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月曜日の図書館 アンダーグラウンド

館内の新聞ラックに朝刊を綴じていて、届いていない新聞があることがわかる。新聞店に電話して、なるべく早く持ってきてもらえますかと聞くと、焼き芋を焼いてて手が離せないから無理、と言われる。兼業しているのだった。午後からは人数が増えるので行けるそう。

そんな理由で仕事を断るなんて、日本じゃないみたいで楽しい。受話器越しに、異国の風がぶわぁっと吹いた。

館内でいろんな航空会社が出しているフリーペーパーの配布が始まる。県内にある空港のPRと、感染収束後の旅行を後押しするのが目的らしい。らしい、というのは、話が偉い人同士の間だけで進み、わたしたちには直前まで何一つ知らされてなかったからである(夕方のニュースで初めて知った職員もいた)。

お金をかけて作られた民間企業の冊子は、やっぱりすばらしい。かわいいこけしが表紙になった冊子をもらってうきうきしていたら、他のみんなから裏切り者を見る目で見られた。

偉い人たちがいるのは地階の事務室なので、彼らのことをみんな「地下の人たち」と呼ぶ。

本の配送車がいつもより遅い。こっそり事情を聞いてみると、ドライバーが寝坊したとのこと。定刻通りに来る方が珍しい、アジアのどこかの国のバスを思い出す。やはりここは日本じゃないのかもしれない。

旅行に行けなくなってから、お昼は近くのタイごはん屋さんでばかり食べている。つけあわせを野菜スープにしてくれと何度頼んでも3回に1回くらいトムヤムスープが出てくるので、がんばって飲み続けたら辛い料理も食べられるようになった。

電話で言っていたとおり、午後になって新聞が届く。持ってきたお兄さんは「おわびのしるし」にタオルをくれた。

焼き芋の方がよかった、とそこにいた全員が思った。

新聞を購入する家が減り、新聞店も副業せざるを得なくなっているのだろう。しまいに購入するのは図書館と喫茶店だけになるのではないか。
買った新聞は製本して永年保存する。これが毎年容赦なく書庫の棚を侵食するので、担当者は頭を悩ませることになる。

航空会社のフリーペーパーも図書館資料として保存することに「決められた」。本や雑誌を保存するスペースも、もちろん余裕はない。

あれもこれも、ためこむばかり。図書館の館則に、断捨離という文字はない。

フリーペーパーコーナーの隣には、震災から10年の展示もある。市の災害支援部署から話を持ちかけられた「地下の人たち」がこれまた勝手に決めてしまったのだ。

フロアの実情を把握してない人たち同士で雑に展示を組み立てるから、関連のない展示がごちゃごちゃと散らばって、本気じゃないみたいに見えるのが悲しい。

支援のパンフレットに写っている市長の笑顔も嘘くさい。震災のことを考える/忘れないのはとても大事だが、形ばかりが先行して気持ちがついていかない。

それよりも旅行に行きたい。旅行に行ってこけしグッズを買いまくって、思い切り散財したい。

本当はわたしだって、自分が担当している、レファレンス内容をまとめた報告書のシリーズが100回を迎えた記念の展示をしたかったのだ。無理矢理ねじこんでも違和感があるので断念したが、肝心の図書館の取り組みをPRできないのは本末転倒じゃないだろうか。

また過激な思想が明るみに出る前に、コンクリートを流して踏み固めてやりたい。

vol.62 了

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