あなたの魔法 #ショートショート(1200字)
『20XX年5月10日。世界は白い光に包まれ、人類は滅びるであろう。』
大昔の有名な占い師が予言したという『終わりの日』が近付いてきた今。世間は隕石が落下するとか、核兵器が暴発するとかの話題で持ちきりだ。
「ねぇ、本当に世界は終わっちゃうと思う?」
星空の下、幼なじみのハルが僕に尋ねる。
現在5月9日23時50分。終わりの日になるまであと10分を切った。
「夜中に呼び出してきたと思ったら……。それかよ」
僕がため息をつくと、ハルが大きな声で提案してきた。
「あのさ、久しぶりにキジューの魔法やってみようよ!世界が終らないように!」
ハルが言っているのは、小学生の頃に流行った奇術師・Mr.キジューのマジックの事だ。
腕を高く上げ、指をパチンと鳴らしながら「君に驚きの魔法をかけてあげよう」と言うキジューの決め台詞。キザで鼻につくが、マジックの腕は超一流らしく、観客は魔法にかけられたように驚きに包まれるのだ。
当時、近所の小学生はみんなキジューの真似をしていた。指パッチンができるヤツが羨ましくて。毎日ハルと2人で練習したっけ。懐かしい。
「やだよ。やらないよ」
「一生のお願い!一緒にやろうよぉ」
来年高校生になるというのに、相変わらず子どもっぽい。ハルは本当に世界が終わると思っているのだろうか?
「……なぁ、ハル。もし世界が終わらなかったらさ、」
僕がここまで言った所で、突然ハルが声をあげた。
「うわっ!もう1分前!準備開始!」
「まじでやるの?」
「やるよ!世界が終わらない魔法!」
「ほんと勘弁して」
「世界が終わるなんて、いやなの。何かしないと怖くて怖くて仕方がないの」
ハルの目に涙が浮かぶ。
「……しょうがないなぁ。ハルは」
僕とハルはそれぞれ腕を上げ、親指と中指を合わせた。
「5秒前!4、3、2、1」
信じていないとは言え、一瞬緊張が走る。
「君に驚きの魔法をかけてあげよう!」
──パチン!!
***
「あなた!しっかりして!」
誰かの叫び声に、ハッと目が覚めた。
夢を見た気がするけど思い出せない。
「良かった、目が覚めて……」
そう言って安堵の表情を浮かべているのは、シワシワのおばあちゃんだった。
「──ハル?」
「そう、ハルよ!」
ああ、ハル。いつの間にそんなにおばあちゃんになったんだ。……年を取っても、かわいいなぁ。
自分の考えに、フッと笑いが込み上げた。
「だめ、まだ、いかないで」
ハルが泣いている。シワシワの顔がクシャクシャだ。
「あなたがいなくなるなんて、いやなの。怖くて怖くて、仕方がないの」
ああ、そうか。終わるんだな、今日。
暖かい春の日差しが窓から入ってくる。
君と過ごせて、僕の人生は幸せだった。
「……しょうがないなぁ。ハルは」
僕は重い腕を上げ、震える親指と中指を合わせた。ハルが驚いたように目を見開く。
「大丈夫。君に、笑顔の魔法を、かけてあげよう」
パチン。
乾いた音が病室に響いて、僕の世界が終わった。
君は笑ってくれただろうか?
(1200字)
「春ピリカグランプリ2023」に応募させていただきます。(テーマは「ゆび」です。)
書き終えられるか不安でしたが、何とか形にできました🌸どうぞよろしくお願い致します。
そしてこれから参加者の皆さんの作品を読みに行きまーす!!わくわく!!