
君は変わってしまったのか、アンジェリーナ
誕生日を迎える数日前、その店が来るとのポスターを見つけて、なんという偶然!と喜びました。
最近、多くの駅で、駅の一角にあるスイーツショップが月毎など定期的に、中の店が変わる仕組みになっています。お店側も、期間限定で売れ行きを気にしすぎなくて良さそうだし、客側は待っていればいくつものお店がやってくるという便利さがあります。
そのお店の次回予告の看板に、アンジェリーナのポスターがあったのです。毎度お馴染みの、世界におけるモンブランの始祖と言われているお店の名前です。
本店はパリ…、と書くだけでなぜかお洒落になったような気がするくらい、日本から遠い。しかし、ここ日本にアンジェリーナがいるのです。
かつて、このお店が同じ場所に出店し、見つけた僕は驚喜にむせび、数日かけてひとりで全種類を食べ比べるという狂気じみシャレた催しを執り行ったことがありました。
発祥の店のくせに、日本寄りに味を調整し、栗以外の和に寄せたフレーバーを出しています。悔しいけれど、どれも完成度が高く美味しいモンでした。
そんなわけで、アンジェリーナは毎年この時期にやってきているのです。なんということでしょう。僕の誕生日に合わせ、会いにきてくれているではないですか。少し気が早いけれど、七夕のようだと誰もが思ってくれるはず(強引)。

ケースにはかなり大きなサイズの「オリジナル」が並んでいましたが、ひとりで満足したまま食べ切れるのはこちらだと、いつも慎ましやかにデミサイズを選びます。「デミ」とは、フランス語で”半分”を意味する言葉。
ケースを眺めた瞬間、何か違和感を覚えました。値段はまぁ、もともとも少し高いよね?という感じだから変わってない気がするのですが、おそらく見た目が違うような…。

こちらは以前のものです。
モンブランの象徴でもある、白い粉糖が溶けているのはあまり大きな問題ではないけれど、トッピングのチョコの有無と、カップとラッピングの違いは大きいのです。
中でも、紙カップになってしまったことは、僕に一抹の懸念を生じさせるのでした。それは、台であるメレンゲの大きさのことです。ラッピング紙だと、それ自体は柔らかく、モンを支持するものではないから、台のメレンゲでしっかり立っている印象があったのですが、カップになると果たしてどうなるのでしょうか。
カップに入れてしまえば、モン自体は素材を重ねるだけで完成してしまうものです。ともすれば、コンビニのカップスイーツのような、造形において緊張感のないモンになってしまうように思えたのです。
個人的に救いだと思ったのは、カップに店名のロゴが入っていたこと。それなりに高級感があります。そして箱から出す時など、取り扱いしやすくなっていました。
ひとくち、食べました。
こってりとしたマロンクリームの甘さを、塩味の強いホイップが追いかけてきます。さすが…甘けりゃいいわけじゃないのです。ホイップの中には、何もありません。粒栗もダイスカットの栗もありません。硬派にして純粋な中身なのです。
そしてその下、(勝手に)問題となっている伝統のメレンゲ台を食べてみます。
薄い、気がしました。味ではなく、厚さのことです。そして、やはり小さくなった気がします。きめ細かさは以前のように繊細だけれど、舌の上に居座るような、どっしりした重量感は感じられなかったのです。
カップに合わせるように、メレンゲがサイズダウンしている気がしました。それぞれの素材は変わっていないようだけれど、バランスが変わったために、全体的な甘さも抑えられていたように感じるほどでした。
ここからは、マニアックというよりも、気持ち悪い感じに見えるかも知れないが、あえて続けてみたい。
大きさが変わったのではないか、と思い、以前の写真と今回の写真を見比べて、マロンクリームの筋(麺とか、ニョロニョロとか言われがちのアレ)を数えてみました。
以前のものは、画面に向かって垂直方向に流れるマロンクリームは、およそ20本ありました。対して、現在のものは向きが違うものの、20本は並ばないように見受けられたのです。
マロンクリームを絞る道具(口金)は、モンブラン口径と呼ばれていて、ケーキの名前から道具の名がついた逸話があります(諸説あり)。
マロンクリームの粘度によって、絞り出せる太さが変わるため、ケーキが小さくなったからと言って、マロンクリームも細めに絞ることはあまり現実的ではありません。
何が言いたいかというと、カップに入れたのは、小さくなったからではないかと思うのです。
ちょっと、いやかなり残念です。
しかし、モンの強力な説得力であるマロンクリームが変わっていなくてよかった。(僕が分からなかっただけかもしれない、怖いので深掘りはしません)
モンブランは栗以外は許さん、という原理主義的なモン好きさんもいらっしゃいますが、実は僕はそこまでではありません。
アンジェリーナのショコラモンブランは劇的に美味しい。さらに、ほうじ茶モンブランは、香ばしさとほっくり感のバランスが絶妙です。
しかし、台のメレンゲがやや小ぶりになってしまっているのだとしたら、日本人には甘過ぎるな…などと、海外はこれだから…感を出して食べることができないのです。
アンジェリーナよ、君はもう日本に馴染み、日本人のように僕たちのそばにいて、穏やかに暮らしているのかもしれないな。
いいなと思ったら応援しよう!
