見出し画像

あの子達のいま

双子の男の子がいた

2人とも未熟児で生まれ
小柄で とても細かったけど
人一倍わんぱくでいたい感じだった

2人とも 言葉数が少な目で
兄は 要領よく 運動神経が良かった
弟は 繊細で どことなく不器用だった

同じサッカーを好み ボールを蹴る
友達へのパス 力加減
上手くいく兄は 常に 数人で遊ぶ
調節が苦手な弟は なかなか上手くいかず
暴言を吐いては ふてくされ
1人でいるのを よく見かけた

お母さんもまた とても 不器用な印象だった

素直な表現が選択肢にないような感じで
2人 (特に 弟) は お母さんに よく似ているな…と
こっそり思っていた

2人には姉がいた
お母さんは姉には色んな事を積極的にやれた
女の子なら 自分の経験を活かし
具体的な必要事項が浮かびやすい
自分がしてほしかった事を叶えてあげたい そんな感じ

でも 男の子は 自分の経験がなく
どう扱っていいのかも分からないようで
0の判断を取りがちだった印象

自分ではやり方が分からない
でもそれを言葉にもできない

弟は 失敗して怒られるのが 嫌
言われるまで 動けない様子だった
家庭でも 失敗は言えないし 隠す
時差を経て失敗を見つけた両親に 倍以上で怒られる

その様子を横目に それとなくうまくやり過ごす
元々何となくの察しの良さで ある程度はこなす兄と
不器用や失敗にまみれ 素直に認め 謝れない弟は
母にとってまるで光と影のような違いに映っていた様子

何に付けても 対比して評価を語られる
「どうせオレなんて」 「どうせ…どうせ…」 と
人一倍好奇心も欲求も強いのに
発信を諦め でも 希望は手放せなくて 固執する

いつの間にか兄は  友達を携え サクッとそこそこに こなし 
笑顔で前に進んで行ってる

弟が 「オレだって…オレだって!」と一歩遅れで同じことをするが
緊張と焦りで手足をうまく使いこなせず  失敗ばかり

兄はそんな弟を尻目に 「今度はあっちいこーぜ!」 と また先に進む

でも、絵や制作では
弟の方が 自由にのびのびと 表現を楽しめた
クレヨンや絵の具で 彩り豊かに 繊細なタッチで
可愛らしい動物や エピソード盛りだくさんの背景
時間をオーバーしながらも 自分の拘りを存分に発揮した

兄はそこに興味はない

そしてその時間を終えると また 必死に兄の背を追いかけて走り
追いつけず 1人でうつむく弟


母は 表に見える姿の二人 をよく比較して語る
迎えが来てからもなお
活発に動き ワンパクぶりを見せつける兄を見て
「やれやれ元気良すぎだろ」と苦笑いで微笑み
せっせと準備をして俯きぶつくさしながら
なかなか来ない兄を呼びに行き 一緒に遊び出す弟を見て
「おい、帰るぞ!」と叱る

多分 人とのコミュニケーションが苦手なのは
お母さん自身でもあった
子どもに対して どう言えば動いてくれるのか
なんで言っても動いてくれないのか
そこに縛られ 常に苛立ち もがいていた

だから 不器用な 皮肉や揶揄で 多分 SOSを 出していた

過去に その表現の数々を
言葉通り鵜呑みにし お母さん自身を批判した人がいた
「どうしてそんな言い方をするんですか!」
「あなたのその言い方はあの子を傷付けるんです!」 と

それを責めてしまうのは多分違う と思い伝えるけど
「いいや、私は あんな関わりをするお母さんが許せないです。
 あの子(弟)が可哀想で 仕方ありません。だから 私が 抗議するんです。」

私自身も その人に 上手く伝えられなかった
多分 お母さんは その対応に 傷つき 閉じていってる
きっと 逆 なんだ
(なんで気づかねんだよ) (こいつも同じ)
(こっちだって分からねんだよ) (だれか教えてくれよ)
吐き捨てる返しの言葉の裏に
そんな想いが見えている
とても歯がゆかった

 
次第に 私自身が そのお母さんと よく関わりを持つようになった

ぶっきらぼうに見えやすい言動で
自分もだけど 相手からも 少し距離を置かれやすく
あまり人との関わりが少なかった そのお母さんに
欠かさず 「お疲れ様」と 話しかけ
分かり易いくらいの表現で 労い
ささいな変化を見つけ 褒めるように心がけた

次第に ポロポロと 仕事の愚痴がこぼれ出した
それから 今度は 仕事の自信のある点を
ほんのり誇らしげに話すようになった

その頃辺りからか
始めは常時否定的にコメントを返していた
兄弟それぞれの 色んなエピソードに

皮肉交じえながらだが
興味を持って 時おり嬉しそうな表情で
耳を傾け
「えぇ~?そんなんするんや…」
「マジ!家でそんなの見た事ねぇ」とつぶやきつつ
そっと受け止めるようになった

更には こちら側が
さり気ない心配りを受けるようになった

やがて
息子達のエピソードを聞いた後
それに繋がる 家庭での子育ての悩みを
不器用な表現ながらに 言葉を紡いで
ポツリポツリと 話してくれるようになった

お母さんは 本当は 弟の方に
(負けんな!) と 
(なんで自分で言わねえのかよ…) と
まるで自分を見ているかのように 悔しさを感じ
反発してどんどん閉じていく本人に
歯がゆく でも どうすればいいかも分からず
姉や兄と比べては
上手くやらない弟に
そして 上手くやれない自分自身に
落胆し 否定し 突き放す方法しか取れずにいた 

そういう お母さんや 弟くんの 言葉にできない不器用なSOSは
分かり易い形ではなく、反対の揶揄でしか表現されないから
大体の人達には揶揄のままでしか解釈されずに
手放し 突き放され ポツンと浮かぶ

本当は人何倍人懐っこくて
でも受け入れてくれる 信じて見守ってくれる人の少なさに
あきらめ 真逆で走り続ける

そんな人達がいる


誰かの言葉を  仕草を
自分の持つ世界観だけで 一方的な解釈で断定してはいけない

自分の解釈はあくまでも たった一つの仮定
事実は 当事者本人の中にある

辿り着きたい 知っておきたいのであれば
本人に 直接アクセスし 本人の心の言葉に興味を持つ

この工程なしに 誰かを揶揄したり 決めつけた評価で語ることは
私はしたくないな…と

あらためて 考える機会をもらった
大事な 大事な
あの子達 あの家族との 1つひとつの エピソード。  

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?