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すべての人には好かれないもの
その人は、おそらく今現在のところわたしをそれほど良くは思っていない気がする。
彼女が最初にわたしに良い意図を持って何度か近付いて来た際に、すぐに心を開いて彼女の足元に擦り寄るような態度を示していたら、きっと「よしよし苦しゅうない、もっと近う寄れ」と可愛がってくれただろう……というようには思われる。それは、彼女がそのように対応する公の場で年若い人たちを紹介するのを見ていると、安易に想像できるのだ。
別に嫌いというわけではなかったのだが、いきなり最初から仲良くなれるタイプの人とそうでない人というものは誰にでもいるだろうけれど、この人はわたしにとっては時間をかけなければ分からない人だったのだ。
にこやかには挨拶してはくれるものの、それほど長くは会話をする態勢ではないのが、彼女の顔のこわばりから伺える。わたしがそんな時、どんな表情をしているかといえば、能面のようなニュートラルな表情、何を考えてかいるのか分からない顔をしていると思う。それは、わたしの内部を守る仮面なのだ。
だからといって、わたしがいつも、誰に対しても能面顔を見せているわけではなくて、にこやかに相好を崩していることもあるわけだが、そういったところを彼女に対してはまだ見せないので、拒絶されているようで忌々しく感じているのかもしれない。
それは、日本人のわたしがいる横で、日本語のことを他のイタリア人に尋ねている様子からも伺えた。
そこで、その発音、意味をイタリア人に聞くかね?と思うが、それは、彼女なりの仕返し、攻撃なのかもしれない。
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