根っこにあるもの #書もつ
推理小説、というとお気に入りの作家さんがいたり、思い出す物語があったり、小説ではなくドラマで観た、あの探偵を思い出す人もいるかも知れません。
ちなみに僕は、小学生の頃に友達が貸してくれた「金田一少年の事件簿」にハマった年頃。
漫画を買い、小説を買い、ドラマ(初代の堂本剛)を観て、映画も観ました。サントラのCDも買って、殺人が起こる時の特徴的な曲は、高校の時の社会科の発表のBGMとして使って好評を得た記憶があります。でも、一体なんの発表だか思い出せませんが。
ミステリーは、ホームズやコロンボのように大人が大人の事件を解決するものと、金田一やコナンのように子どもが大人の事件を解決するといった設定があります。
気がつけば、いくつもの作品を読んでいるこの作家さん、ミステリから青春小説まで幅広い。今作もまた、緻密に編まれた物語によって没頭し、登場人物とともに頭を捻ってしまうのです。
毎週木曜日は、読んだ本のことを書いています。
先生と僕
坂木司
主人公は、怖がりで常に最悪の展開を想定して生きる・・って、どこかで聞いたことのある性格だな・・と気がついて、共感している矢先、事件に巻き込まれて・・。主人公が謎を解くのかと思いきや、イケメン中学生が謎を解くというコナンスタイルでした。
「ミステリの世界は華やかだけれど、いざ現実を推理してみると、とてもつまらないんだ」と言ってしまう中学生もすごいけれど、子どもだからと舐めてかからない主人公(大学生)も優しいのです。
5編の短編ミステリが収められていて、しかもそれぞれの作品を読むと、名作ミステリが「課題図書」として提示されて、ミステリ作品を読みたい人に役立つ仕組み。
どの事件も、とても身近にありそうで、そしていつ巻き込まれてもおかしくないような顔をしていました。それだけに怖さがあります。
書店に平積みされた雑誌、妙に狭いカラオケ、今どきの市民プール、小綺麗なギャラリー、ネット掲示板・・どこかで観たことがあるような景色の裏に、実は犯罪が隠れていたなんて。自分にもあるかも、なんてドキッとすることも書いてありました。紙一重で、自分を守っているのかも知れないのです。
いくつもの作品を読んで感じるのは、この作家さんの独特の緻密さ。読んでいて、まどろっこしい表現をしているのは、結論が明快だからかもと考えました。そこに行くまでに、慎重に推理を重ねていく手順は、多くの作品で共通である印象です。
この作家さんの物語の根源って、なんだろうって考えてみました。
今作に限って言えば、そこにあるのは社会の中にある歪みへの警鐘であり、心や命を軽んじる犯罪や思惑への、強い怒り。
直接あるいは間接的に被害に遭ったのかも知れませんが、主人公の驚きと気づきの奥には、怒りがありました。
怒りをそのまま表現するのではなく、ミステリ小説として、さらには中学生にその真相を語らせる表現は、読み手の大人を大いに牽制するような印象を受けました。
タイトルの通り、先生は年上だけではなく年下にもいること、それを気づかせてくれるのです。
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