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使用後の用法を守る

「歯が弱い」

大人になってから、度々感じる感覚だ。

歯を磨く時間が短いとか、甘いものを食べすぎている(かも知れない)わけではないのだが、虫歯の治療の頻度が多いと思う。虫歯になったことがない人の話を聞くと、今までの治療代に思いを馳せてしまう。

僕の友人は、毎月決まった時期に歯ブラシを替えている、と聞いたことがあった。「治療代を考えたら、歯ブラシ1本なんて安いから」…確かに。そのことを聞いてから、その言葉を真似して歯ブラシ更新をしていたが、どうにも虫歯は減らなかった。

高校生の時に、かつて通っていた歯科医の薬が歯茎に残留していたとかで神経が炎症を起こし、神経を抜いてしまって、弱った歯の裏側に金属を当てる治療をした。

それから20年以上経って、妻が焼いてくれたビスコッティを齧った時に、その前歯が折れたことがあった。「旦那の歯を折ったビスコッティ」と笑い話になったのだけれど、以来妻は僕の歯の心配をするようになった。

定期検診だけで終わることの多い妻は、ある意味で僕の虫歯は持病のように思っているのかもしれない。僕にとって、虫歯の治療は年中行事のようなもので、定期検診に切り替わって半年くらいすると虫歯が見つかるような感覚がある。

歯磨きの方法も、定期検診のたびに指導され、力の入れ具合、角度、時間、タイミングなど、あれこれと知識を蓄えて、実践も積んできた。歯ブラシだけではなく、フロスや歯間ブラシも使ってきた。しかし、虫歯になる。

歯磨きをしても、虫歯になるのは、汚れが取り切れていないこともあるけれど、そもそもは口の中に虫歯菌がいるからだろう。歯磨き粉では、虫歯菌を全て殺すことはできないだろうし、日に何度も歯磨きをすることも現実的ではない。

液体歯磨き、うがい薬、口内洗浄液、さまざまな呼び名があるが、それを使うことにしたのは、だいぶ経ってからだった。幼い頃、洗面所で見かけて試したところ、辛くて痛くて涙が出た。その記憶があったから、使うのを躊躇していたのだ。

味や刺激感などはいくつもあって、比較的マイルドなものもあった。口に含んでクチュクチュして、口から出す。そして水ですすぐ。歯磨き粉を使った時にも、水ですすいでいる。しかも違和感がなくなるまで2、3回。

実は、これが間違っているらしい、と驚いたのは、液体歯磨きのボトルを読んだ時だった。手持ち無沙汰になると、手元の商品ラベルを読み込む癖があって、その時も別段何か必要に迫られていたわけではなかったが、使用法を読むとこうあった。

「そのまま口から吐き出してください」…以上。

…以上?

後日、調べてみると、歯磨き粉も磨き終えたら、口の中に残っている泡を吐き出して、以上、がいいらしい。確かに、薬効成分を口に残していることは効果的だし、きっと飲み込んでも害のないものなのだろう。

しかし、子どもの頃から歯磨き後は、水ですすぐことを繰り返してきた。今更、すすがなくていい、なんて言われても、慣れ親しんだ動作に流されてしまう。習慣の恐ろしさともいえる。

職業柄、正しいものに弱い。決まりに弱い。
よくない習慣は直そうではないか。

何度も「あ、すすいじゃった」と気が付く日々を経て、最近ようやく慣れてきた。特に、昼休み後の液体歯磨き後、口の中の清涼感が長く続くおかげか、間食もへり、飲み物も甘いものを避けるようになってきた(今まで結構甘いものを普通に飲んでいたのだからちょっと怖い)。

歯磨き粉、液体歯磨き、使用後にそのまま口内に残しておくことで、綺麗な状態が維持できると同時に、汚れてしまう原因の削減にもつながっているらしい。歯磨きをしっかりやっている、とはいえ、断続的に甘いものを口に入れたり、昼ごはんの後に確実に歯磨きできていたわけではないので、まだまだ足りなかっただけだった。

歯が弱いのは変わらないけれど、こうして歯磨き後の自分の行いが、虫歯の進行を遅らせているかもしれないと思えると、意識的に「吐き出しっぱなし」ができる。

最初は慣れないが、クチュクチュ、ペッ!のあと、口内の沈黙に耳を傾けてほしい(何のことだ)。スーッとした感じのまま、午後の仕事にかかると、ちょっと朝の爽やかさに似た気持ちになれるかもしれない。

次の定期検診では、歯医者さんに「そこの歯、虫歯になってますね」と言わせたくない。

歯磨き後の口をすすがず、虫歯持ちの汚名をすすぎたい。





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もつにこみ
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