ラストのモンはいつ食べる?
短い期間だったが、育休にも最後の日がくる。その日、妻が用意してくれていたのは、モンブランだった。これまで読んでくださっている方なら、やっぱりね、と思うだろうけれど、これはこれで妻の安心感につながっているらしい。
それを告げられたとき、どういうこと?と聞き返した記憶がある。すると妻は「迷わずにすむから」と応えた。何か買おう、でも何を喜んでくれるのか、と考えずに済むらしい。
1日何モン?なんて聞くくらいだから、1日のうちに複数のモンを食べても大丈夫だし、食べる前提で聞いているのだと思う。それは、もはや普通になってしまっている。限られた季節のモンだからこそ、”仕方ないか”と妻も認めて諦めているのだ。
この時期、スーパーでよく見かける製パン会社Yのケーキは破壊力がある。プラスチックのケースに2つ綺麗に収まって並んでいることが多く、どのケーキもシンプルに美味しそうだ。
この日妻が選んだのは、Y社の「モンブランミルクレープ」だった。モン特有の麺状のクリームに、ダイスカットされた栗の甘露煮が載せられていた。ゼリーコーティングされているのも、少し懐かしい感じがする。
ブラウン系のマロンクリームと、クレープの間にはマロンホイップが使われていた。台のスポンジは程よい弾力があり、食感がさまざまに変化した。
クリームが無く、クレープの端だけが重なった部分があることにも少し驚き、材料の高騰の影響か、それとも製造ラインの都合なのか、はたまたケーキとしての構成なのか、無駄に思いを馳せてしまう。クリームのないクレープは、思いがけずさっぱりとした食べ終わりだった。
技術力、というかノウハウのようなものだけれど、大手メーカーが開発すると、季節商品でも完成度が高い。クレープひとつとっても、香ばしく、ほくりと切れて、クリームを邪魔しない。
台のスポンジは、ケーキとしての満足度を補ってくれる。
2個入っていても、その値段なら損はないし、むしろ安いと思う。伝統の黄色いモンもあるが、ミルクレープの方が新しい流れのケーキだ。モンブランを標榜して、マロンクリームだけ載せとけばいいでしょ的なケーキもあるけれど、このミルクレープはそれぞれが完成している。
2個入りだから、妻と一緒に食べるのが道理なのだけれど、眠気や家事の都合から、ひとり夜中に食べることになった。が、そこに「ねない子」が現れてしまった。この育休の主役ともいえる、1歳児である。
普段なら布団の上でゴロゴロしているうちに寝るのだけれど、暑いのか、お腹が空いたのか、寝てくれなかった。結局、日付が変わる頃に、眠気をおして起きてくれた妻が手伝ってくれて、ようやく寝た。
寝てくれた喜びよりも、明日(数時間後)からの出勤が思いやられたが、食べたことがないモンへの興味もあって、食べてしまった。
最終日に食べるモンだったはずが、日付が変わってから、育休が終わった瞬間に食べたモンになった。最終日に食べられなかったのは、それはそれでいい思い出である。