合ってた元カレが超欲しかったヤツで一時、カタロ
グを3日連続で見せられてるからね。流石に覚えちゃった。

 中央にエンジンが搭載されている。所謂、ミッドシップって呼ばれる
スポーツカーだよね! でも荷物は乗らないくらい狭いのよね~」
「スゴイや。もしかして車好きなの⁉」
 さっきとは異なる興奮が下の方から、せりあがって来る感覚になって
おり、助手席の扉を開けながら彼女をエスコートして自分も車内に乗り
込んだ。
   
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「全然、知識がやたら、あるだけで。もちろん。嫌いでは無いんだけど
さ。そうそう、私の名前は牧村かおり。宜しくね!」
 お互いシートベルトを締めながらの自己紹介をする流れになっていた。
「えぇーっ。漢字って、あの槇村香とか?」
 頭の中でシティハンターの相棒が浮かぶ。

「な訳ないでしょ。源氏名よ。週末、キャバクラで働いてるの。って言
っても気が向いた時にしか行かないから古参の客しか私の過去を知らな
いけどねっ。それより、こっちが、名前言ったんだから、そっちは何て
呼べば良いのか教えてくれない?」
 名刺を渡しながら牧村かおりと名乗った女は当然すぎる質問で返して
くる。
「俺の名前は、拓真。開拓の拓に真実の真。苗字は仲が深まったら教え
るかもっ」
「ふぅーん。そうなんだ。じゃぁ、たっくんって呼ぶね!」
 距離の詰め方も上手いなと改めて感じる安藤だった。  

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 かおりは時折、前髪をかき上げたり、耳に髪をかけたりしてセクシー
な行動を取り始めていたが狙ってるというよりは、既に染みついた癖と
言う方が正しいと思えるくらいに自然に出来ていた気がする。

 安藤は、女性が男性に時折見せる何気ない仕草フェチでもあった。髪
をかき上げた時は常時使用しているであろうシャンプーとトリートメン
トの薔薇と蜂蜜の匂いが車内へ充満してきており、耳に髪をかける仕草
の時は、隠れていたイヤリングがオープンな形で姿を現し、振り子の様
に、ゆらゆらと揺れている様を横目でしっかりと確認しながらアソコを
勃起させていた。

 コレクションは二つ目だな。密室な空間での女性と過ごす時間は仕事
の激務での疲れも一気に吹き飛ぶ程、癒されるし刺激的でもあったので、
どんなに疲れていても週末だけは家に引きこもる事をしないと決めてい
た。若さの特権とも感じていたし、引きこもるのは年取ってからでも、
充分だと思っていた。

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         3話<11~15P>  

1話は<1~5P>こちらから


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