[ 鬼のコ・ドラッグナイト ] (短編小説/超短編小説)

「 酒だ酒だぁ~! 酒を持ってこぉ~い!」

「 今日はキラキラ金曜日だからな。酒が飲めるぞ。」

「 今日は土曜だ。 ドヨンとしてられないから、酒を飲むぞ。」

「 今日は日曜日だろ。酒を飲むぞ。」

「 今日は月曜日らしいぞ。」

「 何曜日でもかまうもんか! 酒だ酒だぁー!」


あらあら、 鬼達は相変わらず酒を飲んでいるわね。

うるさいったら、ありゃしない。

「 ちょっと鬼さん、いいですか?」

「 これはね、もっと気持ちよくなるクスリです。」

ナイスじぃさんは言いました。

鬼達は怪訝な顔をしています。

「 なんだこりゃあ? じぃさん、何を企んでいる!」

「 いえいえ、滅相もございません。 本当に、いいクスリでして、、、」

「 まぁ、よかろう。今夜は気分がいい。もらってやる。」

お酒をたんと飲んで気分を良くした鬼のひとりが

「 ゴックン。」

不思議なクスリを飲みました。

「 いかがでしょう、、、? なんだか、気分がよろしいのでは?」

「 ・・・ ウン 。」

おや?

「 鬼さん、気分はいかがでしょうか?」

「 ・・・ うん。 いい。・・・ 」


クスリを飲んでいない鬼達は驚きました。

「 なんだなんだ?」

「 何を飲ませた!」

それもその筈
鬼達は毎晩毎晩、酒を飲んでイライラするのを抑えているのですから。
鬼達が人間を、食べてしまわない代わりに
村人はお酒を沢山、運ばなければならないのです。

「 イライラしないってぇのは、どういうことだ。じぃさん。」

「 これは不思議なクスリでして。」

「 ほーう。 どれ。俺も一粒。 ゴックン。」

鬼達は単純です。
体が、とっても強いから
何にも怖くはありません。

「 いかがでしょう?」

「 ・・・ うん。 ・・・イイ。 」

「 ・・・ なんだこりゃあ・・・。 だんだん、眠たく・・・ 」

あぁ、よかった。

鬼達はクスリのおかげでぐっすりと眠りました。
久しぶりの静かな夜を、村人達は安堵して過ごしました。

だけども鬼達は、とっても体が強いので
どんどん効かなくなるのです。
次の日には、その効果はめっきりと無くなってしまいました。

「 おい、じぃさん。どういう事だ。」

「 はい、、、そんな事もあろうかと、」

ナイスじぃさんには、なにか案があるようで・・・?

「 こちらのクスリも、ご用意しました。」

「 やるじゃねぇか。 よこせ。」

「 ただし、コレには注意点がございまして、 明日はイライラするのです。」

「 なぁに。かまうもんか。 明日は酒を飲めばいい。」

「 それともうひとつ、お酒と飲んではなりませぬ。」

「 わかった、わかった。はよ、よこせ!」

「 ゴックン。」 「 ゴックン。」 「 ゴックン。」

「 ・・・ 」

「 いかがでしょう、、、? 」

「 なんだこりゃあ。 こりゃ、すげぇ。」

「 まるで、夢のようじゃねぇか。。」

「 お星様、あんなに綺麗だったか・・・?」

なんということでしょう。
鬼達は、目をキラキラと輝かせているではありませんか。

「 どういうこったい、こりゃ、じぃさん。」

「 これは危険なクスリでして。」

「 なんだぁ? なんだか、どうでもいいぞ。」

「 そうでしょう。明日はイライラしますから、今日はたーんと、お楽しみ下さいませ。」

ナイスじぃさんは、つづけて言いました。

「 そりゃあ、危険なクスリでして。 人間を、沢山喰った、クスリです。
鬼さん達なら大丈夫でしょう。」

「 なーに言ってんだ。 クスリが人を、喰うわけねぇだろ。」

「 ワッハッハッハ! そいつぁ、傑作だ!」

「 ところで、じぃさんって、こんなにマズそうだったか?」

「 だよな。なんていうか、興味が湧かねぇ。」


それもその筈。
鬼達がその日、飲んだのは
シンプルに危険なクスリだったのです。

「 なんだかな。 なんていうかな。」

「 あぁ。さっきまで楽しかったのにな。」

おやおや、鬼達の大きな体では
クスリの効果が切れるのも早かったようで・・・?

「 なんかすげぇ、いやな気分だ。」

「 なぁ、さっきのクスリ、もう一回くれよ。」

「 よこせ、、いや、 くれよ。」

ナイスじぃさんは、ラッキーチャンスです。
人間を食べようとしない鬼達なんて
怖くもなんともありません。
なぜなら、見た目がキュートなのですから。

「 鬼さんや、提案がありますが、、 これはなんとも言い難い。」

「 なんだよ。 言ってみろよ。」

「 モデルになって頂けませんか。 いや、実はワシは、写真が趣味でして。」

「 モデル? なんだそりゃ。」

「 ちょっとそこに横たわってみて下さいませんか。」

「 なんだよ。 こうか? クスリはくれんのか?」

「 いいショット。いいショットですぞ。」


ナイスじぃさんは、沢山写真を撮りました。
もうすぐイライラしはじめる鬼達を
それはそれは、気持ちのイイ言葉で褒め殺したのです。

「 じぃさん・・・ もうやめてくれよ・・・。」

「 恥ずかしいじゃねぇか。。」

「 だけど、 もっとくれ。」


ナイスじぃさんは、言いました。

「 ジィ様と呼びなさい。」

なんと、鬼達は

「 ジィ様。 褒めてくれ。」

「 俺達は、褒められたかったんだよ。 なぁ。」

「 そうだよな。 イライラしたくてしてたんじゃねぇ。」

「 鬼なんて、ろくなもんじゃねえよ。」

「 だーれも、褒めてくれねぇもんな。」


鬼達は、それから数日
ナイスじぃさんの言う事を頑張って聞きました。

「 じぃさん、 掃除終わったぜ。」

「 今日は野菜が上出来だ。 煮物にしようぜ。」

「 ところで、じぃさん、写真はどうした。」


「 あぁ、 アレはな。見たいか?」

ナイスじぃさんは、ナイスなアルバムを作っていたのです。
だけどもそれは鬼達が思っていたのとは、全く違うものだったのです。

「 なんだこりゃ。 半目じゃねえか。」

「 俺なんてブレてんじゃねえか。」

「 俺も、そっぽ向いてるぜ。」

「 俺達が練習で撮ったじぃさんが、一番キマッてるじゃねぇか。」

ナイスじぃさんは、したり顔です。

「 そのままが、よかったんじゃよ。 ポーズをキメているよりも、そのままが良かったんじゃ。」

鬼達は頬を赤らめて眠りにつきました。


だけどナイスじぃさんは、憶えているのです。

「 ばぁさんや。 そろそろ復讐のチャンスじゃよ。」

ナイスじぃさんは、ナイスばぁさんの写真を眺めて語りかけました。
そして、
永遠の眠りについたのです。

翌日
鬼達はナイスじぃさんの死について語りました。

「 なんなんだよ。なんなんだよ、、」

「 なんなんだ。 この気持ちはよ!」

「 わからねぇけど・・・ イライラするぜ。」

「 イライラするけど、 耐えようぜ。」

「 もう人間は、言うこときかねえ。」

「 っていうか、俺達が嫌われたくねぇ。」

「 えらそうにできねぇ。」

「 かと言って、イライラはとまらねぇ。」

鬼達は八方塞がりです。


「 クソ。 やられたか。」


鬼達は、今さら愛を知ったのです。

愛だかクスリだかわからない、
とんでもない禁断症状が、鬼達を長く長く苦しめました。

涙を流すこともありました。

「 わけわかんねえよ。イライラするぜ。」

「 まったくもって、イライラするぜ。」


時は流れ
今日は鬼のコ達のパーティーです。

「 やっべぇクスリ、見つけたぜ。」

「 パパには絶対黙ってろよな。」

あらあら、 親の因果でしょうか。

鬼は心配で心配でなりません。

「 あなた! なんとか言ってくださいな!この子ったら! highハイになってる!」

「 ママぁ~ カネ貸してぇ~ 」

「 お前が見てなかったからだろう!イライラさせんな。喰っちまうぞ!」


それから鬼達は、幾度となく思い出しました。
沢山の問題に出くわす度に、思い出したのです。



「 愛なんて、食えねぇんだろ?」

「 喰われる方が、まだマシじゃよ。」






~完~

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