ほっこり対談の行方 #書もつ
名前に”本”の字をもつ、二人の名作家の対談、面白くないわけがない。図書館で背表紙を見つけた時、思わず抱えるようにして手にした作品だった。さっそく読んでみると、その期待通り、いえ期待を上回るほどの収穫があった。
この作家さん好きな人なら、きっと楽しんで読める。楽しむどころか、何かと学びになったり、教えてもらったり、健康になったり、いいことづくめ。これは図書館に返すの惜しい…買いたくなってきた(笑)
人生の道しるべ
宮本輝・吉本ばなな
まず最初に、僕の無知を晒すと、吉本ばななは、あの共同幻想論の吉本隆明のお子さんだった、ということをこの作品で知ることとなった。だからなんだってこともないけれど、へーと頷いた。
宮本輝は、いくつかの作品を読んでいたが、「草原の椅子」や「田園発港行き自転車」が印象深く、高校の時の現代文の授業では、「星々の悲しみ」が教材になった。意外と僕のそばにいる作家だ。
不勉強で、お二人の共通点や相違点などを見出さない状態で読み始めてしまったけれど、お互いに敬意を持って、そして興味を持って語り合う様子は、ちょっと意外だったけれど、なんだか安心できた。
対談があるからと、年下の作家(吉本)の作品をごっそり読んでくれる年長作家(宮本)の姿に、ある種の子どもらしさというか、いじらしさを感じ、ほっこりした雰囲気が伝わってくる。小説家同士というライバルではなく、年の離れた友人同士のようだ。
それぞれの作品の感想を語り、その意図を説明したり、さらに考察してみたりと、やはり書く人は読み込み方も鋭いし、深いと気が付かされる。特に、人間を見る目やその感じ方には、作家たる洞察力のようなものが備わっているようで、一朝一夕ではない彼らの道をも感じさせてくれる。
この対談が今から10年ほど前に行われたことを考えると、宮本輝は今や70歳を超えている。対談では85歳までは書きたいと述べていた。それを実現させるために自らの健康に気を使う様は、本気である。身につまされるし、このストイックさが作品の力強さに繋がっているのだろうと思うと、読んでよかったと思えた。
家族の一員としての役割の話題もまた、読み手には新鮮に映った。父親として壮絶な緊張感と闘っていた宮本の過去を知り、母業と作家業を分けない吉本の姿を知る。当たり前のことだけれど、作家もひとりの人間であることを思う。
宮本の好好爺ぶりも温かいし、吉本の意外に明るい思考に励まされる。書く人も読む人も、この対談を目の当たりにして欲しいと思える作品だった。