春は出会いより別れの季節(2024年3月のコンテンツ消費記録)
会社を辞めることにしたので、フォークソングによせて、まずは心情を一言。
古い船をいま動かせるのは古い水夫ではないだろう
会社を去る者の気持ちとしては、これに尽きる。サービスを開始して5年あまりが過ぎた。去っていった仲間もいれば、会社に残る仲間もいるが、ぼく自身はもう、サービスの行く先を示し、みんなを鼓舞し、一番前(のほう)を走る立場ではない。
ただ、幸いなことに、その代わりをしてくれそうな頼もしい仲間たちがいる。
古い船をいま動かせるのは、古い水夫じゃないだろう。
古い水夫は古い航路をたくさん知っているが、新しい航路を発見するのは、いつだって新しい水夫だ。
2024年3月の要約
今月は17冊の本を読み、2本の映画を映画館で鑑賞し、そのほか YouTube でいろいろ観たり、友部正人のフォークソングを聴いたりしました。
なお、今月、17冊も読めたのは、Kindle 本を Amazon Alexa で読み上げてくれる機能を知ったことが大きい。もちろん、Audible のような快適さはないが iPhone の読み上げ機能と比べると雲泥の差。自宅にいるときや食事中は Kindleで読み、通勤中は歩きながら Alexa で、というのが可能になってとてもうれしい。
ちなみに、ここからの文章はえげつなく長いし、謙遜ではなく本当に面白いことは言ってないので、みんなは(音楽)の部分まで飛ばして読んでくれよな。
(文学 > 自伝)
小澤征爾『おわらない音楽』
小澤征爾の行動力に驚きっぱなしの小品。すごい人っていうのは、本人のすごさももちろんだけど、いつも誰かが手を差し伸べてくれているんだなあ。
(文学 > 小説)
中島敦『盈虚(えいきょ)』
盈虚とは月の満ち欠けのこと。また、栄枯盛衰のこと。というくらいで特に記憶がない。いつかまた読む。
ホルヘ・ルイス・ボルヘス『シェイクスピアの夢』
ボルヘスの最後の短編集が文庫で出ていた。まったく気がつかなかった。
小説はあいかわらずのボルヘス節でやっぱり面白い。ボルヘスの小説は「物語り=ナラティブ」だけではなく大抵の場合「参照=リファレンス」の形で語られる。リファレンスは元の物語を内包しているがゆえに、小説はより重層的になっていく。
たった4ページの小説が2時間の映画になった『死とコンパス』なんかが良い例だろう。
さておき、『シェイクスピアの夢』のこの感じ、最近なんか読んだよなと思ったのは先々月の円城塔『道化師の蝶』だった。
(文学 > 詩)
友部正人『バス停に立ち宇宙船を待つ』
先月来の鼻詰まりがひどくて、どうにも眠れない夜があって、マイメンにもらったこの詩集を読む。
(文学 > 古典)
ホラーティウス『詩論』
前述の友部正人の詩集があまりによかったので、寝るつもりで読み始めたのにかえって目が冴えてしまい、ホラーティウスの『詩論』を読む。いくつか「これは!」と思う記述があった、という感触だけが記憶のすきまに残り、あとはみんな忘れてしまった。ネム〜
プラトン『ソクラテスの弁明・クリトン』
ソクラテスの弁明の「弁明」には(へりくつ)とルビをふりたい。「えーこんなやつ、絶対やだー」という感想しか出てこないが、ソクラテス氏、友人には恵まれている。ガチでめんどいけど、憎めない奴だったんだろう。
(文学 > ルポ)
3ヶ月ほど読書記録をつけてみて驚いたのは、毎月、ルポ系の書籍を読んでいることだ。旅が好きなので、ついつい食指が動いてしまう。
内澤旬子『世界屠畜紀行』
内澤旬子のことはもともと、フリーナンスのこの記事で知ったのだが、それ以来、彼女が運営する小豆島ももんじ組合というネットショップでイノシシの肉を買い、ヤギのZineを買い、『カヨと私』『ストーカーとの七〇〇日戦争』を読んだ。
閑話休題。世界の屠畜場を飛び回り、家畜を殺して肉にする過程や屠る人々に取材したこの本は、内澤旬子の情熱や好奇心が溢れ出てる感じが良いし、しかも、それがきちんと文章に昇華されてる点でも稀有な人だなあと思う。
イラストが良い、という話も聞くが、ぼくの老眼ではちょっと見づらかった😢
東浩紀『ウクライナと新しい戦時下』
東浩紀がYouTube配信でこの本に触れていたので興味を持って買ってみたが、うーん、ただの旅行記というか、それ以上のものは感じなかった。このくらいのブログを書く人はよくいるよね、くらいの。
氏の本は、やっぱりもう少し骨太なものを読みたいのだけど、最近はライトなものが多い印象。(読んでないのであくまで、印象。)
(マンガ)
山本直樹『レッド 1969〜1972 最後の60日 そしてあさま山荘へ』(第1〜4巻)
山本直樹『レッド 1969〜1972 最終章 あさま山荘の10日間』
1月に読んだ『レッド 1969〜1972』の続き。1月に読み終わった前作全8巻の時点で、「総括」という名の暴力がキツ過ぎてしばらくは続編を読める気がしなかったんだけど、3月になって一念発起、今年度中に読み終わろうと手に取った。で、読み終わった。
結論、やっぱりキツかった〜。
閉鎖した空間で、その空間でしか通じないロジックが次第に「正」とされていく。しかし、それがなぜ「正」とされているのかは極めて曖昧だ。さらにひどいことに、その「正」について、なぜ、と問うこと自体が処罰の対象になる。結果として「正」は暴走し、神格化された「正」は集団をますます暴力的に変えていく。
この閉塞感がとてつもなく息苦しいのは、ぼくら自身が多少なりともそうした状況を学校や社会で経験してきているからだろう、と気がついて薄寒くなった。
(ビジネス)
ゴットフリート・レイブラント『教養としての決済』
決済、というのは自身がビジネスを行うにあたり、今後も関わっていくものだろうなと思っていて、その流れで本書も手にした。
決済ビジネスの4コーナーモデルはシンプルで誰にでもわかりやすい。
あと、楽しかったのは著者がユーモアにあふれた人で、本文中にちょいちょい小話をはさんでくるところだ。
面白いと思った小話を引用で二つ紹介。
1つめは、緑色のビール「ハイネケン」の創業者、ハイネケンがオランダで誘拐されたときの小話。
2つめは、貨幣の価値創造的な小話。
ダニエル・カーネマン『NOISE』(上下巻)
ダニエル・カーネマンといえば行動経済学の大家の一人で『ファスト・アンド・スロー』という有名な本があるが、これはその続編みたいなものか。
自分の場合は、何かを思いついて「これは絶対イケるな」「革命起きちゃうな」っていうときに、自分のアイデアを補足する裏付けのひとつとして、行動経済学の視点を導入してみることがある。それがうまくいけばうれしいし、いまひとつなら、さっさと忘れちゃうだけなんだけど。あと、いまだ革命は起こったことない。
ウォルター・アイザックソン『イーロン・マスク』(上)
アイザックソンのイーロン本、英語版で前評判がめっちゃ高かったので楽しみにしてた。結果、面白かったー。イーロン、やっぱり無茶苦茶だ。4月は下巻を読む。
なお、アイザックソンは『スティーブ・ジョブズ』の著者で、このほかにもいろいろ伝記を書いている。個人的には、これも早く読みたいと思ってる。
(映画館で観た映画)
『ボブ・マーリー・ラスト・ライブ・イン・ジャマイカ』
https://youtu.be/O4b9Q0l6sfM?si=dNMc3J8tKYvGV3kn
久しぶりに映画で爆睡してしまった。こんなに最初から最後まで寝てたのはいつ以来だろう。
言い訳ではないが「これ、タイトル詐欺だよな」と思ったのは、ボブ・マーリーも出てくるんだけど、主軸は、ジャマイカで行われたレゲエ・フェスの単なる記録映像ってところだった。
ボブ・マーリーの他にも、ピーター・トッシュとか有名どころも出てくるが、そもそもレゲエに詳しくない自分からすると、ただのおじさんたちが次から次へと出てきて緩い歌を歌ってただけ、というあまりにも失礼な感想。
寝落ちしながらも得た知識を二つ。
① ジャマイカ人みんながラスタマンというわけではない。ジャマイカの一般人たちは、どちらかというと行儀の悪い(ルードな)ラスタマンたちを恐れているし、ドレッドヘアですらない。
② ラスタマンたちは山や丘の上の方に住んでいる。街には住んでいない。丘の斜面を利用して大麻を育てるから。
街中で大麻を育てていると警察に摘発される(← 個人的にはこれすら意外だった)
『ゴッドランド』
https://youtu.be/2OTU1Q9okTE?si=VQ3NN8Z_91F48roW
アイスランド映画。たぶん、10年くらい前にアイスランドには一度、訪れたことがあって、それ以来、大好きな国である。
首都のレイキャビクですら、非常にこじんまりしていて、国のメインストリートも300メートルくらいしかない。地理的に辺境に位置し、経済規模も非常に小さいがゆえに、マクドナルドもスターバックスもなく、いわばすべてが個人商店のため、300メートルといえども楽しいしまったく飽きなかった。
さて本題。映画としては、とても面白いんだけど、簡単には一つの像を結ばない、結ばせない映画だった。いまだにどう語れば良いのかわからない。
デンマーク人とアイスランド人の対立や差別意識、異文化衝突。自然と人間。キリスト教と死生観。そして「写真」。
特に写真は重要な位置を占めていて、なにかの暗示のようでもあるが、その絶対的な具象性が、自分なんぞの安易な解釈を頑として拒んでいるような気がする。
(YouTubeで印象に残ったもの)
小林秀雄の講演・対談いろいろ
https://youtu.be/TJHNweJHS8s?si=kMJXQOuHzuYEXFVa
今となってはなんの自慢にもならないが、小林秀雄が高校の現代文の模試やテストに出ると「ラッキー」だと思っていた。一般には難解だとされがちな小林秀雄の文章とは、なぜか相性が良くて、それだけで、このおっさん、なんか好きーだったのだ。
YouTube には意外なほど、小林秀雄の講演や誰かとの対談などがアップされている。江戸っ子らしい語り口は、それなりに心地よく、今月は珍しく眠れない夜も多かったので、睡眠導入剤がわりにYouTubeで再生していた。
なお、どの動画だったかは忘れたが、YouTube のコメント欄に「おまえ、大学入試や共通テストには一生出禁な」という若い視聴者のコメントが投稿されていて、くすりとした。
(音楽)・旅立つ(旅立たなかった)あなたへの歌
冒頭に吉田拓郎(よしだたくろう)を挙げておいてなんなんだけど、フォークソングつながりということで、詩集『バス停に立ち…』を読んだ友部正人について取り上げたい。
『夜よ、明けるな』
『どうして旅に出なかったんだ』
https://youtu.be/CeAamSNNLxI?si=peu2aaM-d2Fpoh0Z
どちらの歌も、旅立ちそのものを歌った歌でもなく、また、旅立ちを鼓舞したり祝福したりする歌でもなく、本当は旅立つべきだったのに旅立たなかったあなたのことを歌った歌。
大体の人は、旅立たないし、旅立てない。それでも、あなたが旅立つつもりなら、やっぱり、それを応援したいと思う。
友部正人のほかの曲も紹介したい!
『大阪へやってきた』
https://open.spotify.com/track/4KPPta79WzwU04fiMXVt47?si=eUeZvj2QQlOUHbq_yd1toQ
まさにトーキングブルーズ。大阪のことを歌った歌は世の中にたくさんあるけど、この歌も素晴らしい。そして大阪はひどい街だ。
『びっこのポーの最後』
あからさまにボブ・ディランだけど、あちらは英語、こちらは日本語な分、こっちの方がガツンとくる。
歌詞は寓話的で意味を紡ぎそうになるけど、きっと大した意味なんてなくて、むしろ、ひとつひとつのフレーズのシュルレアリズム的な表現の鋭さにクラクラする。冒頭の歌い出しは、否が応でもブニュエルの『アンダルシアの犬』を想い起こすよね。
今月は以上です(3ヶ月続いた!)
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