人生とはドーナツの穴、なのかも知れない
前回の続きのような、図書館福袋の中身シリーズ。3冊入りの最後の作品ですね。福袋のうち1冊というつもりで始めたシリーズでしたが、2冊分書いたら、あと1冊だよね・・と思い直して書いています。
1冊目はこちら・2冊目はこちら(図書館の方へ)返却が遅延してすみません・・。
ドーナツがテーマの福袋の中身、紹介した記事では、タイトルに「ドーナツ」が含まれている作品は無かった、と書いたのですが・・ありました。
なんてったって、ドーナツ
早川 茉莉(編)
さまざまな人のドーナツをめぐるエッセイ集。これが、僕が生きている時代とは少し違う時代の方々の文章が多く、言葉遣いからして難しい(笑)色々な文献からエッセイを拾い集めてきたような作品で、視点がいくつもあって、共感と勉強と、頷きながら読んでしまいました。
「ドーナツの思い出」という章では、100歳の随筆家・吉沢久子や、画家の岸田劉生、詩人の俵万智のエッセイが載っていましたが、中でも通称J.J氏、ジャズ評論家の植草甚一のエッセイが好きでした。
ニューヨークで暮らしているとき、・・と書き始めてから、所在地と店の名前と、料理とお菓子の紹介が延々と続くのです。ほかの方は6ページくらいなのに、植草さんは、なんと17ページ・・長い。でも、細かい描写に簡潔なコメントが折り込まれて、とても軽快に読み進めることができるのです。
なるほど、ニューヨークに暮らしていたら、これだけのお菓子と巡り会えるのか・・と納得しながら進んでいくと、最後はこんな結びでした。
食べたもののことは、そのときくわしく書いておかないとダメだと思った。
・・あんなに書き込んでたのに、まだ足りてないのかと笑ってしまいました。
そのほか、松浦弥太郎、村上春樹、江國香織・・錚々たるメンバーが語るドーナツへの愛・・とても温かい気持ちになります。中盤には、やたらと「クリスピー・クリーム・ドーナツ」が登場して、ドーナツへの価値観のようなものの転換期を垣間見るような思いでした。
多くの筆者が語るのは、ドーナツへの愛であり、作ってくれた母への愛。そして、穴のこと。
穴ができた経緯を説明する者も、それを哲学する者も、やはり、穴には目に見えない価値があると唱えているようでした。
ドーナツという、素朴なお菓子であるだけに、それぞれ個人の思い出が鮮やかに描かれており、自分の経験を重ねながら、穏やかに読める作品でした。
最後に「なるほどね!」と思った言葉を挙げておきます。
「人間に限らず多くの動物は口から肛門まで繋がった穴を持っていて、
ようするにその肉体そのものがドーナツである」
図書館の福袋に出会って、毎週のように紹介させていただきました。どの本も、自分では選んでないということで、ある意味では期待もなく、苦手意識もなく読み始めることができました。
テーマで読む本を選ぶ・・特に小説などは、時間に余裕がないとなかなか自分ではできないことですが、こうして図書館に助けてもらうと、図書館の膨大な”知見”を味わえるいい機会だなと思いました。
楽しい企画、それを眺めるだけでなく、実際に体験してみることで、新しい発見につながりましたし、図書館がもっと利用しやすくなると思いました。
福袋企画、とてもよかった。
ドーナツの穴からは何が見えるのでしょうか。ドーナツの普遍性と可能性を感じるサムネイル、infocusさんありがとうございます!