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サルトルの実存主義が今日の新自由主義的格差社会をつくった

現実の歴史を振り返ると、サルトル以降、怒れる若者たち、ビートニック、フリーセックス、ロック、麻薬、過激派、そしてその世代が中堅や支配層の世代になってグローバリズムや米国巨大多国籍企業による世界支配、ビルゲイツやイーロンマスクによる世界の富の集中につながっている。一連の歴史的な流れにおいて、サルトル以降の文化的・思想的変化から、20世紀後半から21世紀にかけてのグローバリズム、巨大多国籍企業、そして一部の超富裕層による世界支配への流れを考察し、どのようにこれらの現象が互いに結びついているかを示します。


### 1. **サルトルの実存主義と個人主義の高揚**

サルトルの実存主義は、第二次世界大戦後に非常に大きな影響力を持った哲学であり、「自由」と「自己決定」というテーマが強調されました。彼の有名な命題「実存は本質に先立つ」という考えは、個々人が社会や制度から押し付けられた役割や価値から解放され、自己の選択に基づいて自己を形成するべきだという思想です(実存は自分、本質は神、と読み替えればサルトルの考えがわかります)。


この個人主義的な自由の強調は、以下のような文化的・社会的な運動や変化に影響を与えたと考えられます。


- **怒れる若者たち(Angry Young Men)**: サルトルの影響を受け、1950年代以降の若者たちは従来の価値観や権威に対して強く反発し、自分たちの生き方を自由に選択することを求めました。

- **ビートニック**: 1950年代のビート・ジェネレーションは、サルトルが提唱した個人の自由や自己表現の考え方をさらに進め、物質主義や権威に反発し、精神的な自由を追求しました。

- **ロックとカウンターカルチャー**: 1960年代には、個人の自己表現や反権威主義がロック音楽やヒッピー運動、さらにはフリーセックスやドラッグ文化と結びつき、「自己の解放」というスローガンが広まりました。


これらの文化的ムーブメントは、いずれも個人の自由や自己表現を重視するという点で、サルトル的な実存主義の影響を受けています。しかし、ここで重要なのは、こうした自由や個人主義が次第に**自己の利益を追求する方向へ**転換していった点です。フリーセックスやドラッグといった一見自由を拡張する運動は、次第に社会的な連帯や責任感の喪失に繋がり、自己中心的な個人主義が強調されるようになりました。


### 2. **過激派や反権威主義からビジネスへの転換**

1960年代から1970年代にかけての反権威主義的な若者運動や過激派活動は、社会の既存の秩序を根本から覆そうとしました。しかし、これらの運動の多くは、1970年代以降に衰退し、多くの若者たちは次第に経済的成功や自己実現を追求する方向に転換しました。


- **1970年代から1980年代の新自由主義の勃興**: マーガレット・サッチャーやロナルド・レーガンの新自由主義的な政策は、自由市場を強調し、国家の経済介入を最小化することを目指しました。これにより、個々人や企業が市場での競争を通じて自己利益を追求するという風潮が強化されました。

  

- **元過激派のビジネスマン化**: かつて反体制的であった若者たちの一部は、80年代にはビジネスや企業活動の世界に移行し、経済的な成功を追求するようになりました。この変化は、かつての自由や反権威主義の理念が、次第に「個人的成功」や「経済的自由」へと変容していく過程と一致します。


### 3. **グローバリズムと巨大多国籍企業の勃興**

1980年代以降、グローバリズムが急速に進展し、多国籍企業が台頭しました。この背景には、以下のような要因が挙げられます。


- **市場至上主義**: 自由市場を強調する新自由主義的な政策が世界的に普及し、多国籍企業は国境を超えて自由に活動し、利益を追求することができるようになりました。これにより、企業の利益追求が個々人の利益と結びつき、競争が激化しました。

  

- **技術革新とネットワーク社会**: 1990年代から2000年代にかけて、インターネットやデジタル技術の発展により、個々の企業や個人がグローバル市場に直接アクセスし、活動できるようになりました。この中で、サルトル的な個人主義の理念が、デジタル時代における「自己表現」や「自己実現」の追求と結びつきました。人々はネットを通じて個人的な自由を拡大しましたが、一方で、これがボーダレスをネット空間やeコマースでも実現し、GAFAMなどによる富の集中を加速させる結果にもなりました。


- **経済的成功と富の集中**: 自由市場の拡大とともに、イーロン・マスクやビル・ゲイツといった一部の人物が莫大な富を蓄え、彼らの富が世界経済に大きな影響を与えるようになりました。これは、自己の自由や自己実現を極限まで追求することで、巨大な経済的パワーを得た人々が、結果的に世界の富の不平等を拡大させる状況を生み出しました。


### 4. **結論: 自由の追求と資本主義の暴走**

サルトル以降の思想的・文化的な変化が、最終的にグローバリズムや多国籍企業による世界支配、富の集中に繋がったのです。


- **個人主義の拡大**: サルトルの実存主義が強調した「個人の自由」は、20世紀後半の西洋文化において個人主義的なムーブメントを生み出し、個々人の自己実現や自由の追求が過剰に強調されるようになった。

  

- **市場経済と自由の融合**: 自己の自由を追求する文化は、やがて新自由主義的な経済思想と結びつき、個人や企業が市場で自由に競争し、利益を追求することが「正当化」されるようになった。結果として、市場競争が激化し、格差や富の集中が加速した。


- **富と権力の集中**: 自由市場とグローバリズムの拡大により、少数の個人(イーロン・マスクやビル・ゲイツなど)が膨大な富を蓄え、彼らが経済的および政治的に大きな影響力を持つようになった。これは、自己利益の追求が結果的に社会全体の公平性や公共の福祉を損なう結果を招いた。


したがって、サルトル的な「自由」の理念は、最終的に新自由主義的な資本主義の枠組みを作り出すなかで、自己利益の追求を正当化する方向へと変質し、それが現代における格差や富の集中、巨大多国籍企業の支配に繋がったということができるのです。

PS.  サルトルの実存は本質に先立つ、が個人が神よりも先にあったという考えから、行き過ぎた不遜な利己主義につながったのですが、確かに神は自分の脳が作り出したものと考えると間違いではないように思えます。しかし、スピノザの神は自然です。またブッダの縁起はビッグバンから始まる宇宙の歴史、つまり素粒子物理学的な因果関係のことを言っています。サルトルは神を神と信じすぎたためそれに反発し、自然や宇宙を軽んじ、環境破壊、生態系破壊の現代の風潮を正当化したと言えます。もちろん彼の著作には物質主義への反感を感じますが、その物質は自然の帰結であり、何よりもそのプチブル的な生活態度こそ、嫉妬と執着にまみれた彼の本質を表していると言えるでしょう。

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