盤があるなら嬉しいです #8【2020年度ベストアルバム】
今回はいつもと趣向を変え、音楽好きとして年が明ける前にどうしてもやっておきたいこと……すなわち今年のマイベストアルバムの選出記事にしようと思う。邦洋問わず2020年に発表されたフルアルバムで、私が聴いたものの中からトップ5を選んでみた。無論これはあくまで個人的な好みのランキングであり、クリティカルな視点で音楽的完成度を問うた結果のリストでは決してない。しかし、いずれも聴かずに通り過ぎるには惜しい傑作であることは保証しよう。
【5th】Fetch the Bolt Cutters / Fiona Apple
アメリカの林檎姐さん、堂々の帰還。一聴して圧倒されたアルバムという意味では、今年は本作とArca『KiCk i』が双璧。ヤバげな自撮りジャケを通過した先に広がるのは、部屋の壁を叩き、死んだ愛犬の骨を打ち鳴らす、奔放でパーカッシブな異形のサウンドスケープ。リズムの海をたゆたう彼女の歌声は、性差を呪う魔女の呪文にも、人間の生を賛美するチャントにも聴こえる。トライバルな狂騒と不器用な優しさが同居する、ドロリ濃厚なアヴァンギャルド・ポップ。
【4th】To Let a Good Thing Die / Bruno Major
柔らかな音、ソウルフルな声、甘いメロディ、ほのかに色気が漂うギター。ブルーノはイギリスのSSWだが、その耳当たりはブリティッシュなシニカルさからは程遠い。素直な優しさが溢れるイイ男っぷりに思わずこちらもロマンティックな気分になり、聴けば聴くほど「俺を惚れさせる気か!」と半ギレしたくなる。しずかな夜の街を包む毛布のようなスウィートソウル。寒い冬を迎えた今こそ、ぜひ。
(過去の紹介記事はこちら)
【3rd】おさきにどうぞ / 田中ヤコブ
バンド”家主”のメンバーとしても活躍中の若手SSWのセカンド。過去作でもそのソングライティングセンスの非凡さを見せつけていたが、今作もスレっからしのポップスファンを唸らせるグッドメロディの宝庫に仕上がっている。ヒネりを入れつつストライクゾーンど真ん中に投げ込んでくる作曲センスもさることながら、ここぞというところでキメまくるギタリストとしても腕も確か。私は圧倒的に支持します。
(過去の紹介記事はこちら)
【2nd】Truth or Consequences / Yumi Zouma
ニュージーランドの四人組、Yumi Zoumaの三枚目。いわゆるドリームポップの範疇の入るバンドだが、その中でも音作り、メロディともに頭一つ抜けているように思う。特に一曲目の"Lonely After"は2020年のマイベストソング。この曲の瑞々しさに何度心が救われたことか。後に本作をまるまる別アレンジに料理しなおした『Truth or Consequences (Alternate Versions)』もリリース。キャッチーなリフをオミットしながらも別な角度から曲を立たせるなど、楽曲の持つ強度の高さを裏打ちするような離れ業も見せつけている。本作と併せて聴いてほしい。
【1st】Women In Music Pt. III / Haim
カリフォルニアの三姉妹、Haimのサードにして最高傑作。鬱、病気、親しい人の死、そして社会で女性として生きること……それぞれの混乱、それぞれの悲しみ、それぞれの憤りを、ネガティブに飲み込まれることなく、カラッとした耳触りの良いポップロックに仕上げており、どこか90年代のライオットガールムーブメントへの一つの回答のようにも感じる。最もよく聴いたYumi Zoumaとどちらを上にするか迷ったが、ロック、エレポップ、フォーク、カントリー等々、あらゆる音楽を取り込むバンドの懐の広さを鑑みて、こちらを1位とした。現代を生きる女性たちのしなやかな戦いは、こんなにも人を踊らせる。
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というわけで、これにて2020年度のnote更新は最後になります。七月の定期更新開始から半年間ご愛読くださった皆さま、本当にありがとうございました。よろしければこのまま来年もお付き合いくださいませ。引き続き、スキ、コメント、ツイッターでのいいね拡散等いただけると、励みになりますのでよろしくお願いいたします。みなさま、どうかどうか良いお年をお迎えくださいね。
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