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掃除当番の企み 【創作】 #秋ピリカ応募

厳しかった寒さが緩んで、凍てつく受験の緊張感から解放され、残されたイベントは卒業式だけになった。あと数日、授業とはいえ宙ぶらりんな日々。

中学3年、2月下旬。

僕は、推薦合格をもらったから、受験勉強らしいことをしなかった。入試を乗り越え合格を決めた友人たちが、褒め合っているのを目の当たりにすると羨ましかった。

「あのさ、卒業までに面白いことやろうよ!」同じ班のマキが振り返って、目をくりくりさせながら提案したのは、午前の休み時間に入ったときだった。

「いいね、何やる?」後ろから声がした。ノリのいいユウタが親指を立てる。

ちょっと天然なアッコが「わたし、ずっと浴びてみたくて。…あれ…紙の。あ!紙吹雪っ!」とつぶやく。

案の定、みんなは息を呑んだ。

でも、案外いいかも。お金もかからないし、掃除すれば怒られないだろうし、大した時間も必要ない。紙吹雪を浴びるなんて、初めて。

「あ、掃除当番だし、ちょうどいいじゃん。数学終わったら、バーっとやりますか」嬉しそうなマキの声。決まった。

僕は、手元にあった紙を集め、粛々と準備した。班のメンバーはみんな仲が良く、ノリも良かった。せっかくの企みが教師にバレて叱られないように、机の中で手を動かし続けた。


昼休み、みんなが切った紙吹雪を空の箱に集める。

「三角に切るとキレイに降ってくるんだよね」
「えー、いま言う?」
「さすが、元・演劇部」
「もっと切っとくか」

紙吹雪の材料は、プリント類の白い紙がほとんどで、たまに赤や黄色の色画用紙が混ざっていた。それにしても量が多い。


授業中、いつも寝ているユウタが僕の背中をつつく。振り返ると寝たフリをして、隣のアッコはニヤリと口角を上げた。

チャイムが鳴る。6時間目の数学が終わった。生徒が席を立って挨拶をし、教師がドアから廊下に消えた。

「せーのっ!」

箱にどっさり盛られた紙吹雪を、それぞれが両手で掬いあげ、マキの掛け声に合わせて、投げ上げた。

天井近くまで上がった紙の塊は、重力によって落ち始めると、ほどけて広がった。

重さも、形もさまざまな紙吹雪が空気抵抗を受けて、くるくる ひらひら さらさら と音を立てながら降ってくる。

吹雪が、視界を奪った。

降り注ぐ吹雪の奥から、マキが「卒業おめでとー!」と言った。つい「まだ1週間あるよ!」と言い返す。いきなり祝福されたような高揚感が楽しくて、みんなで声をあげて笑った。大量の紙は、僕たちの髪や制服に紛れた。

同級生たちは、突如現れた大量の紙吹雪に驚いていたが、すぐにそれは笑いに変わった。「また2班が変なことしたぞ」「ちゃんと掃除しろよー」呆れたような声が、なぜか心地良い。

大人びて真面目な優等生、それが教師からの僕に対する評価だった。

友人たちは、それが嘘だと見抜いていた。

僕は、はしゃぐのが好きで、卒業するのが嬉しくて寂しい、正真正銘の中学生だった。


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#秋ピリカ応募 #紙 #卒業 #企み #祝福 #創作 #記憶

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